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ピート・シェリー/ルイ・シェリー『ever fallen in love-the lost Buzzcocks tapes』(25)

ユー・セイ・ユー・ドント・ラヴ・ミー

You Say You Don’t Love Me

 

シングル

B面:「レゾン・デートル」

録音:1979年、エデン・スタジオ、チズウィック、ロンドン

ミックス:ジェネティック・サウンドGenetic Sound,ストレッドリイ

ソングライター:ピート・シェリー

プロデューサー:マーティン・ラシェント

スリーヴ・デザイナー:マルコム・ギャレット

 

この曲がチャート入りしなかったのは驚きです。

 

『トップ・オブ・ザ・ポップス』に出演しなかったからね。あれは当時絶対的な番組だった。

 

「ユー・セイ・ユー・ドント・ラヴ・ミー」とB面の「レゾン・デートル」はどちらも『ア・ディファレント・カインド・オブ・テンション』に収録されましたけど、シングル曲はアルバムに収録しないという考えは放棄されたんですか?

 

レコード会社の決定だったんだ。『ア・ディファレント・カインド・オブ・テンション』のイギリス・リリースと『シングルズ・ゴーイング・ステディ』のアメリカ・リリースが重なったんだ。

 

当時、レコード会社の体質が変わったんでしょうか?

 

UAの経営権が秘密裏に移行してたんだ。会社はリバティ・ユナイテッドLiberty Unitedになった。人事異動もあった。僕らと一緒に仕事をしていた人たちもリストラされていった。

 

ベースラインがとても印象的です。

 

そうだね。スティーヴ・ガーヴェイはベース・プレイヤーとしてすごくスキルアップしていた。ラモーンズやほかのパンク・バンドよりも巧くベースラインを聴かせることができた。スティーヴとトニー〔・ベイカー〕、この二人をこの曲で聴き比べたらトーンにメロディ、どちらも殆んど完璧さ。ルート音とか五度の音のとり方とかいう単純なことじゃなくてね。[1]スティーヴにはその曲に必要なフレーズを弾き分けるセンスがあった。オーケストラは全パートが織りなすことで楽曲が成り立つ。曲っていうのは楽器が織りなすことで人の複雑な感情を表現する、いわば一幅の絵画なんだ。それはバズコックスの曲全てにいえることなんだ。

 

スリーヴ・デザインもハマってますね。八十年代のグラフィックスを予見しています。

 

そうだね。来るべき十年を先取りしていた。シングルは『ア・ディファレント・カインド・オブ・テンション』収録曲ということで、デザインも共通する味わいを持たせた。それと、「エヴァー・フォーリン・イン・ラヴ」を強く意識したカラーリングにもした。「ア・ディファレント・カインド・オブ・テンション」はスリーヴに歌詞が印刷された最初のアルバムで、マルコムはその歌詞を小さい植字で表示することに興味を持った。初めてシングルの裏スリーヴに歌詞を印刷することにしたんだ。植字工には印刷に合うように全部校正させてね。シングル自体が、アルバムのダイジェスト紹介の役目を担うことになった。

 

マルコムは曲を聴いてから、スリーヴをデザインしてたんですか?

 

そうだよ。スタジオに来て発売前に視聴していた。

 

恋破れた者たちに寄り添う、美しい歌詞です。

 

そう、誰もが思い当たることじゃないのかな?報われない思いだと判っている、でも未練がある。次の相手に対してその気になれない、自分の理想とする相手にはならないという認識がある。そして最後に全てを受け入れる。癒しのプロセスだね。乗り越えることはないだろうとは思っている。想いは引きずるんだよね。

 

各ヴァースの細部をいじっても、全体の流れはきっちりと保たれる。クレバーですよね。

 

そうさ。実に効率の良い作曲方法だよ!各ヴァースをどうしようかと頭を悩ます必要はないんだ。いくつか言葉を選んで後で全体の調子を整えればいい。「エヴァー・フォーリン・イン・ラヴ」や「リップスティック」も同じ手法だよ。

 

「ユー・セイ・ユー・ドント・ラヴ・ミー」が『シングルズ・ゴーイング・ステディ』に収録されなかったのは?

 

単純な話で、アメリカで『シングルズ・ゴーイング・ステディ』がリリースされた同じ週に、イギリスでシングル・リリースされたからだよ。それにレコード片面に九曲も入れたら、音質に問題があるんじゃないかと思うね!



[1] スティーヴ・ガーヴェイの回想:あの曲には苦労したよ。〔ベースラインが〕難しい。―今でもさ。