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『東京組曲2020』深堀り企画 vol.1

【大高洋子さんインタビュー】
= あの頃の私に言ってあげたい「待てば日和はあるよ」=

三島有紀子監督の企画に賛同し、一緒に本作をつくった出演者の皆様たちのインタビューをお届けする『東京組曲2020』深掘り企画。第1回目は、大高洋子さんにお話しをお伺いしました。

―― 映画の中の舞台挨拶が中止になった作品というのは、2020年12月に公開された『ミセス・ノイズィ』ですよね?

ええ、そうなんです。『ミセス・ノイズィ』(天野千尋監督作品)は、オーディションを受けてから公開するまでの期間が約4年半でした。2019年の第32回東京国際映画祭(スプラッシュ部門招待作品)で上映していただき、翌年5月1日に公開するよと伺っていて、本当にありがたく思っていました。TOHOシネマズさんや新宿武蔵野館さんなどでの上映が決まっていましたし、公開初日に向けてさあいくぞ!という矢先に延期が決まり、ああ、人生終わったなと感じました。

―― 本作の企画へ参加したきっかけは、その流れからだったのでしょうか?

『ミセス・ノイズィ』が延期になってから、何かしなくちゃ・・・て思ってたんですよね。
ちょうど同じ頃に『カメラを止めるな』の上田慎一郎監督が全編を完全リモートワークで完成させた短編作品を発表、配信され、「こんな可能性があるんだ」とエキサイトしたのを覚えています。ステイホームのなかでこんな作品を作り出せるんだと可能性をみせていただきました。「みんな家の中に引っ込んでるだけじゃないんだな」って思ったんです。なので、この企画には藁にもすがる気持ちで応募しました。
それに、三島監督はずっと何かの作品に参加したいと思っていた方でした。初めてでしたが、より密な感じでご一緒できて嬉しかったですね。

―― 役をいただく役者としての出演ではなく、ご自身で撮影するという特殊な参加でしたが、三島監督とはどのような対話をされましたか?

撮影する前にzoomでお話しさせていただき、撮り始めました。最初は夫も入った映像を撮っていたのですが、監督から夫(大高岳彦さん)の目線でカメラを撮った方がいいと指摘をいただいて、視点を変えたんです。

―― 撮影するのに苦労した点などありましたか?

実は、公園でのシーンは撮り直しがあったんです。撮り直した時期が初夏に差し掛かってしまったので、背景に映る季節を感じるものを入れないよう画角について工夫したりもしました。
でもあの頃は夜中に24時間営業のスーパーへ買い物に行くこと以外、外出をしていなかったので、公園で撮影したのはちょっと息抜きになりました。明け方の撮影は少し怖かったですけどね。

―― 明け方というのは、三島監督からの「明け方(朝 4 時)に女性の泣き声がどこからか聞こえてくる」というシチュエーションですね。その泣き声を聞いた時、どのように感じましたか?

とても深いところから来ている泣き声だなと思いました。後から松本まりかさんが地球の泣き声を意識した声だと知り、グッときました。
実は、2020年5月11日、私の甥っ子に息子が生まれたんです。あの泣き声を聞いた後、LINEで生まれたよっていう知らせを受け、赤ちゃんの写真を見て公園を走り出すというシチュエーションの映像も撮っていたんです。本編には残らなかったのですが、あの悲しい泣き声から繋がるコロナ禍の中の「希望」が、私のなかにはありました。

―― 大高さんのエピソードは映画に携わる人にとって身につまされる思いがするだろうと思いますが、結果的に『ミセス・ノイズィ』はとてもたくさんの方に支持されましたよね。あの頃のご自身になんと言ってあげたいですか?

この映画のなかで「待てば海路の日和あるのかな?」って言ってるんですが、「日和、あったよ」って言いたいですね。
4年半待っていた作品だったので、あの時、一度、心が折れたというか。なんでこうなっちゃうんだろうって・・・。でも、当初と同じ規模で公開されると聞いたときは、関係者の皆様が尽力して下さったんだと心から感謝しました。

―― コロナ期間を経て、自分自身で「変わったな」と思うことはありますか?

人と大人数では会わなくなりましたね。撮影の現場が入ってくると、絶対に迷惑をかけられないので本番に入る10日前から人と会わないようにしてました。最近、ようやく不義理した人にお会いしたりして、じっくりと話すことのほうが増えたように思います。

―― 逆に、コロナとか関係なく、「これはずっと変わらないな」と思うことはありますか?

夫との関係性ですね。ステイホームになって、より長い時間一緒にいても変わらなかった。あまりやりたいことに対してNOと言われた記憶がないので、この企画もとても協力的でした。それに彼自身が「銀幕デビューだ」ってすごく喜んでます(笑)。
彼は、校正の仕事をしているので、わりと客観的なものの見方をしてくれる。コロナで私がノーマルじゃない感覚の時も、ちゃんとノーマルな部分を繋ぎ止めてくれ、安心感のある人です。ありがたい存在ですね。

アルバムを見ている大高さんと夫の岳彦さん

―― コロナも落ち着きを取り戻してきましたが、今後、チャレンジしてみたいことはありますか?

もしもチャンスがあれば、海外の撮影にも参加してみたいです。また、日本のなかでも撮影の幅が変わってくるだろうと思いますし、若い世代の監督さんたちともどんどん繋がって、新しい作品が出来たらいいですね。

―― 最後に映画を観てくださる皆様に向けて、メッセージをお願いします。

先日、チョンジュ国際映画祭でこの作品を上映した時に、韓国や海外の方が共感しながら観てくださっているのを感じました。世界中がこの苦難をともに乗り越え、世界中がつながっていたんだと感じ、熱い思いがこみ上げてきました。
孤立して一人だって思っていても、人は繋がってるんだと、改めて思わせてくれる映画だと思います。もしも何か悩んでいても、多分みんな同じようなものをいつでも抱えているし、常に人は一人ではなく繋がってるんだよっていうことを届けられたらいいなと思っています。

チョンジュ国際映画祭にて。左より、大高さん、通訳者、松本晃実さん、田川恵美子さん。



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