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辿り着けない祠

先の記事で取り上げた、“捕り物” と呼んでいるオペレーションとは別に、単独、あるいはペアで行なう小規模な作戦を、ミッションと呼んでいる。

日頃、ミッションの方が圧倒的に数が多く、舞台も、どこかの辺境の異次元ではなく、他ならぬこの現実、人の世であることが常だ(ただし大抵、ある程度の時間と空間は越える)。

今回も、まずは夜間飛行にて目的地へと向かった。事前に、ペアでの潜入捜査という形が告げられていたので、合流地点に向かうと、そこにいたのは珍しいパートナーだった。彼女は、〈七つの星のお姫さま〉の直属の管轄にあり、何らかの研究に携わっていると、以前に聞いたことがある。

おそらく、今回も彼女なりの研究のフィールドワークとして志願したのだろう。そんな甘いもんじゃないぞ、とガツンと言いたかったが、言葉を発するより先に、彼女からミッションの段取りを思念で伝えられ、対象となる “若者” の一行を待つことにした。

森の入口に集まってきた数人の男女の若者に、今回のツアーの応募者という前提で、私たち二人も彼らに自己紹介し、顔合わせを済ませたあと、森へと入っていった。それはツアーとは名ばかりの、怖いもの見たさで企画された、ある曰くつきの場所を訪れるという肝試し的なイベントだった。

企画内容として、森のずっと奥に深い洞窟の穴があり、その最深部には〈祠〉が祀られている。決まり事として、その祠まで一人で進まなければならないという。私たちを含む若者の一行は、地図を見ながら暗い森をしばらく進み、ようやく件の洞窟を見つけることができた。

イベントの幹事らしい、皆を引率している年長の男性が洞窟の入口に差し掛かると、「ではここからは一人ずつ行ってもらう」と皆に告げ、「先輩として一番は後輩に譲るものだ」 と誇らしげに言いながら、一人の怯えた男子を指名し、「お先にどうぞ」と洞窟の外から見送った。

先輩から懐中電灯を持たされ、いやいや進む男子の後ろ姿が外から見えなくなってから少し経った頃、彼らが洞窟に入る順番を決めていると、意外と早く、先ほどの男子が戻ってきた。

まさか怖くて祠まで行かず、途中で逃げ帰ってきたな、と先輩が問い詰めると、男子は「洞窟の先をしばらくまっすぐ進んだんですが、なぜか気づいたら、自然と入口に続いていたんです」と、嘘偽りなき眼で先輩に訴えた。

半信半疑な先輩は、「しょうがないな。じゃあ次の人どうぞ!」 とジャンケンで負けた怯える女子に目をやり、彼女も同じように恐る恐る洞窟内に入っていったが、やはり先ほどの男子と同様、少し経ったあとに入口に戻ってきてしまった。

結局、その後も数人、同じ現象が繰り返されたあと、祠なんてデマで、洞窟はそういう作りになっているんだと先輩が結論付け (自分では入っていない)、白けムードの中、私たち二人の順番が回ってくる前にイベントはお開きとなった。

帰り際、この一連の出来事に隠された真意を漠然と理解し、パートナーに目配せすると、(彼らは気づいていないの。全員この世になく、飽きずに何度もこの出来事を繰り返しているのかを) と、自身の理解を補足するかのような思念が直ちに届いた。

(彼らを “ここ” に閉じ込めている大元は、やはりあの洞窟の奥の祠にあるわ。彼らは祠の “主” を連れ帰っている。というより、祠自体の中を今でも彷徨っていると言ってもいい。解散したらあとで二人だけで戻ってきましょう)

イベントに参加した若者たちは、未だ自分たちが洞窟にいることを知らず、それぞれの帰路に就いた。そして私たちは再び洞窟を訪れ、祠へと向かった。

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