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ハンブンサルと夏の宵


暑いのが苦手だ。8月はクーラーの効いた部屋に引きこもるつもりでいたのに、あれだけはこれだけはと予定を入れていたら、結局いつも通り余白のない毎日を送っている。朝、とっくに汗ばんだ肌に日焼け止めを塗り、サンダルを履いて家を出る。友人にやってもらったフットネイルが可愛いから、夏を生きるのがへたくそな自分も辛うじて、陽の下を歩けている。


最近、仕事もプライベートもどちらでもないことも、新しいジャンルに挑戦させてもらっている。未経験のものに審判を下せない性格は、子どもの頃から変わらない。思春期には親とのありふれた衝突があるたび「でも、やってみないと分からへんやん」と言い張って、痛い目も甘い蜜も舌で味わってきた。お誂え向きの暗中模索で、今日も目の前の扉をせっせとがちゃがちゃ、やってみる。


今年の夏は、生まれて初めて盆踊りに参加した。それも『徹夜おどり』という、朝日の昇るまで続くとち狂った盆踊りだ。地元の老若男女が、およそ8時間にわたって踊り続ける光景は衝撃的だった。学校のダンスの授業では照明担当を買って出たほど身体表現のできないわたしだけれど、思い切って渦に飛び込んでみれば不思議とどうにかなるものだった。櫓の周りを循環するエネルギーのなかで、初めて踊ることを楽しいと思った。

こんなに人間を動かす文化と、この歳まで出会わないままだったことに驚く。とかくにこの国ではエンタメの地位が低いと嘆かれるが、本当に低いのは、この国に散らばる屈強なエンタメどもの『知名度』なのかもしれないと思った。


世の中のおもしろいものを、四半世紀生きた今になって新発見する日々だ。ああ、知らないことばかりでむずむずする。全部の扉が開けられたらいいのに、1日はずっと24時間で、1週間はどうしても7日で、人生はたいてい100年に満たない。


好奇心が旺盛だと言ってもらうことも多いが、そんなに立派なものではない。
ニンゲンは太古の昔、群れで狩猟採集をしながら移動をつづける生きものだった。しだいにストックを覚え、農耕を覚え、インフラ整備を覚え、ひとつの土地に定住するように進化した。新しいものを見つける能力よりも、今あるものを工夫して満足できる能力のほうが重宝されるようになってきた。
家の内側の豊かさに投資して、汚れたらきれいに掃除をして、隣人と深い関係を築いていく。みんな当たり前にできていてすごいと思う。わたしはまだ半分しかニンゲンになれていないから、じっとしているのも整理整頓も苦手なのだ。ちゃんと進化しているひとたちは偉い。



半分お猿さんのまんまで、夏が過ぎていく。きっとまた扉を開けたくなって、外へ飛び出してしまう。せめて、水分補給と日焼け対策だけは忘れないようにしよう。

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