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#15 こういう時間が続けばいい

前回の続き。


車に乗って走り出す。
ほどなくして恋人が言う。

「人はつらい時、入れるより出した方がいいんですって」
「昨日泣いてすっきりしました」

「涙は心の洗濯って言うよね」




「あ、24時間テレビの車がありましたよ」

「あれ、ほんと」




「100万円あったらどうします?」

「うーん、緊急性が高いのは車かな。
 あとはこの前も言ったけど脱毛かな」

「そうですね、言ってましたね。
 私は歯の矯正ですかね」
「小学生の時いろいろ言われたんで
 絶対綺麗になってやるって思いました」

君の過去にそんなことがあったんだ。
そういえば君の小さい頃の話はあまり聞いたことがない。僕もしたことがない。

「あとは私も脱毛ですかね」
「あ、奨学金もありましたね」

「あ!確かにそれ大事だ」


書いていて思った。
こんな他愛のない会話。平和な会話。
こんなふうに話せる人なんていない。
これだけでいい。
確かにここに幸せはあった。

この事実を、この空気を、この温かさを
ビンにいれて大事に取っておきたくなった。




イオンに着いた。

「あの、せっかくだからいろいろ見て回ってもいい?」

「いいですよ」

二人で店内を回る。
手を繋いでいるカップルが目に入る。
手を繋ごうと思っても、踏ん切りがつかない。


ミニチュアのおもちゃがあるコーナーに着く。
恋人はミニチュアが好きで、僕も昔からミニチュアやジオラマの類は好きだ。この前YouTubeでミニチュアを紹介してくれる人の動画を見せてくれた。
恋人の好きなアニメのグッズも置いてあった。
恋人幸せそう。


楽器店があった。久々に見てうきうきする。

「見たいですか?」

「いい?」

ピアノでちょっとだけ弾く。

「昔耳コピしたんだ」

「これなんの曲ですか?」

「△△っていうゲームの曲」

「あ、知ってます」

二人で楽譜のコーナーに来た。

「久々にtab譜見ました!」

懐かしいな。君にベースを教えていた日が。
ここから始まったんだよな。
君も思い出してくれないかな。
その後は一人でほんの少しアコギを触った。


途中上りのエスカレーターに乗った。
僕が先に乗って、後ろに恋人がいる。
僕は手を少しだけ後ろに出した。
恋人はその手を握った。

エスカレーターを上り切った後、
恋人が「はい」と手を差し出してきた。
手を繋いで歩いた。
どうして僕はあれだけ口説けるのに
手を繋ぐことができないんだろう。


目的地であるヴィレヴァンに着いた。
Aちゃんへのプレゼントを発見する。
わりと大きくてふわふわしている。
会計するまで僕が持つ。
「娘へのプレゼントを持ってるパパみたいですね笑」
ちょっと嬉しいけど、軽率にそういうこと言わないでほしい。


最後にガチャガチャのコーナーを二人で見る。

「〇〇ちゃんが好きそうなやつあっちにあったよ」

「これ可愛いですね」

「●●さんは何が一番好きでしたか?」

「俺はーー……これかな」

恋人はたべっ子どうぶつのガチャガチャを回すことにした。僕は筐体をちらっと覗く。数が少ないので次に何が出てくるかなんとなく分かる。

「"ow"って見えてるから、多分牛さんが出てくるよ」

予想通り牛さんゲット。cowと書かれている。
恋人嬉しそう。
カプセルが固くて開かなかったので僕が開けた。
恋人は牛さんをさっそくリュックにつけた。


こういう時間が
こういう日が続けばいいなって思う。

でたらめな出来事だってなくなればいいんだよ…
チャットモンチー『赤いざわめき』

目的を果たした僕らは帰ることにした。


続く。

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