沖縄基地反対運動を取り巻く運動の弁証的発展と県民投票~分断の歴史に抗う若者運動から~


《”分断”を乗り越えようとする若者たち》

 最近、『東洋経済デジタル』に掲載されている、辰農哲郎氏の沖縄の基地問題に携わる若者の運動を追った記事がとても面白く毎回楽しみに読ませていただいています。

 本日は連載の第4回「沖縄をなめるな」に若者たちが見せた連鎖反応 分断と歴史、葛藤の島でもがく若者たち(4)というテーマでUPされていましたが、この間4回の連載を通して、沖縄の若者が基地問題における是非や、本土と沖縄という様々な分断の渦中に置かれる中での葛藤と、必死にその分断を乗り越えようとする姿が克明に描かれていることが私にとって非常に印象的でした。

 私は今回この記事を読ませていただいて、今回の”沖縄県民投票”をめぐり展開されている若者の運動は、歴史的にみても非常に価値のある運動であるという想いを強くしました。

《運動における”対立物の統一”ともいえる”弁証法的発展”》

 そもそも、沖縄の基地問題をめぐる運動は、長く”分断”の歴史の最中にありました。辰農氏の第1回目の連載にも下記の通り述べていますが、

『戦後75年近く、基地と共存を余儀なくされてきた県民のなかには、生活のために基地への依存を深めてきた人も少なくない。さらには新基地が建設される予定地の住民の一部には、国から県を通さない「直接補助金」が交付されるなど、政府の露骨な分断化が進められてきた。
住民投票でも選挙でも基地への賛否が焦点となり、そのたびに容認派と否定派が泥沼の戦いを繰り広げて地域とともに心も分断されてきた。
普段は優しさにあふれ、助け合って生きている大人たちが、基地問題になるとしこりを生む地域社会の実像を見て育ったのがいまの若い世代だ。』

というように、分断の歴史をまざまざと見て育ってきたのが今の沖縄の若者たちなのです。そうした背景の中で、今回沖縄県民投票の会の代表である、元山仁士郎氏は、

「沖縄こそ分断を乗り越えないといけないと思うんですよね。県民投票で1つの答えを出して、分断に1つの終止符を打ちたい」

と述べており、元山氏をはじめとする若者たちは、今回の沖縄県民投票を通じて沖縄県民自身の”分断”を乗り越えた姿を示そうとしているのだと思います。

 今回の東洋経済デジタルに連載されている辰農氏の4回の記事の中では、この分断を乗り越えようと若者のあらゆる知恵と工夫を凝らした数々の運動実践が綴られています。
 
 一つだけ事例を挙げるのならば、沖縄県民投票の実施をめぐって県内5市町が”不参加”を表明していた際、元山仁士郎氏が”ハンスト”を実施し、その”意志”に呼応する形で公明党の金城勉県議が「沖縄の未来を担う若者が一生懸命にやってるのに大人が静観してていいのか」と全県民が投票できるように調整に動いた件はその顕著たるものです。

 これらの若者が主体となった運動がきっかけとなり、2/16-17の共同通信らが行った電話アンケート調査では『基地建設反対派』が67%と約7割を占めていることが明らかになりましたが、沖縄県民の圧倒的多数が基地に『反対』という民意を示す形で結実しようとしています。

 こうした運動はまさしく基地問題をめぐる”賛成(容認)”と”反対”で長く”対立”していた構図を”統一”し、そのプロセスの中で積み重ねられた運動の”質的発展”が、約7割の基地建設反対の民意の形成といった”量的発展”に結実しつつあるという意味でも、歴史の至るところで見られる”弁証法的発展”の法則に沿う価値あるものと言えるのではないかと思うのです。

《沖縄と本土の間にも存在する運動の”連関”と”循環”》

 また、今回の沖縄県民投票をめぐる若者の運動は、沖縄県民同士の”分断”を統一という側面だけではなく、沖縄と本土に横たわる”分断”という点についても非常に意義深いものだと思います。

 現在、参議院選挙が7月に迫る中で、”市民と野党の共闘”が全国各地で叫ばれていますが、もともとこうした”共闘”のきっかけとなったのは、2012年9月9日に宜野湾海浜公園多目的広場で開催された「オスプレイ配備に反対する沖縄県民大会」に先立ち、県民大会事務局が県内全ての市町村長に反対運動に対する同調を取り付けたことが発端となり結成された”オール沖縄”の、2014年の沖縄県知事選挙、第47回総選挙で実施した沖縄選挙区での”共闘”がすべての先駆けだったのではないかと私は考えています。

 その後、沖縄が先駆けとなった市民と政党間の共闘は、2015年の安保法制反対運動におけるSEALDsや市民連合の結成とその実践。2016年の参議院選挙における市民と野党との共闘という形で結び付いていきます。

 これらの運動は、政治とは無関心だった市民が立ち上がり声をあげ、対立していた多くの市民や政党が”脱原発”や”安保法制反対”といった”シングルイシュー”などに基づき足並みを揃えて運動に取り組み、その中で数々の成果を生み出しました。とりわけSEALDsをはじめとする若者たちが展開したさまざまな画期的なアピール方法は、今回の沖縄県民投票においても若者たちの手で各所に活かされています。

 このように、沖縄に端を発する様々な分断を乗り越えた”共闘”が、本土においても展開された安保法制や市民と野党の共闘などの数々の実践を積み重ねながら質的・量的発展を繰り返し、いままた沖縄の地に戻ってきたわけです。

 今回の沖縄県民投票に関わる若者たちの運動は、そうした本土との分断を乗り越えた”連関”と”循環”の中で重ねてきた運動の弁証法的発展の集大成ともいえる運動であり、そういう意味でも私たちと無関係の出来事では決してないのです。

《歴史的にも大きな意義を持つこの運動に・・》

 今、沖縄県民投票の開催に伴い、全国各地で『基地問題は沖縄だけの問題じゃない』というスローガンで、基地問題の是非を問うシール投票などが行われています。

 繰り返しになりますが、今回の沖縄県民投票は決して沖縄県民だけの問題ではなく、この間の私たちの運動の弁証法的発展の集大成ともいえるものだと思います。

 沖縄県民投票は今月24日が投開票となりますが、この歴史的にも意義あるこの運動にぜひ多くの方が関心を持ち、なにかしらの形で参加して欲しいなと心から願っています。


 

 

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