療養日誌③
3日目。
6時きっかりに目が覚める。37.2℃、悪くない。仕事の連絡を返し、シャワーを浴びる。
冷蔵庫を開ける。マヨネーズが2段目から落ちてきた。伊坂幸太郎ならどう書くだろう、とくだらないたらればを弄ぶ。萎れかけたつるむらさきを無視して、余っていた小松菜と鶏肉で中華粥をつくる。眠らせているもち米を使えば、もっと参鶏湯みたいなものができたかもしれないのに、と少し後悔するが、いまは生米を処理できるほど元気がない。背中と腰が痛いのは、寝てばかりいたからか、ウイルスとの戦いに骨髄が疲弊しているからか。せっかく流した汗が吹き出す。どうやら生姜を入れすぎた。
洗い物をする。こんな時でも料理をしてえらい、とひとりごちて、すり減った自己肯定感を補充しておく。本当は、鶏がらスープと、味の素と、コンソメ顆粒と、白だしと、かんたん酢のおかげで生きている。
身体が痛い。横になる。
新しいクレジットカードが家に届くので、配送指定した14〜16時の間は起きておかないといけない。カードを作った時には、有効期限の2023年なんてはるか遠い遠い未来にみえたのに、そんな遠い遠い未来に今、住んでいる。
14時に目覚める。また熱が上がっている。こういう体温の推移はよくありませんよ、といつかどこかの文献でみたグラフの、その曲線上にいるのを感じる。アメイジング・スパイダーマンの続きを観る。今のところいちばん面白かった。やはりヒーローの独壇場よりも、チーム戦が気持ちいい。
16時ぎりぎりにインターホンが鳴って、郵便書留で新しいクレジットカードを受け取る。急いで来たのか、汗だくの配達員さんが玄関先で待っている。こちらは四六時中家にいるのだから、別に遅れてくれたってよかったのに、わたしには彼にそのことを伝えるすべがない。封筒をあけて早く処理をしたいが、やはり頭がうまく働いていないので、後回しにする。
食欲がない。冷凍バナナをかじり、ポカリスエットの薄めたのを飲む。何かしっかりと食べた方がいいのだが、喉を通りそうなものを考えることすら面倒臭い。
もらった仕事に手をつける。楽しいが、パフォーマンスは良くない。少し眠る。
目が覚める。頭痛がひどくなっている。ロキソニンを飲もうとするが、同量処方されているはずの胃薬が、なぜか足りない。せめてなにか胃に入れてから内服したくて、焼きビーフンがあるのを思い出して、作る。肉は鶏むね肉か、ささみしかない。子どもの頃に夢みた財閥令嬢は、きっと鶏肉で作るケンミンのカレービーフンなど食べたことがないだろう。気をつけたほうがいい。この世では美味しいものを知らないと、すぐに人生を損していることにされる。
薬を飲んだらすぐに布団に入る。アメイジング・スパイダーマン2をつけてみるが、途中で目が開けられなくなって、ろくに観ないまま眠る。
LINEの通知音で目覚める。朝かと思ったがまだ0時を回ったところだった。ロキソニンは結構効いている。返信をしてまた、眠る。
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