#10 久々に夜景見に行きませんか
前回の続き。
お寿司を食べ終えた僕らは車に乗った。
お腹いっぱいだ。
エンジンをかける前に一息つく。
「〇〇さん、まだ疲れてませんか?」
恋人は疲れたのかな。
それとも俺が疲れているように見えたのかな。
「ううん。全然大丈夫だよ」
恋人が暗い顔をするかと思っていたが、
明るい表情のまま言った。
「久々に夜景見に行きませんか?」
ああ、なんでこの子は僕の考えていることが分かるんだろう。僕も今日は時間的にも体力的にも夜景が見られそうだなって前々から思ってたんだ。
「〇〇ちゃん…なんで分かったの?」
「やだー!!うそー!」
恋人が嬉しそうなリアクションをする。
「今の言い方、すごくお母さんみたい笑笑」
自分で自分にツッコミを入れる。
「お母さんそんな感じなんだね笑」
二人とも夜景を見に行こうと思っていた。
偶然と思えば偶然だが、限られた条件下で導かれる思考は自然と似寄るんだろうな…とも思う。
どちらにせよ、僕らは同じ答えを見つけた。
君が好き。
車でいつもの展望台へ向かう。
傾斜のある住宅地を通る。
だんだん標高が上がっていき山へと入っていく。
そして展望台に着く。今日は誰もいない。
僕らはベンチに座り、目の前の夜景を眺める。
「久しぶりだね」
ここに来るのは2月以来だ。
来たとしても昼間だったり、
夜に来ても疲れて眠かったり他に誰かがいたり。
ここでゆっくり話すとなると1月以来だ。
まだ付き合ったばかりの頃だ。
「花の匂いがしますね。虫も鳴いてる。
木もいっぱい葉っぱがついてる。
もう全然寒くないですね」
あの時みたいに、肩を窄めることもない。
脚をぎゅっと閉じることもない。
わざわざ宙に向けて息を吐くこともない。
あの寒い夜景も僕は大好きだった。
「男の人は付き合ったら満足して冷める、
女の子は付き合ってからだんだん好きになる
って言うじゃないですか。
もう半年なのに全然そんなことないですね」
(付き合ってからは4ヶ月半くらいだが、
再会してからはもうすぐ半年だ)
「どんな男でも一年経ったら馬鹿になるって何かに書いてあったよ」
なりたくないな…
「お互いまだ(付き合いたて補正の)
フィルターがかかってるんじゃない?」
「分からないです」
「フィルターがかかってる期間が長い方が
その後も良好な関係が続くって何かで見たよ」
「そうなんですね…
前の人は冷めちゃったから…
〇〇さんはそうならないでください」
恋人の言葉に不安が見えた。
「ならないよ。
俺は全然満足してないよ。
別に不満があるわけじゃないよ?
まだ経験していないことがいっぱいあるだろうし、この先もずっと安心させてあげたい。
まだそれが全然できていない。
そこがゴールって決めるのもあれだけど、少なくとも俺のゴールは付き合うことじゃないよ…」
「クソデカ愛ですね…」
「自分で言ってて重いって思うけどね…笑」
付き合って満足する人は、その人を守りたいとは思わないんだろう。(というか、もしもその人と結婚して子供を育てたいのなら、そこで満足したら終わりじゃない??)
自分にとって、守る守らないは、究極その人と付き合っているかいないかには関係ない。僕の恋人に対する気持ちの根底にはそれがある。
恋人が僕といて幸せならそばにいるし、僕がいないほうが幸せなら立ち去る。そういうものだ。
だから今、君と一緒にいられる時間はとても幸せなんだ。
そばで守らせてもらえる権利。
それはとても幸せな権利だと思う。
続く。
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