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ピート・シェリー/ルイ・シェリー『ever fallen in love-the lost Buzzcocks tapes』(10)

オー・シット 
Oh Shit
 
「ホワット・ドゥ・アイ・ゲット?」のB面
ソングライター:ピート・シェリー
プロデューサー:マーティン・ラシェント
レコード内溝のメッセージ:「もう一曲Another music」
 
この曲はどこで、いつ?
 
1976年の初め、まだライヴを始める前の頃だったと思うね。ベッドルームで口ずさみながら曲を書いていて、台所に行ってお茶を入れていた。母がアイロンがけをしていて、「おやまあ、お祈りなんて、殊勝な心掛けだこと」って言われた。僕は思ったよ。「そうさ、殊勝なことさ」ってね。
 
ライヴはハワードの時代どれくらいやったんですか?
 
ユース・クラブも入れると12回のライヴをやった。ハワードの地下室を練習場にしてたんだけど、防音設備なんてないから音がダダモレ。近所から苦情が来ちゃったんだ。その苦情を言ってきたのが、すぐ近くにあるセント・ボニフェイス教会の管理人で、教会を練習場に使えと言ってくれたんだ。お礼の意味で教会運営のユース・クラブで演奏することにした。「ユース・クラブ」と言ったけど、メンバーの年齢はまちまちで、大体8歳から14歳くらい、そんな子供の前であんな言葉を使うなんてって、ハワードはかなりビビってた。「『Oh Shit』なんて歌えないなあ」なんて言うもんだから。「じゃあ、『Oh Spit』(訳注:ああ、唾)とでも歌えば」って言っといた。それもパンクな意味になるからね。結局は演奏しなかったけど。
 
誰にでも思い当たるテーマですね。
 
そうなんだよ。恋愛関係の破綻を描いてるんだ。些細なことから始まって、だんだんとこじれていく。まず否定だ。「もう我慢できない」次には後悔だ。「ああ、これ以上は無理。愛は終わった」、最後は受容となる。「そうさ、いたらなさゆえだ。こうなると判っていればな」
 
この曲は「ホワット・ドゥ・アイ・ゲット?」の続編だと。「ホワット~」からほどなくして壊れた関係を歌ったんだといつも思うんですよね。
 
そうだね。その通りだよ。「ホワット・ドゥ・アイ・ゲット?」とは正反対の感情を表現してしまうB面曲。両極端だよね。
 
誰か特定の人を扱っているんでしょうか?
 
いや・・・・いかがわしい表現というのを試してみたんだ。母は認めようとしなかったけど、あれ以外に表現のしようがなかった。当然日常的に使ってる言葉だけど。
 曲とは会話のようなもので、僕の曲の多くは会話、というか、心の中にある言葉というか。けど曲は時とともに変化していくものだよ。「ホワット・ドゥ・アイ・ゲット?」も韻を踏むとかそういうことは抜きにして、これも会話といっていい。歌詞には日常会話で使われる言葉をとり入れてるんだ。日常語が韻へと連なるんだね。
 
韻の踏み方に不自然さがないですね。何だか演説のような。
 
曲作りでは韻に凝りすぎないように注意していた。リスナーとの間に距離ができちゃうからね。パンクの功績の一つは、普段見向きもされないけどその人にとって大事な日常の出来事を作品化したこと、そうすることを尊重したことさ。皆がもっと愛し合えば世のもめ事は大抵解決するって思っていたよ。それが七十年代だったというわけだ。
 スティーヴが言ってたけど、七十年代の頭はマッシュルームとかお城とか、そんなことばっかり歌ってた。イエスのアルバムなんか全部そうだよね。僕らの曲はもっと地に足の着いたものだった。そう六十年代的な。「She Loves You」のようなね。優れたポップ・ソングはロケット工学とはちがった意味で、ちゃんと人の役に立ってるんだ。
 
そういったことで当時もめ事になったってことは?
 
「ホワット・ドゥ・アイ・ゲット?」が、レコードのプレス工場で働く女性たちの間で問題になったんだ。これはよく憶えてるよ。従業員たちは「オー・シット」なんて書かれたラベルを貼り付けるのを拒絶したんだ。マーティン・ラシェントとその所属事務所の名が記されただけの、片側だけ白紙ラベルになったレコードが存在するんだ。プレミアが付いてるんじゃないかな。買い占めておけばよかったよ!
 1月20日のリリース予定がラベル貼りでもめたもんだから、2月3日に延期になった。チャートは37位になったね。
 
その女性の皆さんはこの曲を聴いて、一層拒否反応を示したんじゃないですか?歌詞を忌み嫌って!
 
いやいや、彼女らが曲を聴くことはなかったよ。UAは大胆なことをやったのさ。片面だけプレスしたレコードをラジオ局に配ってね。で、さかんにラジオでかけられることになった。
 サウンズ誌にサヴェージ・ペンシルSavage Pencil(訳注:音楽ジャーナリストのエドウィン・パウンシーの変名で、漫画家)がこれをネタにしたマンガを掲載した。LAタイムズにも載ったな。マンガっていうのは恰好の宣伝になるよ。