散文詩『Tofu diver』

 "豆腐の角に頭をぶつけて死んでしまえ"という慣用句がある。若い子は知らないだろうけどね。
 ところで、頭をぶつけて死ぬのに最適な豆腐は木綿だろうか?絹ごしだろうか?
 個人的には痛いのヤなので木綿よりも柔らかい絹ごしを選びたい。

 テーブルに安置した絹ごし豆腐に優しく額を打ち付ける。くちゃ、音がする――細胞が死滅する音だ。
 嫌がる細胞を無理やり自死させるつまり細胞という奴は、新しい細胞を作り出す前に、古く劣化した細胞を自ら死滅(apoptosis)させる訳だが、僕はそれを全身の細胞に適用すべきだと――つまりつまり、僕は自身の全細胞にC判定を下し、すべてを死滅させ新しい細胞に入れ替えるべきだと――そう思った訳です。

 すべからく豆腐という物は手のひらサイズの直方体で或る訳で――現にテーブルでひしゃげている絹ごしも額に張り付いているその断片もさっきまでそうだった訳で――実際に額を打ち付けてみて、"僕には小さすぎる"と感じた。
 各豆腐メーカーは人一人が全身を打ち付けることが出来るサイズの豆腐を"全身細胞入れ替え用豆腐(大人サイズ)"として販売すべきだ。

 目を閉じ、架空の豆腐にダイブする映像、全身の細胞が絹ごしされてゆく感覚。

 Boku ver.1.01

 劣化した感情ぶつける為の豆腐の角を探して。


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