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結婚記念日

45回目の結婚記念日。
ずぶ濡れになりながらお墓掃除に行って来た。
「おい、おい。
 こんな雨の中来るなんて
 風邪引いたらどうするんだ。
 熱が出ても、コロナ禍じゃ
 救急車だって運んでくれないぞ。」
「だって、昨日、公開した記事の最後に
 “お墓参りに行きます”って
 書いちゃったもん。
 嘘はいけません。嘘は。」
「強情っぱりは、変わってないな!
 俺がいなくなってから、
 大分、人の話を聞くようになったし、
 人間ができてきたかなって思ったけど…。」
「ねぇ。
 褒めてくれるのは嬉しいけど、
 雨がだいぶ強くなって来たの。
 其方で、雨雲操作できないの?」
「そんなことができれば、
 災害なんて起こらないよ。
 死んだ家族が残された家族を思って
 調節するさ!
 そうしたら、もっと大変なことになる。」
「何故?」
「だって、そうだろう?
 お前のために
 俺が雨を降らさないでいることによって
 別の誰かは「雨が降らないで困る」
 と思うだろう?
 そんな事が世界中で起こったらパニックだ。
 78億人一人ひとりに希望通りの天気なんて
 絶対してはいけないこと。」
「そうね。
 自分の幸せを考えるとき
 それによって起こる「他人の不幸」も
 考えて生きていかなきゃね。
 でも、ちょっと弱めてよ。
 傘ぐらい持ってくれないの?」
「何言ってんだ。
 掃除なんかやめて、
 さっさと帰れ!」
「うん。終わり。
 お線香に火が付かない。
 背中濡れて、ぱんちゅも濡れてきた。
 あなたも濡れてるでしょ?」
「大丈夫!
 傘の中にいるから。
 ありがとう。
 直ぐに家に帰れよ。」
「ううん。
 今日は結婚記念日だから、
 スイカを買いに行くの。
 厚洋さんがいつもしてくれたみたいにね。
 あなたがいなくても、
 大切な記念日だもん。
 あなたと結婚しなかったら、
 今の真愛はいません。」
 少し小止みになった雨空を見上げて、
「あっ。お線香あげたけど、拝むの忘れた。
 ごめん。
 また来るね。」
と言いながら、車に乗った。
 毎年のスイカは、大型スーパー「いなげや」で買っていたので、そこまで行くには時間が掛かる。
 髪も、背中も、お尻も、ズボンの裾もぐっしょりと濡れて、体が冷えてきた。
 真愛は、このまま風邪でも引いたら、本当に馬鹿者だと思った。
「ねぇ。45回目にして、
 初めて『スイカを買う】のを辞めようかしら 
 あなたがいないのですもの。
 冷えてきたので、「いなげや」さんに行か
 ない。
 近くの「ODOYA」さんで、
 売ってなかったら、今年から【スイカ】無し
 それでいいわね。」
 フロントグラスのワイパーは、全力で前方を見せてくれようとするが、対向車の水跳ねが放水されているように掛かって、よく見えない。
 運を天に任すなんていうと大事の様に聞こえるが、最近の真愛の決定の仕方は、この方法が多い。
 そこに行って、お目当てのものが無ければ、「止める」のだ。
 無理をして生きなくてもいいと思うようになった。厚洋さんが亡くなって、残された人生を
どう生きるかと考えたとき、
「彼に支えられ、育てられ幸せに生きてきた
 真愛なのだから、
 彼が生きてやりたかった事をしたい。」
と思って過ごしてきた。
 しかし、956日経った今、沢山の人と話、沢山の情報を知り、
「厚洋さんは、
 自由で伸びやかな人生を送った。
 真愛と結婚して、真愛に愛されて、
 亡くなっても愛され続けられて、
 やり残した事なんてない。
 もし、やり残したとするならば、
 なくなる前に、
 お前を残して行くのが…。ごめん。
 の思いだけだったのではないか。」
と思えるようになったのだ。
 残された人間の勝手な解釈であることには間違いないが、そう思わせてくれているのも厚洋さんだと思っている。
 真愛という思い込みの激しい楽天家の発想だ。
 「おどや」さんの入り口に、【すいか】が待っていてくれた。
 小さな小玉スイカだ。
 彼の好きな「粒あんの柏餅」も買った。

 雨音の中にお鈴の音がかき消されそうだ。
「結婚記念日です。
 あなたが食べてしまったスイカ
 今年も買えました。
 毎年、あなたが買ってくれたスイカ
 あれは、結婚記念日を忘れない貴方が
 いてくれたからだよね。
 真愛をずっと愛してくれて
 ありがとう。」

 雨音が激しくなり、防災情報には豪雨が予測されると連絡が入った。
 スイカを買って帰ってくるまでの「小雨状態」からは、予想できない状況になって居る。
 結婚式のあの日。
 仏滅で、前日から大雨だった。
 来賓の挨拶で
「雨降って地固まるの…。」
枕を言われた事を覚えている。
 結婚までに色々あった二人だったので、複雑な思いで聞いた。

 マーガレットのブーケトスの時には、雨も上がり、真っ青な空が広がっていた。
 地が固まったかどうかは分からないが、確かなことは、真愛の結婚生活は「太陽に守られた青空」だったという事だ。
 このnoteは、ストーブにあたりながら書いている。
 風邪を引いたら
「だから、お前は馬鹿なんだよ。」
と、厚洋さんに笑われそうだ。

ありがとうございます。 愛しい亡き夫厚洋さんに育てられた妻「真愛」として、読み手が安らぐものが書ける様頑張ります