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木の芽どき

 久々の三絃のお稽古に伺い、お師匠さんの「チン・ツン」のたった2音に驚いた。
 お稽古を始めた頃には聞き取れなかった「音色」の違いを感じることが出来たのだ。
 noteに「価値観」について書いた後だったので、「価値観」とか「感受性」とか人それぞれに大きく違うことについて考えさせられた。
 今回は、ご都合のため午前中のお稽古となっ たので、お昼をお師匠さんが作って下さった。
(毎回、3時のおやつをご一緒していた。
 そして、その時、三絃以外の沢山のお話を伺い
 とても人生勉強をさせて頂いている。)
 お師匠さんはお料理をして下さりながら、真愛の話にも対応してくださる。
 今日の話のスタートは、お稽古中に思った真愛の質問である。
「宮城道雄先生はお目が悪かったのでしょう?
 だから、音に対する感覚が、他の人より優れて
 いたのでしょうか。
 練習曲でも、お師匠さんが弾くとなんだか本当
 に歌っているように聞こえるの。
 私は必死に勘所を探すので歌うどころでは
 ないけど…。
 毎回、おっしゃるでしょう?
 5252ではなくて、歌うようにって、
 それって作曲者の宮城先生の目のお悪い分、
 耳が人より優れていたのではないかしら?」
なんて、意味のわからないことにも答えてくださった。
「そうね。耳が良いとかではなくて…。
   感受性?感性?って言うのかしら、感じる力が
 優れているのだと思うの。
 あゝ。鶯が初めて鳴いた!って。
 この寒い中に
 春を知らせてくれたんだって思えること。
 花もまだ咲いていなくても、薄紅色の春の風も
 感じられる人だからではないかしら?
 昔ね。私の先生(宮城道雄先生の愛弟子)の
 CDを聞きながら「八段」の練習をしていたら、 
 ふとね。
(先生、この時なんだか悲しいことがあったの
 かしら?悲しそうに聞こえるのだけど…。)
 と思ったの。
 そんな話をお茶会でしていたら、私の言った
 ことに対して
「どうして?そんな感じがするの?」
    と論理的な説明を迫られちゃったの。
 どう答えて良いかわからなかったわ。
 その方は、とっても上手にお箏を演奏される方
 なのよ。
 でも、感じられなかったのね。
 感じる力って、差があるのじゃないかしら? 
 真愛さんの答えになるかわからないけど。
 同じものを聞いても素敵と思えない。
 悲しいと感じない人もいるし、
 練習曲でも
「美しい」と感じる人もいるのね。
 私たちは、後者の方で、良かったと思うわ。」
 ダイニングキッチンから見える窓の向こうの柿若葉が美しかった。

柿若葉

「なんとなく分かる。
 ここから見える柿若葉が美しいと思えることは
 幸せなことなのですね。」
「そうなの。柿若葉ねー。
 私の母はね。この時期は「木の芽時」って言っ
 てね。樹々が芽吹くでしょ?
 だから、芽を出すために周りからの生きる力を
 みーんな樹々が吸い取ってしまって、
 人は具合が悪くなるから気をつけなさい
 って言ってたわ。」
「へぇー?木の芽時ですか?
 初めて聞く言葉です。」
「九州の昔の人だからね。
 そう、さっき言ってた「ドクダミ」だってね、
 刈り取って煎じていたわ。
 ドクダミは、可愛い「描く花」ではなくて、
「煎じ薬」だったのね。
 人の「感受性」とか「価値観」とかみんな違っ
 て良いのよ。
 ただ、それの違いを否定しちゃいけないわね」 
【木の芽どき】
 立春から「春分の日」頃までの時期は、気候が暖かくなり、草木が芽吹き始めることから
「木(こ)の芽どき」とも呼ばれるそうだ。
 木の芽どきは、気温の変化が大きく体調を崩しやすい時期のため昔の人たちは代々、病気に注意するよう言い伝えてられたと言う。
 体調を崩しやすくなる原因は様々だが、中でも注意したいのは「自律神経」の変調。
 自律神経は心臓の動き、血圧、食物の消化、体温調整など生命を維持する上で重要な身体の機能をコントロールする神経で、興奮する時に働く交感神経、リラックスする時に働く副交感神経とがあり、身体を活発にする働きと休ませる働きの両方あるのだ。
 健康で快適に過ごせるのは交感・副交感神経がバランスよく働いているためだが、自律神経の働きは、ストレスの影響を大きく受ける性質があり、心身のストレスや寝不足・天気、気候といった身近な要因が自律神経の働きを乱すのだ。
「木の芽どき」は、気候変動の激しい時期と年度末や年度始めのストレスと重なり、自律神経の乱れが身体の不調となるのだろう。

 お師匠さんのお母さんの言葉は理にかなっていたのだ。
 その話を信じるか信じないかは、やはり「感じ方」の違いのような気がする。
 昔の人の言うことは迷信だと感じる者もいれば、理屈はうまく説明できないが、経験値から「この人の言うことは信じられる」と感じる者もいるのだ。
 物の見方・考え方・感じ方。
 千差万別!

ホタルブクロの道

 損かもしれないが、自分の感じ方を大切にして
「生きたい!」と思った。

ありがとうございます。 愛しい亡き夫厚洋さんに育てられた妻「真愛」として、読み手が安らぐものが書ける様頑張ります