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異次元間捕物帳

何らかの手段やきっかけにより、解放された想念のエネルギーの行方を気にする者はあまりいないかもしれない。一部の想念は、個人から解放されてそれでお終い、というわけではない。解放後も人知れず、消滅や還元へと、いくらかの過程を辿ってゆく。

比喩として、どんな思考や感情であれ大切なものであり、掛けがえのないもの、と信じる方にとっては好ましい印象を持たれないかもしれないが、この現実世界でも、捨てられたものはゴミとなり、ゴミ箱から回収され、様々な業者の手を経て、廃棄や再利用の形へと至る。また、形のないデータも同様、消去すれば一旦、ゴミ箱に送られ、更なる過程を経て、ハードディスクから完全に消滅する。

実は異次元にも、そういった過程を担う “業者” が存在するということだ。そんな業者と、あるオペレーションに関わることで、今まで経験のなかったレアなケースがあった。因みに、オペレーションとは主に星の仲間たち、あるいは、その時々で他から派遣される専門家たちと協力して行なう大規模な作戦だが、私は総称して “捕り物” と呼んでいる。

具体的には、様々なトラップを仕掛け、当初の無害だった想念から、何らかが原因で、危険なレベルにまで変異を遂げてしまった想念 (=思念体)を捕獲したり、一網打尽にする作戦である。これまでも様々なタイプの捕り物に参加し、時に自身で考案したアイデアを取り入れたこともあった。

今回は、とある中間域の、言わば空き地のような次元領域に、作戦に適した環境を設置し (実際に建造したわけではなく、当該者に認識の錯覚を引き起こす、一種のホログラムのようなもの)、共通してその場所に愛着、執着のある思念体が集まってくるのを待ち構えて捕獲する、という算段だ。

この世的に例えるならば、意図的に心霊スポットをこしらえるようなものか。しかしあろうことか、近隣の領域一帯への、作戦に関する事前のアナウンスを失念していたらしく、空き地に不審なものがあることを探知した “掃除屋” の業者が来て、作戦中の我々が息を潜めて見守る中、大胆にも建物群の解体 (=ホログラムの消去) を始めてしまったのだ。

作戦遂行に支障をきたすため、急いで業者に事情を伝えに向かったが、私たちも本来の姿から変装 (化体) していたため、星の盗賊団か何かに間違われてしまい、誤解を解き、作戦を継続するのに苦労したものだ。因みに業者は委託だったため、元締めの雇用主に直接、オペレーター側から再通知する必要があったりと、意外と次元間の統制が取れているようで取れていない悲喜劇に苦笑いを禁じ得なかった。

トラブルはあったものの、オペレーションは無事完遂され、私も意識を現実次元に戻し、一息ついた次第だ。戻るや否や、とても印象的で象徴的なニュースを目にした。30代の女性が歩きスマホをしながら線路に入り、自分がどこに立っているかさえ分からないまま、そのまま列車に轢かれてしまったという。

思いに閉じ込められた彼女、いや、彼女であった思いそのものに、凝視するスマホの画面から顔を上げさせるには、どのようなホログラムを見せるのが得策だろうか。遮断機の上がった線路の先の見慣れた帰り道か。あるいは、自分の帰りを待つ家族のいる家の光景か。しかし残念ながら、そのホログラムにさえ気づかないかもしれない。

人は生きていながら、ほぼ無意識であることの危うさを想像できないかもしれないが、せめて立ち位置を知り、気づいている必要はある。私たちは起きているようで、深く眠っているのだから。

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