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『ディアブロ Ⅳ』を聴いて

まず、ディアブロを知っている方からすると、記事タイトルが変に思われるだろう。「遊んで、じゃないのか」と。ところでディアブロと言えば、四半世紀前のフランス滞在中、大学で知り合ったフランス人の悪友から紹介され、初めてその存在を知った。

初代が発売されて少し経った頃で、当時、PCで論文を執筆する傍ら、息抜きでディアブロをプレイしてみたものだ。いわゆるハクスラゲームの先駆けで、初代以降のシリーズの経緯は知らなかったが、現在は四作目が発表され、好評発売中だ。

ところで私はゲームは全くやらないが、やらなくても細かい内容が分かる、という特技を持っている。たまたま別件でYouTubeを検索していると、海外のゲーム配信者のチャンネルが目に留まった。それが他でもなくディアブロ IV であり、気になったのは、十代後半の若い女子が実況配信していたことだ。

大抵は、主に紳士諸君がゲーム配信しているのが常である界隈、少し舌っ足らずで、発音が難しい言葉を噛みながらも頑張って駆使し、息も絶え絶えに解説している女子の姿に驚嘆と感銘を受けた。何より、その含みある声が印象的だった。

私は特段、声フェチではないが、その女子の声(英語)は珍しく、ずっと聴いていたいと思わせる不思議な魅力があり、それ以後、部屋で集中の必要のない内職中は、音楽の代わりに彼女の配信を聴きながら、が日課となった(画面はほぼ見ない)。

当初、英語の聞き取りのレッスンも兼ねていたが、説明の八割はまず日常で使えない言葉(ゲーム専門用語)で占めていたので、ほどなく単なるBGMとして耳を傾けるようになった。先述したように、ゲームをやらなくても内容が分かる特技ゆえ、解説など聞こうものなら、もはやそれはプレイしているのと同じ、いや、それ以上だ。

彼女の舌っ足らずな解説を聴きながら、「そこはユニークに頼るより、レジェンダリーに適切な化身を付けて、パラゴンのグリフを変える方が、総合的にステータスが上がるんじゃないかな?」などと時々、一人で画面越しの声に横槍を入れている。

ディアブロに限った話ではないかもしれないが、ゲーム配信者というのは、ここまで追求するものなのかと、彼女の解説を通し、いつも驚かされている。それは市井の研究者と表現しても何ら遜色ない仕事ぶりで、その研究成果をもとに、確実に論文の一つや二つは軽く書き上げられるだろう。

とにかく、〈いかにキャラクターを強くするか〉の一点において、ゲーム内に散りばめられたあらゆる要素を加味し、様々なバリエーションを試みては、検証していく… そしてダメージが1でも上がれば、それは研究の大成なのだ。即座に「これでもっと強くなれる!」の最新動画が上げることだろう。もはや制作者らの意制も遥かに凌駕しているに違いない。

確かに解説を聴いていると、ビルドを構成する上で、無限にも等しい組み合わせが可能となり、その一つ一つの要素を数値化し、算出していくという気の遠くなる努力を垣間見るし、ゲーマーじゃなくとも、素人なりに容易に想像できる。件の女子はきっと、学校の勉強へのエネルギーを全てディアブロ研究に注いでいるんだなぁ、と感心さえしてしまう自分がいる(学校の勉強も優秀かもしれない)。

さて、彼女の解説によると、来月、ディアブロ IV がシーズン6を迎え、Vessel of 何とかという大型の拡張パックが発売されるという。私は一切やらないが、舌っ足らずな女子が、新エリアのナハントゥを駆け巡る声を楽しみにしている次第だ。

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