見出し画像

厳冬期パスハンティング - 標高2,410m 中山峠 -

■序文
前回の日本最高処「野天風呂」にて一時は満たされた冒険心だが、やはり先輩達のように峠を制したい。
そんな気持ちから小淵沢から茅野辺りでテント場もあり、その近くに手頃な峠は無いかな…と探してみたところ…黒百合ヒュッテが見つかった。峠もキャンプ場から近い。何より茅野駅からライドしても22kmで唐沢鉱泉に着き、そこから押し担ぎを3.5kmすれば済む…とGoogle先生とYAMAP先生が言う。
こうして目的地も定まり、本番に向けて情報収集を始める事にした。

■準備
黒百合ヒュッテは水場がない。雪を溶かして飲むらしい。当然したことは無い。調べると
・ビニール袋に雪をたくさん詰める(テントを出入りしなくて済む)
・雪を溶かしてお湯にするには大きめのクッカーが必要
・多少は最初に水があるとお湯を作りやすい
・雪の中の不純物を取り除くために濾過するものが必要
という事がわかった。
それ以外は特に気になる点は無かったので前回の装備の見直しを行った。

■前回の装備の見直し
1つ目はハードシェルのズボン。ライド中に動きにくいとかそういう点よりは、かなり荷物になる。500gくらいはあるし、使うまでバックパックに入れて背負わなくてはいけない。冬の八甲田でもレインパンツで済んだ事を考えると、ここはゴアテックスのレインパンツで軽量化を図った。
・ミドルレイヤーはYAMAP別注のポリゴンパンツ
・ベースレイヤーはFinetrackのウォームベースレイヤー

2つ目はテント。前回のテントはNemoのTracker1P。スカート付で4シーズン対応かつ1kgと申し分が無いが、半自立式に近い。今回の黒百合ヒュッテは真夜中に爆風の予報もあり、Tracker1Pでは心もとない。そこで頑強な雪山にも最適なHillebergSoulo(2.2kg)を採用した。重さだけが悩みだが、各種装備を見直す事で前回程度までには重量は下げられるはず。
・純正グランドシートは今回は見送り

3つ目に着替え。一泊二日である。基本、着替えは無しにしてグローブと靴下の予備、テント着のパタゴニアの名作ナノパフジャケットだけにした。この結果、ベースウェイトは7kg弱となった。

最後に食料。前回は5食+補給食を持って行ったが全く食べなかった。7割は残したので、大幅に減らした。前回大量に買ってしまったチョコと柿ピーは今回もメインの補給食(前回の1/4)にし、カロリーメイトを追加した。

そこに輪行袋や自転車工具を入れて、-10℃対応で総重量10.3kgならそれなりに頑張れたと思う。

愛車は約9kg+バックパックは約10kg

■1日目
茅野駅から唐沢鉱泉まで約23km、獲得標高1,104m。後半が急激にきつくなるし、最後5kmくらいは氷に近い雪路。だが、こちらの方がスパイクタイヤは走りやすい。

スパイクタイヤなら苦にはならない

唐沢鉱泉に着いた頃には雪が本降り。ここでワイヤースパイクとゲイターを取り付けた。いざ、進軍である。

スタートして数分で嫌な予感がした。
「あれ、この道ってヤバくね?」

前回とは比較にならない細い道

勾配もかなりきついが、人一人通れるくらいの道しかない。頻繁に愛車を担いで登るレベルが無理な急勾配に遭遇する。
「これ、不味くないか…?(汗)」
孤独な時は、この悪い方向に物事を考えると一気にやる気が冷めていく。しかし、地図を見ると目的地は3km程度だ。
「時速1kmでも3時間で着く。ここは我慢だ」
と押して、担いで…と繰り返していくうちに初めて登山者の皆さんに出会った。当然、愛車を見て驚かれ、いつもの会話に。そんな会話も不安な時は本当に元気づけられる。人混みを避けて山へ来たのに人に出会う嬉しさ。

中間の目的地である渋の湯ルートと唐沢鉱泉の合流地点へ着く。

誰かと出会うかな…と期待したが…

時間にはまだ余裕があったので、ここでしっかりと休憩する。自宅で沸かした白湯が本当に美味しい。後は水の要らない補給食も取る。
「引き返すなら、ここで判断だなあ…」
まだまだ弱気な気持ちが先行する。全身汗だくで寒さは全く感じないが、既によく愛車で峠を登るときの脚が売れきれてる感覚なのだ。長めの休憩を取り、覚悟を決める。
「あと1kmちょっとだ、たぶん…もう急勾配はそんなに無いだろう」

確かに急勾配で愛車を担げないような傾斜は無くなり、次第に森林地帯を歩くようになるが、今度は風が強くなる。時折、頭の上から雪が落ちてくる。
「いよいよゴールに近い兆しだろう、頑張らねば…」
強い風と横殴りの雪、そして落ちてくるドカ雪。
それに耐えつつも先に進むと次第に開けた場所が見えてくる。
そう、黒百合ヒュッテだ。
その喜びもつかの間、爆風で一瞬舞い上がった雪がヒュッテを覆い隠す。
「テント張るのきつそうだなあ…でも、やっぱりHillebergSouloで良かったかも…」
とか頭で考えながら、山小屋の受付へ向かった。

除雪車があった。どうやって運んだんだろう…

■黒百合ヒュッテ
受付のお姉さんが 「じ、自転車で来たんですよね?」 と予想通りの反応。
これまたいつもの会話をしつつ、無性に飲みたくなった濃い目のカルピスを注文して一気に飲み干してテント場へ向かった。

HillebergSouloの設営は簡単だ。アウターとインナーが既に一体化しているので、アウターの外側からポールを差し込めば終了。問題はペグだ。深夜の強風を考えれば、そこそこ補強したい。ToaksのVペグは横幅があり、雪を深く掘って差し込んで雪を足で踏み固めれることでしっかり固定できた。

HillebergSouloとPinarelloGrevilFのコラボレーション

ここまでの作業で既に16時半を回り、テント内の寝床の準備を始めた。1つだけ前回より配慮したのは登山靴だ。結露や雪で濡らしたくない。持ってきたビニール袋で早めに包んで保管した。

夕食はカレーメンのハヤシライス。モンベルやら登山や災害用の食材はそこそこ食べたが味が合わないので、もっぱら手抜き自炊はカレーメン。お湯作りが最初のハードルだが、意外と簡単だった。私は固形燃料派だが、FireDragon27gで雪から500mlのお湯が作れた。半分はサーモボトルに入れて夜の白湯としつつ、半分でカレーメンやスープを作った。

八ヶ岳の氷を溶かして水を作る

食事の後はすぐに寝た。とてつもない疲労感も理由だが、やはり先輩たちの言う「早めに寝ろ」を尊重した。19時半には寝たと思う。
が、23時半くらいに目覚める。爆風だ。しかし、爆風で目覚めたというより、爆風で幕内の結露が降り注ぎ、それが顔に当たって目覚めたっぽい。
これは想定外な事象だった。幕内の気温は2℃。かなり今日は外気温も暖かいのだろう。なるべくタオルで頭上の結露は拭いて再び寝た。
それを数時間ごとに繰り返して朝になった。

天井の結露が爆風で降り注ぐ

寝起きは近くの登山者の声で起きた。時刻は朝6時半。特に寝不足感はない。早速、お湯作りをしてコーヒーでシャキッと目を覚ます。最初の500mlはそのままサーモボトルに入れて下山用に。2回目のお湯でコーヒーやら朝ご飯のカレーメシを作る。固形燃料は27gをちょうど4個使い切った。

食事も終わり、朝8時くらいから撤収準備を始める。外はまだ覗いていないが嫌な音を聞いて、気づいた。雨である。
「マジかよ…2,400mで雨かよ…」
誰でもそうだろうが、冬の雨は嫌だ。特にサイクリストは。
片づけながら、朝の予定であった中山峠へのパスハンティングを中止するか悩む。
「おそらく、もうここには愛車担いでこないだろうし、やらない後悔よりはやって後悔だろ。最悪、何かあればもう1泊してもいいし」
と覚悟を固めて、外着に着替えて外へ出る。幸いに雨は止んでいる。
「今がチャンスだな…」
と立てかけてあった愛車を押し、テント場から登山道へ向かう。
道がかなり平坦で昨日に比べたら何ら苦でもない。ちょっと乗った。
そうこうしているうちに即到着。
念願のパスハンティングだ。が、雨が降り始める。
震える手で記念写真を撮り、急いでテント場へ戻る。雨は止んだ。

念願のパスハンティング
しっかりと、中山峠  標高2,410m と記されている

荷物はテント以外は既にバックパックへ収納済。
愛車とバックパックは山小屋の軒先へ避難させ、テントをサクッとビニール袋にぶち込んで山小屋へ。
軒先をお借りしながら、バックパックの荷物をしっかりと詰め直して、下山しやすいようにする。まあ、山小屋なので再び自転車ネタを登山者に振られていつもの会話をしつつ、下山準備が整った。

雪山パスハンティング+テント泊。
ある意味、自転車キャンプの極限という意味での最終形かなと私は思う。
他人には絶対におススメ出来ない難度や条件なので、どこがどう最終形なのか説明するのは難しいが、やはり入念な事前準備や愛車を担ぐ体力・登る走力、そして最後は根性か。

自転車キャンプはRPGに近い。
武器は愛車、防具はウェア。道々はダンジョンで、峠はボス。
今回のボスはなかなか手ごわいやつだった、そう書き記しておしまいとする。

普通に登山で来たい山小屋

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?