交通警備/裏DVD①
18歳くらいの頃、一人暮らしを始めて金に困っていた。
浅草の千束通り近くの築浅アパート。
どうしても浅草の近くに住みたくて、念願の一人暮らし。
家賃は確か7万円ちょっと。
学生でこの家賃を払うのは苦しかった。
最初は交通警備の仕事で日勤と夜勤を繰り返して、何とか生活費を稼いでいたものの、大学に通いながらは体力的にかなりきつかった。
一番きつかったのは大吹雪の日。 高速道路の上で、10時間くらい立たされたこともあった。
「東北道は通行止めです!」と叫びながら車両を高速の出口へ誘導する。
最初はすぐに交代がくるからと聞いていたが、全然来ない。
マジでこのまま死ぬんじゃないかと思った。
やっと交代が来て、詰所で食べたセブンのロコモコ丼と缶コーヒーの味を今でも鮮明に覚えている。
交通警備は日雇いみたいな感じで、その日に空いている人が集まってくる。
自分は夜勤の仕事をメインで入れていた。 昼間は学校っていうこともあったし、夜勤のほうが車両が少なくて、仕事が楽だから。
警備員の仕事は現場に集合するのが基本だった。 制服を着た男女がヘルメット、誘導灯、手旗などの装備を揃えてどこからともなく深夜に集結する。
少しでも仕事を楽しめるように、俺はこの仕事を「GANTZ」みたいだなと思っていた。
各地から武装した人たちが集まるこの感じが。
まあ武装っていうのも大げさなんだけど。
そう思ってからは気分を上げるために、会社の電話番号の登録は「GANTZ○○支社」と設定しておいた。
休みの日。家にいると会社から電話がかかってくることがある。
出てみると、人が足りないから応援に出てくれないかという内容。 現場へ向かう終電まではぎりぎりの時間だった。でも、二つ返事で行くと伝えた。 急にくる感じもなんか、GANTZっぽいし。
そんなこんな楽しんでいた交通警備のバイト。それも暑くなってきた時期に辞めた。 理由は制服を着ていると暑すぎるから。単純すぎる。
辞めたはいいが、働かないと家賃が払えない。当然のことだ。
楽に稼げそうなバイトを必死に探していると、とある求人に行き着いた。
どうやらDVD?の販売をするらしい。日給1万円以上。しかも日払い。
その求人媒体もわけの分からんサイトだったし、怪しさ満点だ。
とはいえ、すぐにでも金が必要だった俺は飛びついた。 メールで応募をすると、返信で面接の日時と場所を指定された。
後日、指定された場所へ向かう。
某豊島区繁華街の路地で待っていると、中年のオールバックの男性がこちらに来た。
「面接の人?」
男は身長165センチ位でガッチリした体型。
少し日焼けをしたような感じ。額にはしわが刻み込まれていて、目つきは鋭い。 まさにや○ざボディといった感じ。
そのまま路上で簡単に説明を受ける。 そして判明したことは、普通のDVDではなく裏DVDを売る仕事。
説明を受け終わって、この仕事やるかどうか質問をされた。
もちろん、やりますと答えた。すぐお金必要だし。なんか面白そうだし。
「じゃあ明日またここに来て」と言って男は繁華街の方に消えていった。
翌日の午前中、同じ場所で待っているとまたあの男が来た。 「じゃあこっち」と言って進み出したので、後についていく。
人ごみの中で急にこっちを振り向いて質問をしてきた。
「前あんの?」
質問の意味が全く分からなくて聞き返すと、今度こそはっきりと
「前あんの?」
と言っている。 何言ってんだ?と思いながら困った表情を浮かべていると「前科だよ、前科あんの?」と聞いてくる。
あ、前科のこと「前(まえ)」っていうんだ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?