#8 全然遠距離って感じがしないんですよね
前回の続き。
帰り道。
眠くなってからしばらくして恋人が言った。
「〇〇さんは夢をたくさん叶えてくれますね…
まだ半年しか経ってないのに
いろんなところに行ってる…」
僕にはまだ叶えられていない夢がたくさんある。
君にはずっと安心していてほしい。
僕は君の夢を叶えられるだろうか。
「叶えられたらいいな」
「もう叶えてますよ…」
続けて恋人は言う。
「まだ半年だけど、濃くて……
もう前の人の2年間を超えました」
「遠距離だけど全然遠距離って感じが
しないんですよね…」
僕に車という道具があってラッキーだった。
自分でもちょっとずるいと思った。
(でも今思うと、あなたの元彼はすぐ隣の市に住んでるんだからそっちの方が断然有利だよね…)
「そうは言っても、会った回数は全然前の人の方が多いでしょ?」
「それはそうですね」
サークル内で、君たちは実家通いグループだった。実家から電車に乗って大学に来ていた。同じ電車に乗って途中まで一緒に帰っていた。だから君たちは仲良くなって付き合った。二人でいる時間も多かっただろう。
でも、もうその2年間を超えてしまったのなら僕は嬉しい。
(すっかり忘れていたけど、その2年間を超えられたのは、君が実家から離れて一人暮らしを始めたからだ。これが一番大きい。こんな大事な要素を忘れていた。そりゃあ超えるよな……)
「もう半年経つんだね」
「そうですね」
「あえてこういう言い方をするけど、〇〇ちゃんはまだ別れて半年しか経ってないんだよ。自分からフったけど…」
「フラれたようなもんです」
「そうだよね」
「それを言ったらあなただってそうじゃないですか…」
「まあ、そうだけど」
僕も別れて半年だ。僕はフった側だ。
僕の恋は、相手が嫌いだから終わらせた恋だ。
君の恋は、好きな人が好いてくれなくて終わらせた恋だ。全然違う。
「2年付き合って、(別れて)まだ半年だから、
引き摺ってても全然おかしくないよ」
「私は幸せにしてくれる人を選びました。
自分が幸せになる決断ができたと思ってます。
そしたら大正解でした。
私を幸せにできなかった奴は
全員不幸になればいいと思ってます」
恋人はよくこの言葉を口にする。
多分5回くらいは聞いた。
自分に言い聞かせているようにも思える。
言っていることは本当なんだろうけど、
君の失恋の痛みはまだ癒えていないんだろう。
本当はフった時に「君が好き」って言ってほしかったと思う。引き留めてほしかったと思う。
その痛みが時間で癒えていくものなら、それでいい。もしそうでないのなら、僕が癒す。
もし過去の恋人でしか癒えないものならば、僕にはもうどうしようもできない。
「もう戻れないです」
「俺も戻れない…というより、
絶対に戻りたくないな。あの地獄には」
お互い元に戻れない恋をしている。
とは言っても、ある意味僕らは5年前に戻って、あの時の続きをしているようなもんなんだけどね。
君に会えてよかった。
続く。
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