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「お花とエッセイ」コンテスト応募作品 【紫陽花の咲く頃に】


 結婚して間もない頃、新居に初めて両親が訪ねて来た時のこと、父が開口一番
「こんなところに紫陽花を植えてはダメだ!」
半分怒ったように呆れた感じで言われた。
私は面倒なので、
「どこだっていいじゃない」
と突っぱねた。
紫陽花は玄関脇の3〜40cmのスペースにまだ丈も30cmほどの葉っぱだけのものだった。
父が帰り際まであんまりうるさく言うので仕方なくもっと広い場所に植え替えた。

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私が生まれる前から、実家の庭には大人が両手いっぱい広げるくらいの紫陽花があった。
雨に濡れた紫陽花はとても風情があって、葉っぱをのそのそ歩いているカタツムリがなんともその景色に馴染んでいた。

私のアルバムには、その紫陽花の前で毎日訪ねてくる黒ネコと遊んでいる写真が何枚もある。
紫陽花の葉っぱはままごとのお皿にもなって花びらや砂を乗せて並べたりした。
狭い庭の1/4ほどを占めていた紫陽花を10才くらいまで眺めていたせいか、どこへ行っても紫陽花に目を惹かれる。

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嫁ぎ先に植えた紫陽花も箱根に行った時の苗を植えたものだった。
3年…5年…経ち、紫陽花はみるみる大きくなった。
あのまま玄関脇に植えていたら、確かに玄関に入れないくらいになっていたはずだ。

紫陽花は土の酸性、アルカリ性によって青になったり、ピンクになったりするらしい。
最近は品種によってあまり関係なくなっているものもあるようだ。

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父は昔気質でいわゆる亭主関白を絵に描いたような人だった。
学歴はなくてもあらゆる分野の本を隈なく読んでいたので、何を聞いてもすぐに答えが返ってきた。
難しい言葉やことわざなども辞書を引かなくても説明してくれるので、つい横着になってしまったほどだ。

子どもの頃は寝る前によく昔話をしてくれた。
読み聞かせではなく、分厚い昔話の本を事前に読んでいてそれを父なりにアレンジして話してくれたのだ。
妹とけんかしたりして怒られた夜は、人さらいする鬼がやってくるお話で怖かった。でも必ず勇敢な父が助けに来る…という設定だった。

その頃大好きで何回もしてもらったお話は「かしきの長者」だった。
「かしき」は船の中でまかないをしている人のことで正直者で一生懸命働いているかしきが不思議な体験をして長者になっていくお話だった。
その時の舟主の懐の広さが心に残っている。

会社勤めの頃、朝食をボーッと食べていると、早起きの父は既に三誌の新聞を読み終えて朝のニュースも聞き終えていた。
その話を私の前でするお蔭で、私はテレビも新聞も見ていないのにその日のニュースや経済の動向が自然と頭に入っていた。
朝からよく喋る…と思いながらも会社勤めには役立った。

色々知識があるお蔭で助かることも多かったが、その分口うるさかったので若い頃は辟易したこともあった。
今になってみると、あー本当だ。と思うことばかりで感謝している。
紫陽花を見るとそんな亡父を思い出す。

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「お花とエッセイ」コンテストに参加させていただきました。
yuca.さん、ともきちさん、つる・るるるさん よろしくお願いいたします。


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