事例に学ぶ宣伝戦「1938年、蒋介石が米国世論を反日に傾斜させた技法」

2021年8月15日に放送されたNHKスペシャル『開戦 太平洋戦争~日中米英 知られざる攻防』では、蒋介石が、日本との戦争に米英を引き込むための宣伝戦(プロパガンダ戦)の具体的な手法について明快に解き明かしておりました。その根拠として、当時記された蔣介石の日記や命令書等、文書資料を掲示しているので、一定程度の信憑性はあると考えます。その番組の中から宣伝戦にテーマを絞って文字起こしをしたので、それを記録します。

ナレーション(以下ナレ):
国際社会を味方につけるための蔣介石の布石は周到でした。
通信を所管する部局に出した命令書が残されていました。当時高額だった、海外への記事の電信料を大幅に割り引くよう指示したのです。(画面に「半価或三分二」の文字)
外国人ジャーナリスト達に“中国の民衆が犠牲になっている”という情報を世界に発信させることが狙いでした。

1938 05―中国の対米宣伝戦
ナレ:
アメリカ駐在の中国大使 胡適が本国に送った電報です。
「本国から送ってもらった2万ドルの資金は、スティムソン委員会などに使い、良い成果が出ている。」

ナレ:
スティムソン委員会。元国務長官が名誉会長を務める“日本の侵略に加担しないアメリカ委員会”という団体でした。全米の主要都市に支部を設け、1万人を超える会員を抱えていました。
中国の宣伝経費が渡っていたスティムソン委員会は、大量のビラをアメリカの主要機関に配布、“アメリカの姿勢が日本の中国侵略を支えている”と訴えたのです。

中央大学 土田哲夫教授:
中国が前面に出てしまうと、かえって疑いを招いたり反発を招いたりする。中国側にとって好ましい宣伝にはならない。むしろ、中国人は後ろに控えてアメリカ国内の組織運動としてやらせて、それを背後から中国が援助した方がいいという、そういう戦略を立てたのだと思います。」

1939 07―日米通商航海条約破棄(の通告:対日経済制裁)
ナレ:
アメリカは、他国の争いには介入しない孤立主義的な政策を修正させていきます。
スティムソン委員会などによって、中国の惨状を伝えられていたアメリカ市民の8割以上が、この経済政策の転換(:日米通商航海条約破棄、引用者註)に賛成します。
(画面上「1939年8月世論調査 日本との条約を破棄する政府の政策について 賛成81% 反対19%」の表示)

蔣介石が国民政府の高官にあてた命令書。プロパガンダに対する考えが記されていました。
「毎月の10万ドルの対米宣伝経費は、惜しんではいけない。現在の外交情報をみると、イギリスは深思熟慮の国であり、説得が難しい。アメリカは世論を重視する民主国家であるため動かしやすい。世論が同意し、議会も賛同するならば、大統領は必ず行動する。」

(以上、当該番組より文字起こしの上引用、太字は引用者)

むすび
これは、今から80年以上前の中国人指導者の考え方ですが、現代にも通じる視点だと考えます。現代においても、プロパガンダ戦は、より大規模に、より巧妙に、より判りにくい手法で行われていると考えるのが自然です。

(おわり)

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