司法で新聞の“呪詛”は祓えない!毎日新聞による原英史氏名誉棄損判決の不完全な救済

およそ3年前となる2019年6月11日、非道なキャンペーンが唐突に始まりました。毎日新聞による原英史氏への“誹謗中傷”報道です。このキャンペーンは不可解にも毎日新聞だけが延々と続けましたが、他紙はほとんど追随しませんでした。ところが、虚報を鵜呑みにして新聞社の印象操作にミスリードされた(≒メディアリテラシーの欠如した)国会議員が、事実無根の内容をもとに一個人を自身のブログで論難しました。あるいは、免責特権を悪用した議員によって、国会でいわれなき原氏非難が行われました。その国会議員はあろうことか原氏の個人情報を開示するという危険な不法行為にまで及びました。

3年以上の年月を経て、「毎日新聞の記事は原氏の名誉を棄損した」という高裁判決が下されました。朝日新聞は次のように報じます。

毎日新聞記事の名誉毀損認める 東京高裁、220万円命令

2022年7月5日 5時00分

 政府の国家戦略特区ワーキンググループの原英史・座長代理が、毎日新聞の記事で名誉を傷つけられたとして1100万円の賠償を求めた訴訟の控訴審判決が4日、東京高裁であった。相沢哲裁判長は請求を棄却した一審・東京地裁判決を変更し、毎日新聞社に220万円の賠償を命じた。(朝日新聞デジタルより、太字は引用者)”

毎日新聞記事の名誉毀損認める 東京高裁、220万円命令:朝日新聞デジタル (asahi.com)

◆    “報道の暴力”メディアリンチの恐ろしさ

想像してみてください。この災難があなたの身に降りかかったときのことを。全国紙から連日誹謗中傷を受け、それに基づき複数の国会議員から非難され、国会という場で無実の罪で論われ、議事録にさえ残る。なんと理不尽な仕打ちでしょうか。

原氏はそもそも不法行為とは無縁だったので当然ですが、豊富な識見、不屈の闘志、即座に反論を構成できる高度な論理的思考力、プレゼンテーション能力を兼ね備えた人物だったので、この判決にこぎつけました。しかし一般人にとってはかかる論難も訴訟対応も耐えられるものではないでしょう。少なくともメンタルバランスを崩してしまうでしょうし、生きる意欲を失うには十分な災厄でしょう。どれほど苦しく、恐ろしく、恥ずかしいことでしょうか。そのメンタルへの攻撃力は激烈で、もはや“呪詛”と呼べる危険行為でしょう。

ところで当事者である毎日新聞は次のように報じています。

特区報道訴訟、本紙が逆転敗訴 東京高裁判決 | 毎日新聞 (mainichi.jp)

特区報道訴訟、本紙が逆転敗訴 東京高裁判決

2022/7/4 19:55(最終更新 7/4 19:56) 653文字

 毎日新聞の記事で名誉を傷つけられたとして、国家戦略特区ワーキンググループ(WG)の原英史座長代理(55)が毎日新聞社に1100万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁(相沢哲裁判長)は4日、請求を棄却した1審・東京地裁判決(2021年9月)を変更し、220万円の支払いを命じた(以下略)。(毎日新聞より引用、太字は筆者)”

朝日新聞の記事と違って毎日新聞は当事者なので、記事の雰囲気がだいぶ違います。そもそも見出しに「名誉棄損が認められた」というもっとも重要な事実を記述しておりません。本稿ではその精読と分析はしませんが、1点だけ、量的観点に絞って考察します。

◆    杜撰な取材に基づいた、連日にわたる執拗な報道

どれほど執拗で悪質な報道キャンペーンであったか、毎日新聞デジタル(オンラインサイト)で「特区」および「原英史」で検索し、当時の記事時系列で振り返ります。

頻回に記事が発信されたのは6月11日~7月11日の1か月間で、そこで配信されたオンラインサイト上の記事は50本、文字数合計59,850文字(※)になります。

それ以降、“第二モリカケ騒動”を狙って問題の拡大(延焼)を試みますが、特に炸裂することなく毎日新聞の関連報道は終了します。結局掲載期間は6月11日から11月8日となり断続的に5か月間にもおよびました。

※     計数に使用した毎日新聞デジタルのサイト記事一覧(掲載日時順)は本稿末尾に列挙します。(文字数はサイトに記載のもの。また違う見出しながら内容が重複する記事が混入している可能性がある)


具体的な印象操作の酷い表現は末尾記載の見出し一覧のほか、当時アゴラに掲載された拙稿の分析をご覧ください。

毎日新聞 vs 原英史氏 フェイクはどちらか | アゴラ 言論プラットフォーム (agora-web.jp)

毎日新聞vs. 原英史氏 フェイクはどちらか②毎日新聞に誠はあるのか | アゴラ 言論プラットフォーム (agora-web.jp)

毎日新聞vs. 国家戦略特区、それは「隠蔽」か「秘匿」か | アゴラ 言論プラットフォーム (agora-web.jp)

事例研究:毎日新聞の巧みなレトリック技法に学ぶ | アゴラ 言論プラットフォーム (agora-web.jp)

戦略特区報道で露見:毎日新聞の既得権益側につく企図 | アゴラ 言論プラットフォーム (agora-web.jp)

騙しのテクニックを自白した毎日新聞 | アゴラ 言論プラットフォーム (agora-web.jp)

新聞は食料か毒か?新聞協会は毎日新聞「人権侵害報道」を自浄せよ | アゴラ 言論プラットフォーム (agora-web.jp)


◆    執拗な報道に対し、訴訟結果を報じる記事の貧弱さ

高裁もその名誉棄損を認定したほどの“記事”ですが、キャンペーン期間(6月11日から11月8日の5か月弱)で発信した記事は通算60本、文字数総合計は67,121文字になりました。結局、何ら得るところのない、一部議員が騒いだだけの迷惑報道でした。

一方、東京高等裁判所における今回の判決について毎日新聞自身が報じた記事は、たったの2本(※)、合計でも1,307文字でした。これは誹謗中傷キャンペーンの67,121文字に対して1.9%に過ぎません。紙面では21面に、目立たないように掲載しております。これが報道機関というものなのでしょうか。

※     毎日新聞が報じた東京高裁判決

[ 2022年7月4日 ]特区報道訴訟、本紙が逆転敗訴 東京高裁判決(653文字)

[ 2022年7月5日 ]特区報道訴訟で毎日新聞が逆転敗訴 東京高裁判決(654文字)


◆    おわりに

原氏が被った迷惑は、わずか220万円で償われるようなものではありません。心理的に受けた被害は計測不能であり、毎日新聞が行った行為の道徳的な“罪深さ”は言葉では表現しきれません。人によっては取り返しのつかない事態に発展しかねないこのような個人の誹謗中傷は、野蛮な行為だと考えます。

現代においてもいまだに行われる、マスメディアによる残酷な“私刑”(メディアリンチ)はしかし、それを抑止する手法がありません。司法の判断は、社会の実情(例えば、「記事はほとんど精読されず、多くの人は見出しの印象で判断を形成する」など)を十分反映しているとは思えません。今の法体系では、メディアが世にまき散らす“呪詛”を抑止することはほとんど不可能です。更に、一度受けた「心の傷」を癒してくれることもありません。


賢い人であれば、個別メディアの批判となる本稿のような見解を発信することも控えるでしょう。メディアからの報復が恐ろしいからです。しかし私は十分愚かなので世に問うてしまいますが、原氏の無念は言うまでもなく、このような状況を放置することは、次世代へ禍根を先送りすることにもなるので見過ごせません。


しかしこの理不尽な状況を注視してくれる有力者もいます。


“安倍晋三

@AbeShinzo

原英史さん毎日新聞に逆転勝訴。

毎日新聞は検証し、しっかり記事にして欲しい。(ツイッターより)”

安倍晋三さんはTwitterを使っています: 「原英史さん毎日新聞に逆転勝訴。 毎日新聞は検証し、しっかり記事にして欲しい。」 / Twitterか。


みなさんは、どう思いますか。


(おわり)


※     毎日新聞デジタルのサイト記事一覧(掲載日時順)

[ 2019年6月11日 ]

WG座長代理が特区ビジネス支援 原さんが見てくれる 申請者「コンサルの一環」 (2343文字)

WG座長代理が特区ビジネス支援 「周知活動として当然」原英史座長代理との一問一答(1635文字)

WG座長代理が特区ビジネス支援 「利益供与みたいな感覚ではやっていない」特区ビズ社長一問一答(1427文字)

WG委員支援会社が提案者から指導料 特区制度に詳しい恒川隆生・静岡大名誉教授(行政法)の話(171文字)

WG委員支援会社が提案者から指導料 200万円、会食も(986文字)

国家戦略特区 政府ワーキンググループ委員関連会社 提案者から指導料200万円、会食も(1215文字)

WG座長代理が特区ビジネス支援 「原さんが見てくれる」 申請者「コンサルの一環」(1374文字)

特区巡りコンサル料 片山創生相「委員は会食記憶ない。協力関係、事実無根」(391文字)

委員が提案法人を指南 協力会社、コンサル料受領(1361文字)

特区ヒアリング開催、官邸サイトで非公開 WG座長代理関与 異なる件数閣議決定(1330文字)

特区WGの原座長代理「記事は虚偽と間違い」 ネットのニュースサイトに見解(387文字)

提案者認める「開催」特区ヒアリング、政府答弁書に「開催」省かれる WG座長代理関与(1909文字)

特区WGの原座長代理「開催非公開、いくらでもある」 5月15日の一問一答(1124文字)


[ 2019年6月12日 ]

審査隠し 透明性、また揺らぐ 真珠販売会社「原氏から台本、NGワード」(2233文字)

WG委員関与 政府、審査開催伏せる HPと答弁書(1488文字)

内閣府、野党議員に「非公式な会合」あったと示唆 国家戦略特区の審査で(869文字)


[ 2019年6月13日 ]

「特区」聞き取りへ 陸上イージスには調査団 5党派合同(496文字)

審査隠し 内閣府「非公式会合と推測」「記録なし」(840文字)

参院選に向け「逆風三重苦」 与党ピリピリ、同日選「そういう雰囲気ではない」(893文字)


[ 2019年6月14日 ]

逆風三重苦 老後2000万円/イージス/特区(893文字)

特区審査隠し 「開催記録ない」はずが証拠の山 崩れる政府釈明(2224文字)

「隠し審査」で調査要求 WG、水産庁に(705文字)

戦略特区WG委員、「隠し審査」の場で水産庁に全国調査を要求(739文字)

戦略特区の『隠し審査』 「開催記録ない」はずが、証拠続出 野党は「原氏の関与」追及(2271文字)

「ヒアリング隠蔽」内閣府が認める 特区WG「記録ない」一転(949文字)

「隠し審査」で調査要求 WG委員が水産庁に(739文字)

特区WG 内閣府、審査隠蔽認める 「提案者が要請」 15年の2件(1543文字)

特区審査釈明 次々後退 「証拠」突きつけられ、追い詰められた内閣府、水産庁(1998文字)


[ 2019年6月15日 ]

審査釈明、次々後退 野党「矛盾だらけ」(1775文字)

WG 内閣府、審査隠蔽認める 「提案者が要請」 15年の2件(1542文字)


[ 2019年6月17日 ]

特区審査非公開「他にもある」八田達夫WG座長 提案者が要望と強調(605文字)


[ 2019年6月18日 ]

WG「非公開、他にも」 審査隠蔽、提案者の要望強調(694文字)

「ヒアリング記録存在」 野党に一転認める 水産庁 国家戦略特区(431文字)

「ない」一転、特区ヒアリング文書が存在 水産庁「開催記録か決める立場にない」(853文字)

隠蔽文書「水産庁で調べるべき話だろう!」原氏が強い語調 特区ヒアリング(949文字)

記憶が突然よみがえり、記録も存在…政府説明ずるずる後退 特区ヒアリング(455文字)


[ 2019年6月19日 ]

「水産庁で調べる話だろう!」 審査文書に原氏発言(1366文字)

審査記録「あった」 政府、一転認める 15年10月開催(864文字)


[ 2019年6月20日 ]

特区ヒアリング隠蔽 「非公式」審査にも謝礼 内閣府が野党聞き取りに開示(481文字)


[ 2019年6月21日 ]

特区WG 加計でも「非公式」審査 内閣府「本音話せる」 規制緩和直前に(1105文字)

隠蔽審査で謝礼 内閣府、原座長代理に(467文字)

WG、加計でも「非公式」審査 内閣府「本音話せる」 16年11月(1071文字)


[ 2019年6月26日 ]

検査院「ヒアリング記録あるはず」 野党、内閣府に提出要求(727文字)


[ 2019年6月27日 ]

WG審査記録 検査院「内閣府に保存義務」 野党が開示要求(727文字)


[ 2019年7月3日 ]

戦略特区WGの座長代理が毎日新聞社を提訴 1100万円賠償求める(297文字)


[ 2019年7月4日 ]

WG座長代理が毎日新聞社を 1100万円賠償求め(2298文字)

[ 2019年7月7日 ]

特区に疑義、再燃(2967文字)

[ 2019年7月10日 ]

元総務相の片山善博氏 「国家戦略特区は利権 公正さに疑問」(1909文字)

[ 2019年7月11日 ]

WG問題 利権発生、公正さに疑問 「記録なし」説明責任果たせず 片山元総務相に聞く(1867文字)

制度の問題点、片山元総務相に聞く 「口利き政治の手法と酷似」 特権与える折衝、非開示最小限に(1867文字)


[ 2019年10月17日 ]

内閣府、質問通告は「特区WG委員から流出」野党は批判(964文字)

[ 2019年10月18日 ]

特区委員から質問流出 野党非難、通告簡略化へ(650文字)

予算委野党質問流出 自民・国対委員長「極めて遺憾」 再発防止の考え(972文字)

[ 2019年10月19日 ]

質問流出 自民、再発防止策検討へ 野党「制度の不備」(466文字)

[ 2019年10月23日 ]

質問流出、北村担当相「特に問題ない」 直接漏えいなら「責任を取る」(818文字)

[ 2019年10月24日 ]

質問流出「特に問題ない」 北村創生相、防戦に追われる(567文字)

[ 2019年10月25日 ]

辞任「想定していない」 国会質問流出「責任取る発言」で 北村地方担当相(342文字)

[ 2019年10月26日 ]

「責任=辞任でない」 地方創生相、質問流出巡り(303文字)

[ 2019年11月7日 ]

特区委員、自身の団体提案のWGヒアリングに同席 議事要旨記載なし(1535文字)

[ 2019年11月8日 ]

国家戦略特区WG 関係団体聞き取り、理事の委員が同席 野党追及(654文字)

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