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ナートゥをご存じになった方に知ってほしい「ここがすごいよRRR」

はじめに

 前作をRRR未見の方向けに書いた。100スキついたら需要ありと判断して次作書こうといっていたが辛抱たまらずこちらを書いている。誓い?私インド人じゃないから笑。

 RRR初見の衝撃は前作で書いた通りだがマジとんでもなかった。それから1週間、時間的に週末にしか観に行けなかった私はRRRが観たくて観たくておかしくなりそうだった。後にインタビューでラージャマウリ監督が「2回観てもらいたい映画」っていってたの見たけどそうなの2回見て確認したいことがいっぱいあった。何といっても今度はラーマ目線で観たかった。

 そして時間があればRRRのことを考えたり調べたりするようになった。例えばインド神話とか少し調べただけでも「そういうことだったのか!」と理解が深まりより一層RRRの世界に没入できた。
 そして今や10R。でもまだまだ観たいしまだまだ発見がある。何も知らなくても最高に面白いが知った上で観るとまたさらに面白い映画、それがRRRです。前置きが長くなったが、ここからは狂人の私が調べた「ここがすごいよRRR」をナートゥご存じのみなさんにお知らせする。非常に長い。がんばれ。

レスキューシーン

 初見で度肝抜かれた列車事故の少年レスキューシーン。すごいけどなんでこれこんな助け方だったのかな、なんでビームこっち側でラーマあっち側だったのかな(伝われ)って素朴に考えたわけですよ。そして気づいてしまった。

 ビームが少年助けるのはマッリを助ける暗示で、ラーマが国旗持ってるのは祖国を救いたい大義暗示。ビームから受け取った少年を放すのはラーマがマッリを逃がす暗示。
 炎から戻った国旗持つビーム(大義理解)とラーマがっちり握手、つまり共闘。二人の運命の暗示シーン。

 これ気づいたとき震えました…!
 監督インタビューで「川の上の少年は危機に見舞われている当時のインドで、二人が手を取り合うことによってのみ国が救われる」というのを後に読んだので大方合っていると思う。あぁ深い、深いよRRR!!
 ちなみに国旗って急にあったわけじゃなくて、列車事故起きる前の橋の上カットで「マンデーマータラム!」っていいながら歩くデモ隊がいて。で列車事故起きたからたぶん旗置いて慌てて逃げた風になってるんですよ。そうゆうとこ細かい。馬もバイクも都合よくあったけど笑。ヴェンカテスワルルおじさんはきっとそのデモ隊ら市民を避難させていなくなったんだと思おう。

 ここからは私の推測(妄想)なんだけど、振り子になってるのもメタファーで二人の心情を表してると思う。近づいて、離れて、また戻ってがっちり握手。もうこの助け方以外にありえないと思いませんか皆さん?

 さらにいうと、レスキュー後の二人は蒸気機関車の通る橋の下
→蒸気機関は産業革命の象徴、つまりイギリスの支配下という暗示
 監督スタンプ押される最後のシーン
旗を掲げるビムラマは明るい空の下
→イギリスの支配から解放されたインドの未来を示唆


 全部私の推測だけど、深い、深いよRRR…!!

ドスティシーン

 そして始まるドスティ期(Dosti、友情、絆の意味)。ここだけで5時間くらい欲しいしなんなら一生見てられる。
 私は初見でこのシーンの人の多さに驚いてさすがインド!と思った記憶がある。人間ピラミッド、すごくないですか?で、きっとなんかのお祭りなんだろうなと思って調べました。

 ビームとラーマが出会った日はインドの神様クリシュナ神の生誕祭(ジャンマシュタミ祭 )。日付はインド暦で毎年変わるが8月か9月(2023年は9月6日)。空中に高く吊るされたダヒハンディと呼ばれる壺まで人間ピラミッドを組み、壺を割ってお祝いする。壺の中身はクリシュナ神が好きなバターやヨーグルト。なおクリシュナ神はヴィシュヌ神の8番目の化身で青い肌の好色な美男子、愛の神様とされている。妻が1万6千人!
 ナートゥのダンスパーティの日が招待状より2月14日につき、ビーム(アクタル)とラーマは約半年友情を深めた。

 お祭りのこと調べたらドスティ期の期間もわかってしまった…。半年って長いようで短い。アクタルがいってた「兄貴との日々は俺の宝だ」って余計泣ける。半年間に起きたこと円盤で全部見せてほしい。いくらでも払います。

クリシュナ神

 アクタルの家に招かれるラーマ。最初のカットにはいないがスワルルおじさんも招かれてるから気をつけろ。地味にしばらく気が付かなかった。
 左手で元気よく食べるアクタルを眩しそうに見つめるラーマ。ここ2回目鑑賞時の号泣ポイント。てかよくラーマ泣かないなと思って見たら泣いてますラーマ涙ぐんでます。IMAXの方がはっきり見えた。

 とんでもない大きさの肉塊を担いで歩くアクタル。これ明らかに牛の足なんですが、インドで主な宗教であるヒンドゥー教は牛が神聖な生き物であるため食べない。じゃアクタルなんで、と思うところですがはい思い出してください。

 アクタル(ビーム)は最初トラを倒した後白い衣服を着て目の下に黒いのを塗り白い帽子を被って街にやってきた。これはイスラム教徒ムスリムの格好。ムスリムは牛肉OKにつき猛獣のエサの運搬をしやすかったためアクタルはムスリムに扮した。
 ちなみにヒンドゥー教徒はインド総人口の約8割、イスラム教徒は約1.5割。


 アクタルは肉塊をラッチュに渡し、ラッチュはシューターみたいなところに肉塊を落とす。その際ガォーって聞こえてラッチュビビりながら扉を閉める。その扉の下に虎などの猛獣を隠してるんだと思われます。てか鹿もいたよね一緒にして大丈夫?その辺細かいことは気にしないで笑。
 ちなみにラーマがラッチュの似顔絵をアクタルに見せようとしたとき、アクタルが手を顔の前に持ってきて誰かに挨拶するのだがあれもムスリムの挨拶だそうです。

 ラーマの本だらけの部屋へ行くアクタル。ラーマは疲れて眠っている。扇風機を当ててやり辺りを見回すアクタル。
 このときの表情からアクタルが文盲ということがわかる。中の人タラクさんの演技力よ…!ラーマもそのこと知ってか日記丸出しで寝てるの、アクタルにそれだけ心を開いてるメタファーになっていて、とても切ない。

薬草とお祈り

踊るシヴァ神
ナートゥみたいだ

 ナートゥ後ラッチュ拷問の際毒蛇に噛まれてしまうラーマ。自分が死ぬと思って最後に会いに行ったのアクタルなの泣ける。気づいたアクタルはラーマを救おうと薬草をこしらえる。これその辺の葉っぱだけれどインドって毒蛇多いから本当に薬草を植えているものらしいです。熱々の石炭にあてた薬草飲まされる時の嫌がるラーマの表情がたまらない。

 ラーマは薄れゆく意識の中でシヴァ寺院にお祈りするアクタルに疑問を持つ。偶像崇拝禁止であるイスラム教のムスリムだと思ってたアクタルがヒンドゥー教のシヴァ神にお祈りしてる?え、なんで…?となるわけですね。

 ちなみにシヴァ神の乗り物である牛ナンディンがあるのでシヴァ寺院とわかります。シヴァ神はインド3大神様の一人で破壊神。猛獣アタック前に破壊神の前で作戦会議、いいよなぁ。
 そしてアクタルが取り出した契り紐でアクタルこそが探していた羊飼いと気づくラーマ。ここラーマ一言も喋らないのに表情だけで全部見せるの本当にすごいし切ない。

 ラーマの部屋でアクタルが素性を告白しラーマの気づきが無情にも決定的になる。ここ天蓋に隠れてるアクタルが現れて一言「アンナ」。ずっとヒンディー語もしくはウルドゥー語の「bhaiyaバイヤ(兄)」呼びだったのに初めてテルグ語の「annaアンナ」呼びをするのが自分の正体を明かすこのシーン。

 ビームのゴーンド族は全員を兄弟って呼ぶ習慣があるからアンナ呼びってもう家族ということ。ここのカメラワーク、演出秀逸すぎて泣ける。てか私も泣くがビームも泣いてます。これもIMAXでよく見えた。各種涙や舌ペロやウインクが見えるIMAX、その価値たるや差額料金なんて実質無料だから絶対見てほしい。というか早く復活してくれ札幌IMAX。復活するまで一生言い続けるど(※2023年9月8日に1週間限定で復活!最高すぎましたまた復活して!一生言う)。

コムラム・ビームド

 話は飛んだがコムラムビームド。飛んだのは猛獣アタック。猛獣アタックのときのラーマの火の馬車、脈絡ないと思ったんですがこれもインド哲学の話だそうです。長くなるのでまたの機会に。RRRは全て意味があることに調べるたび驚く。

 コムラムビームドの始まり、風が吹いてビームは自分を取り戻し歌い出す。これはビームのキャラクターとされているインド神話ビーマ王子及び神猿ハヌマーンの父がどちらも風の神ヴァーユであり、ビームは風属性でもあるから。

 これも気づいたとき震えたやつ…!このシーンの風はとても印象的なのでそういうことか!と思った。私がインド人なら当然わかって猛烈テンション上がるところなんだろうな。インド人じゃないけどこのシーンはビームの中の人タラクさんの神がかった演技に何度見ても泣いてしまう。対するラーマの中の人チャランさんのものすごく抑えた演技にも。RRRは演技合戦でもあります(断言)。

 RRRでは重要なシーンで風が吹く。ラッチュの似顔絵は風で水溜りに落ちるし、鞭打ちの夜ラーマがビームを逃すと決めるシーンでは風がラーマの髪を揺らす。ビームがシータと出会ってラーマの素性を知るシーンでは風がびゅうびゅう吹いている。風は変化が起きる前触れ。

クライマックス

 RRRのクライマックスって5回くらいあるからどこだよって突っ込まれそうだけど森です。ラーマが神化するところです。さらりと神化といってるけど説明します。

 ラーマは実在のインドの革命家、アッルーリ・シータラーマ・ラージュがモデル。写真の通り神化ラーマ瓜二つの格好だが実際にこういう姿をしていた。そしてラーマ・ラージュが参考にしていたのはインド叙事詩ラーマーヤナの主人公ラーマ王子。ラーマ王子はヴィシュヌ神の化身とされ弓使いで百発百中、矢筒の矢は無限。オレンジの袈裟、妻はシータ姫。もちろんラーマはラーマ王子もモデルとされている。

アッルーリ・シータラーマ・ラージュ

 ラーマ・ラージュは先住民を率いて武力で革命を試みた英雄。最期は捉えられ銃殺刑となり25歳の短い生涯を終えた。
 私はインドの活動家は非暴力のガンジーしか知らなかったのだけど、インドで戦った革命家たちがいたのをこのRRRで知った。最後のエッタラジェンダにも8名の英雄が出てくるがパンフレットに詳しく載っているのでぜひ読んでほしい。老眼にはキツい字の小ささだったがすごい情報量です。
 ラーマ神化したっていってるのはラーマ・ラージュでありラーマ王子になるってことなんですよね。そら強い。神だもの。足も治っちゃう。実在のラーマ・ラージュもカリスマ的存在で神格化されてたと言われています。

 ビームは実在の革命家コムラム・ビームがモデル。実際にゴーンド族の出身。写真はエッタラジェンダの合間に出てくる村に戻ったビームの姿そっくり。
 またビームはインド叙事詩マハーバーラタに出てくる英雄ビーマもモデル。超人的な怪力の持ち主で武器は棍棒(RRRでは槍だったが)、大食漢。
 さらにインド神話の神猿ハヌマーンもモデル。ラーマーヤナでは何度もラーマを助け、胸の中にはラーマとシータがいるほどラーマが大好き。ラーマの弟ラクシュマナが大怪我をしたとき薬草を探してこいと命じられたけどわかんないから山ごと引っこ抜いてきた逸話あり。おかげでラクシュマナは助かった。

コムラム・ビーム

 というわけでビームもキャラ設定完璧だからビームの薬草は最強なんだと私は腑に落ちたけど皆さんはどうか。ラーマが大好きっていうのも激しく納得だし怪力だからバイクぶん回しちゃうのね…!とかいちいち納得してしまった。このあたりはインド人なら当然知ってるインド神話でこのシーン観たらやんややんやの大喝采だよなぁと思った。神様二人が共闘してるんだもの、それもイギリス相手に無双!インド人がうらやましいが、いや日本人の私でも大喝采だったな。最高。

ハヌマーン

エンディング

 エッタラジェンダが幸せすぎて毎回記憶が飛ぶが見どころがたくさんある。

 ビームがマッリと共に村に戻り、マッリの母親ロキの歓喜の「マッリ!!」で物語は終わるが、実は最初のセリフもSTORRRYの文字と共に聞こえるロキの悲鳴「マッリ!!」。

 これすごくないですか?本当に練られている。イギリス総督倒しちゃう話だけどあくまで少女奪還物語でもあるっていってるような。RRR、すごいしか言えない。

 同じシーンでラーマが血文字で書いた旗を見上げるビーム。字幕に「水と、森と、大地を」と出て観客は初めてその意味を知るが、これは実際に革命家コムラム・ビームが使っていたスローガン。

 つまりいわんとしていることは、これから二人の革命家の本当の戦いが始まるということなんだと私は受け取りました。これまた深いなぁ…!
 実際にはコムラム・ビームは読み書きができたそうでその部分に対する批判があったらしいが、私はラーマに「読み書きを」というビームを見てそうだよ何よりも学が大事だよと思ったし、インドに対する監督のメッセージなんだろうなと思ったが皆さんはどうか。

 2014年6月2日、インドでアーンドラ・プラデーシュ州から分離する形でテランガーナ州が独立した。
 アッルーリ・シータラーマ・ラージュは現アーンドラ・プラデーシュ州の出身、コムラム・ビームは現テランガーナ州の出身。同じテルグ語を話すが政治的に対立する二つの州出身の英雄が力を合わせる映画、それがRRR。

 監督が一番伝えたかったのはこの点じゃないかと思っている。インドは多言語国家で日本人には知りえない文化の違いがあるけども、でも「汎インド」を掲げる監督が伝えたかったものは、立場の違う二人の揺るぎない友情なんだと思う。それってどこの国の人にも響くテーマなわけで、だからこれだけ世界的なヒットに繋がってるんだと思います。そして私は何度でもこの二人の友情を見たい。

 ちょうど昨日6月2日に、チャランさんがテランガーナ州独立10年をお祝いするツイートをしていたけど、チャランさんが演じたラーマはもう一つのアーンドラ・プラデーシュ州の出身なわけで、考えすぎかもしれないけどあえてこのツイートをしたのかもと思った。

 監督は「特に伝えたいテーマはない、楽しんでくれればそれでいい」ってインタビューでよくいってるけどRRRはこの通りものすごく深い映画だからね!何も考えなくても楽しめるけど噛めば噛むほど味が出るスルメ映画だよ!だからはまっちゃう誰か助けて!ってこれ読んでる人も同じ沼の住人だと思うから助けてはもらえない笑。「これからも一緒に沈もうこの沼に」(ジンペン心からの一句)。よくここまで読んでくれました拍手!

 二つの州の話はこのインタビューで監督が話しています。そもそもビムラマが出会ったデリーはヒンディー語がメインだけど二人はテルグ語が母語の同郷ということもあり親友になった。ヒンディー語とテルグ語は通訳がいないと全く通じないほど違う言語だそうです。通訳、いたね。


あとがき

 登場人物が首を左右にフリフリしてるの、あれはインドのYESです。

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