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#2 平凡な奇跡

前回の続き。


午前6時半、君の町に着いてしまった。
道中眠くなると思ったのに、そんなことはなかった。

僕は仕方なく、今まで恋人と行った場所を回ることにした。

夜景を見た場所。
付き合う前に行った場所。
告白した日に行った場所。
残念ながらどこも曇り空だった。

僕はこの町の川沿いの道が好きだった。
枯草がさわさわと揺れる。
川面が夕陽できらきら光る。
鳥が川を泳ぐ。

「あ、鳥だ」
「ほんとだ」

たったそれだけの会話がとても心地よかった。
僕はこの先こんな他愛のない会話を誰としたらいいんだろう。
綺麗な景色を誰と見たらいいんだろう。
嬉しかったことを誰に言えばいいんだろう。
全部、平凡な奇跡だったのだ


朝8時、恋人にLINEを送る。
「おはよう☀
 今日10時に着きます🚗」

おはようって言うのもこれが最後だな。

僕は3週間後に花火を見る予定だった場所に来ていた。
浴衣を着た君が見たかった。
君はどんなに綺麗だろう。
細田守の時をかける少女の一幕を思い出す。


恋人から返信が来た。
「おはようございます🌞
 了解です準備して待ってます!」

いったい何の準備をするんだろう。
まあ、別れ話も心の準備が要るよね。

でも恋人はどうしてこんなに明るいんだろう…
もやもやした関係が終わるから?
それとも全部僕の勘違いだった?

ありもしない奇跡を思い描いてしまう。
思わず顔が緩んでしまう。
全部勘違いだったらいいのに。


9時半頃、恋人からLINEが来た。
「朝ごはん召し上がりましたか?」

「ううん、食べてないよ!」

「そしたらコメダにでも行きませんか☕️」

ああ、そうか。
コメダに行くから準備が必要だったんだな。
僕はコメダでフラれるんだな。


あの日君と再会したコンビニで待ち合わせ。
僕は先に入って飲み物を買った。
君の分と僕の分。

僕が会計をしている間に、恋人が店に入った。ATMでお金を下ろしている。
僕は気づかないふりをしてそのまま外に出た。

店の前の手すりに腰掛けて待つ。
そわそわしている。
手の置き方も変にこだわってしまう。
冬はあんなに楽しみに待っていたのに。
僕は向かいの家をぼんやり眺めながら、平気そうなふりをして待った。


後ろから君が現れた。


続く。

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