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子育てパニック 同時に泣く

 突如、嫁からビデオ電話が来た。
 彼女は、子どもと一緒に泣いていた。

「お母さん。もうダメ。辛くて。
 2人が喧嘩を始めて、
 注意したら、大声で泣き出して、
 言うことを聞いてくれないので
 出て行けと言ってみたけど、
「御免なさい。」って言うから、やめたのに
 入って来たらまた、喧嘩して、
 怒鳴りあってしまって、
 私が出て行きたいけど…。
真愛ちゃんに電話してって言うので、
 御免なさい。
 出かける時に、御免なさい。」

 パニクってる。
 真愛から見たらいいお母さんで、いい妻で、いい嫁で申し分のない娘なのに、いつもの冷静さが無い。
 子育てパニックだ。
 

 そう言えば、真愛の小さい頃も良く母に
「もう、言う事が聞けない子なんだから、
 捨てて来ます。」
と言って、引っ張って連れて行かれ、近くの天神さまの古木(御神木だったと思う。)に縛られた。
 泣いて、泣いて謝ったが許してくれなかった。
「もう、許しません。」
の一言で、真っ暗闇の中に置いて行かれて、声が出なくなるまで
「お母さーん。御免なさい。
 もうしません。ごめんなさい。」
と、叫んだ。
 3歳ごろだったのだろう。
 なんで叱られたか、原因は覚えていない。
 怖かった闇と母が「やる」と言ったら本当にやる人なんだと思ったことは記憶の片隅にある。
 真愛も「今、嫁を困らせている孫」と同じだったのだ。
 
 母は、今で言うsingle motherだった。
 当時の差別・偏見は酷く
「片親の子は悪い子が多い」
「貧乏人は泥棒だ。」
「男に捨てられた女の子」
「女ひとりの子育ては見持ちが悪い」
「母親と同じ道を歩く」
「貧乏人は馬鹿」
「人で無し」・・・。
あげ連ねたらnote1日分になるほど言われた。
 
 母は、そんな世間に向かって、
「後ろ指を刺されるな」
「陰口を言われても真実が正しい事ならば、
 恐れる事はない。」
「正直な子であれ。」
「あなたのお父さんは立派な人です。」
「あなたは賢いお父さんの血を引いているのです。」
と抗うように、子育てをした。

 ちゃんと母の思いを受け継ぎ、父のDNAを受け継ぎ育ったのは兄だった。
 彼は、武士の子のように育った。
 私が3つ、兄が一年生の頃だった。
 兄の友達と遊んでいた時のことだ。その友達が私たちに向かって
「おい。やるよ。」
と言って、飴玉を投げてよこしたのだ。
 うまく取れなかった真愛は、落ちた飴玉を拾おうとして、屈んだ時、
雷の様に怖い兄の声がした。
「拾うな。
 投げてもらうなんて、乞食じゃない。」
いつも優しい兄なのに、毘沙門天のように怖い顔をしていた。
 真愛は、
「お兄ちゃんに嫌われた。」と思った。
「貧しいが故に拾って食べてしまう、
 そんな心の卑しい妹は嫌いだ。」と。
 この感覚は、今でも持っていて、
「大好きな兄には嫌われたく無い」だから、「兄に相応しい妹でいたい。」と思う。
 父がいなかったせいか兄は真愛の父親の存在でもあった。
 母も兄は、父の代わりのように大切にいていた。私から見ると「男尊女卑・お兄ちゃんばっかり可愛がってる」と文句を言った事があるほどだった。

 子育てで「二番目」は、手に負えないらしい。
 総じて、長子は沢山の期待と喜びに迎えられ、大切な乳幼児期に沢山の思いと手をかけてもらえる。
 だから、比較的精神の安定がし易いのだろう。「おっとりとした聞き分けの良い子」が育つ(小学校中学年まで?)
 ところが、「二番目」は、母親も経験済みの出来事なので「同じ様に…。」と考える。
 しかし、人は誰ひとり同じでは無い。
「あれ?違う?困ったな。」
と思った時に一番目ならゆっくり考えてやれた。その子しかいないからだ。
が、「二番目」の時は、上がいるから上の面倒も見なくては行けない。じっくり「二番目」向き合えなくなる。
 真愛の場合は、兄と4つも離れていたので、兄が真愛の面倒を見てくれたので、母も楽だったと思う。
 つい最近聞いた事だが、真愛は、兄と一緒にお風呂屋さんに行っていたらしい。笑笑。
 全く覚えていない。激笑。
 7つに3つなら、7つは、聞き分けの良い子だ。(母が兄を叱らなかった理由が分かる。)
 
 兄も2つ、3つの頃は、「やまあらし」と呼ばれるほど「物を壊すわ、投げるわ、色々と荒らし回った」と母が言っていた。
 真愛も兄も変わらない二、三歳だったのだ。

 だが、孫のところは、2歳と3歳半。
 こりぁ。嫁が泣かされるはずだ。
「やまあらし」と「天神様に捨てに行く子」が同時にいるのだから。
 子育てパニック。
 当然のことだと思う。
しかし、
「誰でもそうよ。当然のこと。
 いずれ大人しくなるわ。」
なんて言っていられない。
 電話の向こうで泣いているのだ。直ぐに手伝いに行ってやれる距離では無い。
 子育てパニック。ばあちゃんもだ。

 どうしようも無いまま、嫁の話を聞いた。
 聞いている間にも、あっちこっちで悪さをしているらしい。
「あっ。それダメ。」
「やめて!」
と話が途切れ途切れになる。
 彼女はいいお母さんだ。「一生懸命」に子育てをしている。
 妊娠してから、出産・子育て、全てに一生懸命だ。真愛のズボラさから考えたら、雲泥の差がある。

「ねぇ。カオちゃん。
 あんた本当によく頑張ってるね。
 偉い!だから、疲れが出るんだよ。
 イライラして当然。
 なんにもおかしく無い。
 2人が泣いて言うことを聞かなくなったら、
 大きな声で怒鳴り合う前に、貴方がどっかの
 部屋に入ってしまいなさい。」
 教員をやっている時にね。大声で騒いでいる子に大声で注意をすると更に大声で騒ぐの。
 教室騒然。
 そんな時は、真愛は、黙るの。
 厚洋さんに教えてもらった事。
 静まるまで根比べね。子ども達っていい子だ 
 から、
「えっ?どうしたの?」
 って聞いてくれる。
 そうしたら小さな声で面白いこと話すのよ。 
 まあ。学習する事が面白い・授業が楽しい事 
 が大前提だけどね。」
と怒鳴り合わない方が良いことを伝えた。

(そう言えば、真愛は、クラスの子どもが言うことを聞かないと宿直室に逃げた。籠って泣いた。「お逃げなさい。」って自分のことだった。
 真愛は、「天照大神(あまてらすおおみかみ)」だった。
 素戔嗚尊(すさのおのみこと)が来て、
 天の岩戸をこじ開けないと出てこない。
 真愛の素戔嗚尊は、クラスのリーダーだった。クラスのみんなを引き連れて、
「御免なさい。先生教室に戻って来て。」と。
 全員に言われて教室に戻り、何がいけなかったか、どうすれば良かったかを話した。
 毎度のいじけマン(真愛)は、子ども達に支えられて教員をやって来られたのだ。感謝。)


「いいお母さんで、いい妻であろうと頑張って 
 るのは感じるけど、
 どこにも貴方。
 1人の人間としてのKaoruが居ない気がする
 
 人生は、自分のために生きるものであるべき 
 だと私は思う。
 部屋に逃げて籠った時。
 「なぜ分かってくれないのか。」
 とか、
 「泣かし続けて大丈夫か」とか
 子供のことを考えるのでは無く、
「Kaoruは、どう生きたいのか。
      どうしたいのか。」
 を耳栓して考えるといいかもしれない。
 
 泣き喚いたって1時間もすれば喉が枯れる。
 外に出して危険が伴うより、安全な部屋で泣
 かせた方が良いのでは無いか?
 
 そして、少しだけ、子育て以外のことを考え 
 たら?
「子どもの手が離れたら、英語塾をやりたい」 
 とか
「パートで働いてお金を貯めてトリマーのお店 
 を出そう。」とか、
「やれなかった〇〇をやろう。その為には▲▲
 をしなくちゃ。」って、
 未来の計画を考えたら落ち着くかもしれな 
 い。
 
 子供が泣いて言うことを聞かない。
 分かってくれなくて
「嫌な母親になってしまった」
 と同時に泣いたら、
 あなたの中にあなたがいなくなる。
 
 あなたは、母ではなく。妻でもなく。
 あなたなのだから。
 
 まっ、世の中には、母も忘れ、妻も忘れ、
 己の欲望と女だけで生きている人も
 いるけれどね。」

 沢山話して、沢山聞いて、子どものことから離れた思考ができたからだろうか。
 嫁は泣いてはいなかった。
「私。そうやって考えてませんでした。」
 ここがうちの嫁の良いところ。
 うるさい姑の話を納得して聞いてくれる。
 ひょっとしたら、嫁だから良いのかもしれない。母親だったら素直になれないこともある。
 いや、女って難しい?
 男(厚洋さん)だって難しい。
 難しかった。
 
 子どもだろうが大人だろうが所詮は他者である。
 息子が私のお腹にいた時はわたしの一部だったけれど、臍の緒切って産まれたら、一個体。
「ひとりの人間」で、何を考えているかわからんのが普通・当然のことなのだ。
 心地よく過ごす為に相手を分かろうとするが、話せない、聞けない幼児ならば、尚更分からない。
 真愛なんか自分のことすら「何考えているのか」分からなくなる時がある。
 
「分かろうと努力する事ができれば、
     今は、それで良しとしよう。
  いずれ分かってくれるかもしれない。」
と、書いていて、これは厚洋さんが言っいた言葉だと思った。
 
 彼の本当の気持ちは、彼が亡くなって
809日経った今頃、しっかりと伝わってくる。
 厚洋さん。
 Kaoruちゃんの子育て守ってあげて下さい。

↑左が真愛の息子(2、3歳)。
団地に住んでいた同じ歳の子を指差して、何やら喚いている。
 「やまあらし」をおじさんに持ち、「天神様に捨てられる母」の子供である。
 その子の子ども達だ。
 子育てパニックを起こすのは、当然だ。

ありがとうございます。 愛しい亡き夫厚洋さんに育てられた妻「真愛」として、読み手が安らぐものが書ける様頑張ります