療養日誌④
4日目。
朝、目覚める。熱は下がったが、まだ頭が痛む。上司への体調報告をして、簡単な朝食をとり、またロキソニンを飲み下す。
パソコン作業をするが、起き上がっていると目の前が砂嵐のようになるので、やめる。
目を閉じて、落語を聴く。古典落語を選ぶ。聴く者を傷つける意図も、咄嗟の危うさも、個人的な思想の影響もないことばは、安心できる。こんなときには、志ん生のやわらかい語り口が耳に優しい。
昔出会った、脊髄損傷で首から下が不随になった人が、毎晩必ず寝る前に立川志の輔の『バールのようなもの』をかけるよう頼んできたのを思い出す。同じ噺ばかりで面白いのか、と訊ねたら、何度聴いても面白いけど、眠れないほど面白くはないからちょうどいいんだ、と言っていた。
子どもの頃、ベッドですりきれた絵本を読んでと母にせがんだように、病床のまどろみには、馴染みのおとぎ話が似合っている。
少し薬が効いてきたので、目を開けてみる。頭は動かせない。飽きもせずにアメイジング・スパイダーマン2を観る。きついストーリーだが、面白かった。MCUに手を出すと時間がかかりそうだから、ここでやめておく。
起き上がれるようになってきたので、パソコンを開き、文字を打つ。
文章をつくりながら、なぜかそれとは全く関係のない景色が頭の中にある。
薄暗い部屋の中、カーテンの隙間から明け方の陽光が差し込んでいて、花と鉄のにおいがする。口に含んだコップの水は生ぬるく、ラジオからは雑音まじりのワルツがちいさく流れている。
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