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119番の日 救急車・消防車

「11月9日が119番の日です。」と言われたのは、厚洋さんの満望忌9月9日だった。
 厚洋さんが亡くなる前後に、我が家は何回も救急車の要請をしている。緊急夜間病院を紹介してもらった事も含めれば、8回程になるだろう。
 9月7日にも「ムカデに噛まれて」緊急夜間病院を紹介してもらった。大変ご迷惑をおかけしたので、真愛の大好きなお煎餅を持ってお礼に伺ったのだ。
「お世話になりました。ちょうど9月9日。救急の日なので…。」と笑顔でお渡しすると、
「私達はそれが仕事ですから、お気になさらずに。」
と、とても爽やかに対応され、感激。
「で、119番の日は、11月9日です。お一人でお過ごしとの事。くれぐれもお気をつけて。」
ニコニコして挨拶された。
「あれー!119番の日もあるのですね。」
「今度は、11月9日に参りますね。」
とドタバタと帰って来たからだ。

 我が家が何度も救急車の要請や夜間救急を利用している事を書いたが、とても多いと思う。年寄りの家庭では、緊急は「死」に近くなるので、不安も多く要請してしまう。 
 最初は、真愛が交通事故に遭った時だ。現場を通過して搬送先の病院に来た時の厚洋さんが「お前が死んだら、どうしようと思った。」と泣きそうだったのが忘れられない。
 次も真愛だ。熱中症に罹り発症したのが、夜中だった。嘔吐と下痢を繰り返し、意識を失った。いつも通り晩酌の後の厚洋さんは車に乗れず、救急車の要請だった。この時も、厚洋さんは「真愛が死ぬかと思った。」と不安な顔をした。
 (この人より先に死ねない。)と思った。
 その後、厚洋さんの具合が悪くなり、入院を決めていた日より早く苦しみ始めた厚洋さんをみている事ができず、救急車での入院だった。
 病院の待合室には、
「救急車はタクシーではありません。」
と書かれたポスターが貼られていた。その通りだ。それまでにも、厚洋さんは「肺気胸」になった時も、猫に引っ掻かれて30針近く縫った時にも、蕁麻疹で震えが出た時にも、救急車は使わなかった。
 だから、「救急車は呼ぶな。もっと緊急な人が使うから。」と、呼ぶ事を嫌った。
 次は、厚洋さんが外泊許可を3日もらって、家で過ごしている時だった。再入院する時にも真愛の車で行くつもりだったのだが、たった24時間しか過ごせず、呼吸が出来なくなった。
 厚洋さんは、「呼ぶな!」と言ったが、真愛が、彼の苦しみを見ていられなかったのだ。その10日後、彼は帰らぬ人になった。
 彼が入院中にも、病室で倒れたのだが、彼が亡くなってから、真愛は精神障害・胃腸障害で激痩せした。摂食障害でもあったのだろう。嘔吐・下痢・過呼吸が酷くなり、数回、救急車で運ばれた。
 彼の法要が終わり、お世話になった消防署にお礼に伺ったのは言うまでもない。
 何度も起こるうちに、「今のうちなら、自分で行ける。」と緊急夜間病院を探したり、かかりつけ医に頼む事も覚えた。彼が亡くなって786日。心も身体も少しずつ安定して、今では救急車のお世話にはなっていない。
 更に、一人暮らしで救急車を呼べない状態になったら困るので「セコムの見守り」システムに入った。
 厚洋さんが亡くなって786日目の今日は、 11月9日。119番の日だ。
 119番の日とは、日本の記念日。
 国民の消防全般に対する正しい理解と認識を深め、住民の防災意識の高揚を図ることを目的として設けられているそうだ。
「119番の日」については消防庁によって1987(昭和62)年に制定された記念日。
1987年は自治省消防庁が発足して40周年を迎えた年であり、このことを記念して制定された記念日だ。
 この日は、「一般の人にもっと防火・防災の意識を高めてもらいたい。」また、この日から1週間は「秋の全国火災予防運動」が行われる。
 最近では家屋に使われる素材が耐火性に優れるものが多く使われるようになった事から、昔に比べてもかなり火事の件数が減っているようだ。
 しかし、秋から冬にかけては乾燥しやすくなることから火事が起きやすくなったり、そもそも暖房器具なども活躍する季節であることから、一層の注意が必要な週間だという。

 こんなに1:19番が気になるなんて「変人」かもしれないが、実は真愛の教え子さんの何人かが消防士・レスキュー隊員なのだ。
 どの子も正義感の強いリーダーだった子だ。
「俺は人の為になる仕事がしたい。」と志願したのだ。
 この子達に会うと必ず言ってしまう。
「大事な仕事。ありがとう。無理はするなと言ってもするんだろうけど、体にはくれぐれも気をつけてね。」

 私たちは、こういう人たちによって安全を守られている。病気にならなければ、事故に遭わない平穏な日々を送っていれば忘れてしまう人たちだ。
 確かに、公務員(公僕)であり、俸給をもらっているのだから当然と思う人もいるだろうが、「感謝」を忘れてはならないと思う。
 一人暮らしの真愛は、健康保持と火災予防が一番の協力なのだと思った。

ありがとうございます。 愛しい亡き夫厚洋さんに育てられた妻「真愛」として、読み手が安らぐものが書ける様頑張ります