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第二十二回「床屋と私」

俺は床屋が苦手だ。
と、いうのも床屋(或いは美容室、またはヘアーサロン)にはお洒落な店員さんがたくさんいるからだ。
そして、お店の雰囲気なんかもお洒落だし、そこに来る人達だってなんとなくお洒落に見えてしまう。震えるのだ。

だが、俺も人の子。髪の毛は何もしていなくても伸びてしまう。
ボサボサになってもはや修復できないこの長い髪の毛を意を決して切ろうと思い近所のヘアーサロンに電話をして予約をした。
それが数日前の出来事。

それから2日ほど経って昼の仕事を終えた俺は支度をしサロン(うわ。めっちゃオシャレじゃん)へと足を運ぶ。

気合いを入れるためにライダースジャケットを着て。

お店に入るとあちらこちらから「いらっしゃいませー」という声が聞こえてくる。
ふむ。俺は知っている。その後に誰かスタッフの人がこのダンジョン(もうこれからはそう呼ぶ。ヘアーサロンは俺にとってダンジョンと同じだ。)を案内してくれるのだ。

が、一向に誰もこのダンジョンを案内してくれない。
体感で30秒ほど俺はダンジョンの入り口に突っ立っていた。
すると、他のお客さんの髪を切っていた男性店員さんがくるりと俺の方を向いて
「そちらにおかけくださーい」と言う。

俺は試されていたのだ。
男性店員「ふーん。きみ、もしかして初ダンジョン?だから立ってたの?」
みたいな感じに俺は更に緊張のボルテージを上げた。

俺がちょこんと座るとすぐさま別のお客さんが来店して
店員さんが「いらっs」くらいのタイミングで待ち合いの椅子に腰掛けていた。

このお客さんはダンジョン何回クリアしたんだ・・・。
と心の中で思った。

程なくして俺を担当してくれる女性の店員さんが現れた。
俺のライダースと鞄を預かってくれて席まで案内してくれた。

すると開口一番
「役者さんですか・・・?」と聞いてくる。

俺は思いもしなかった質問に
「んぁっと・・・いえ・・・ば、バンドを・・・へへ」
みたいな返答をする。

へへってなんだよ。へへって。

女性の店員さんは気を利かせてくれたのか
「えー!そうなんですか!なんか只者じゃない雰囲気だったから役者さんかと思いました!どんな音楽やってるんですか?」と。

俺は
「え、えーっと・・・じ、自分ではフォークソングだと思ってます・・・。」
と言うと女性店員さんは
「そうなんですねーふぇー」みたいに一気にローテンションになって
俺の脇からはダム崩壊バリの汗が噴き出て床上浸水間近だった。

続けて店員さんは「今回はどうしましょうか?」と訊いてきたので
俺は「逆にどうしたらいいですか?」と訊いてしまった。

これには店員さんも流石に困ったのか
「え、えーっと・・・ちょっと雑誌持ってきますねー・・・。」と言って席を後にした。

これは申し訳ない。だが、自分に何が似合うのか自分自身わからないので
これはもう髪のプロに委ねようと思ったのだ。
そしてプロが選んだのは内側を刈り上げてのパーマだったので俺は
「じゃあ、それでお願いします」と言ってカットをしてもらった。

カットをしている間も店員さんは俺に優しく話しかけてくれて
俺は俺で今思えば意味のわからないことばかりを言っていた。気がする。

32歳にもなって未だに俺はこんなんだし、
店員さんをいつも以上に疲れさせてしまったとおもう。

コミュニケーションを高めるために前日レペゼンフォックスさんの動画を
腐るほど見たのになんの成果も出せなかった。

悔しい。(悔しい!!)
悔しい!(悔しい!!!)
悔しい!!(悔しい!!!)

だが!!!!!!!!
それでいい!!!!!!!!!!!!!!!!!!

そんな俺のダンジョン制覇ならずの話でした。
今日もすみませんでした。


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