自民党は法的措置で対抗せよ。萩生田政調会長揶揄画像の扱いは認知領域の戦いだ

自民党によるLGBT理解増進法(案)の国会提出に至るプロセスは“強引さ”が目立った。そのため、もともと法案に反対していた保守的な言論人等を筆頭に、今度は強引にも見える手続きで同法案を推進する自民党執行部に批判の鉾先が向けられた。

途中、反対派から「成立を阻止する“最後の砦”」と見られていた萩生田政調会長もあっさり抜かれ、失望感が広がった。そのタイミングで、次のような画像による意見表明がツイッターやフェイスブック上に拡がった。

行き過ぎた揶揄は誹謗中傷だ

もちろん各種の主張は自由である。また、各自の拠って立つ政治的なポジション次第で、「何が誹謗中傷で、何が事実に基づく主張なのか」、見解が分かれるのは自然なことである。
しかし、この画像に掲げられたいくつかの文言は「揶揄の域を超え、誹謗中傷の領域に入っている」と感じる人も決して少なくはないだろう。

画像内の主張で特に悪質に感じるのは次の2点である。

「日本の銭湯・トイレから変態を守る男 はぎうだ光一」

「選挙が弱いのではありません。国民の生活に関心が薄いだけなのです。」

「変態」や「選挙が弱い」あるいは「関心が薄い」という言葉は曖昧語なので、これらの文章は「真偽を判別できる命題」とは言えない。しかし、正式な自民党ロゴ画像と萩生田議員の肖像を使うことで、自民党や萩生田氏の印象を悪くする効果が発生している。「負のイメージを植え付ける」悪意の画像と言えるだろう。筆者にそれを断定する権限はないが、本人の肖像を(おそらく無断で)流用し、このような悪意に溢れた画像をSNS上に流布する行為は、もはや誹謗中傷であろう。

認知領域の戦い

これは、認知領域の戦いの文脈で捉えるべきである。昨年7月8日の安倍元総理遭難という悲劇のように、テロでリーダーを失うことは、日本の損失であり、二度と繰り返してはならない。しかし、当時までの社会の雰囲気を思い出してみるならば、普段沈黙している社会の大勢側(サイレントマジョリティー)にも反省すべき点はある。

例えば「時代劇の場面に照らし暗喩の文脈を使って『安倍を叩き斬る!』などと気勢を上げる」大学教授は左派に好評であった。

山口二郎氏は本当に「叩き斬ってやる」と言ったのかを検証する | アゴラ 言論プラットフォーム (agora-web.jp)

また、安倍総理(当時)を模したマスクを重機で轢き潰して喜ぶデモに左派議員が参加していた。延々と「モリカケサクラ」キャンペーンで論難し、「なんとなく安倍総理は悪い人」という一般社会の雰囲気や「悪政を続けた暴君」という(事実から著しく乖離した)妄想世界を一部の社会集団内に醸成していた。

しかし安倍総理は「(選挙演説を妨害する)こんな人たちに負けない」として、そのまま笑い飛ばしていた。安倍総理は優しすぎたのである。

因果関係の特定は簡単ではないが、皮肉なことにその“放置”が7月8日の事件につながった可能性は否定できない。さらに事件前にテロ実行犯とSNS上でやり取りをし、場合によっては影響を与えた可能性さえも残る人物らを、(本人が)その事実を伏せながら事件直後からテレビに連日出演させ「旧統一教会バッシング」「自民党バッシング」を展開していた。

これら事実は、日本社会が抱える“闇(病弊)”を象徴している。そして日本社会は、未だその病弊を抱えたままである。

二度とあのような悲劇を起こさないためには、「公人、特に政治家や芸能人に対する誹謗中傷(行き過ぎた論難)は、たとえ相手が総理大臣だったとしても許さない」という社会を自分たちで形成して行くことが必須である。

歴史に詳しい方に解説は不要だと思うので詳述しないが、かつて日本は、テロが横行していた。特に、政府への不満で首相や大臣を狙い、政治的な目的を達成しようという動きは絶えずあり、暗殺されたり、回避のために更迭されたりすることで適材適所が実現しなかった。ある面から見ると、メディアを通じて政府や政治家への過度の非難の空気が膨張すると、国が亡ぶ事態まで自動進行してしまうことがある。今やそのことを思い出すべき時である。

80年以上前の第二次世界大戦の頃から、例えば蔣介石は、スティムソン委員会などを使って密かに米国世論を反日に誘導する「ブラックプロパガンダ」を展開していた。現代において、ロシアをはじめとする権威主義的な現状変更を目論む国々は、自由主義国に対して更に巧妙にブラックプロパガンダを展開していることであろう(逆もまた然り)。

その中で、特に日本は無防備に見える。各種有力メディアが軒並み経営難に喘ぎ、他国からの資金が、広告費などの名目で正当に供与できる環境である。また極端な排外主義的主張を展開し、書籍などの営業収入を目指すメディアや言論人も少なくない。国際社会の平和は、国際秩序を守る陣営が深く連携しなければ守れない。ところが、「韓国との関係修復に反対」したり、「場合によっては米国大使に帰ってもらうことも検討する」と示唆したり、日本には、その連携を内側から危うくする言論人や国会議員が少なくない。

そして、そのようなメディアキャンペーンによって政権支持率が大きく動揺する社会を見ても、事実から乖離したナラティブに煽られ右往左往する人の割合は決して「小さい」とは言えない。多くの人は認識していないだろうが、

今や日本は認知領域の戦いの真っ最中である。


自民党は行き過ぎた誹謗中傷に法的措置で対抗せよ

冒頭掲げた誹謗中傷画像は、明らかに行き過ぎである。自民党のロゴまで入り、自民党の政調会長の肖像を無断流用し、事実無根の悪意を流布している画像は、そのまま放置してはいけない。これら小さな悪意の一つ一つが日々の積み重ねで社会の深層に蓄積して行き、悪条件がいくつも重なった瞬間に爆発する可能性と昏いエネルギーが高まって行く。現在の総裁は岸田文雄首相であるが、萩生田光一議員は将来のリーダーとなる有力候補の一人である。昨年の旧統一教会騒動で週刊誌やテレビによって事実無根の主張も大量に撒き散らされ、イメージはやや傷つけられた。リーダーになる時期や可能性を考慮した場合、今回のおかしなキャンペーンも最早放置するわけにはいかない。安倍元総理の悲劇を教訓として学ぶべきである。

必ず組織として、今回の行き過ぎた誹謗中傷に法的措置で対抗して頂きたい。それが、受動的ではあるが認知領域の戦いの基礎動作でもあるだろう。

蛇足ながら、無力とはいえ筆者も、深田萌絵氏に同画像の使用をやめるよう丁寧に要請しているが、きっと聞き入れられないだろう。


田村 和広さんはTwitterを使っています: 「@MoeFukada 深田萌絵 様  ご主張はもちろん自由ですが、このような、不当に人格を貶める効果のある画像を使用するのはおやめ頂けませんでしょうか。 この画像の使用には、誹謗中傷等、法的に一定の問題がありそうだからです。」 / Twitter


(おわり)



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