Good girls go to heaven, bad girls go everywhere.

いい子は天国に行ける、悪い子はどこにでも行ける。
メイ・ウエストの名言だ。

とても素敵な言葉だが、個人的には悪い子が行けるのは「経験値として活きることはあるかもしれないけど経験せずに済むならそうしたかった」みたいな出来事が起こる場所だよな、と思っている。
楽しかったり大事な経験もあったけど、振り返るとすぐ隣にあった危険に気付いてゾッとするような場所。





わたしには"悪い子"だった時期がある。
家に帰れば両親と揉めて学校にもなんとなく居場所がないメンヘラが、承認欲求の矛先が男に向くタイプのメンヘラに暗黒進化してしまったからだ。

中学の頃、イジメの一環として援助交際をしているという噂を流されたのをきっかけに性的なことに関するハードルが一気に下がったように思う。
初体験を済ませてからはセックスをしている間だけは必要とされているように錯覚して自分から求めるようになった。

頭のおかしい恋人に望まれたらなんでも望み通りにしたし、別れてだいぶ経ってから関係を持った元彼もいる。
仲のいい友人だと思っていた男に突然襲われたこともある。
一昔前のケータイ小説のような世界は残念ながら実在したし、さらに残念なことにわたしはそんな環境に救いを見出していた。
いまあまりの恥ずかしさに枕を殴りながらこれを書いている。


そんな生活の中で避けて通れなかったのは性病や妊娠のリスクだった。
性病らしき症状が出て慌てたこと数回、不潔な手で触られて膀胱炎になったこと数回、ゴムなしで行為をされていたことにあとから気付いて震えながら検査薬を買ったことも数回。

わたしは自分を大事にすることも自衛もしない愚か者だったので、当時降りかかったセックスを起因とする災難は自業自得である。
正直自己肯定感の低さと環境の悪さを言い訳にしたくはあるが、自分も愚かだったことは事実だ。

だがそれと同時に声を大にして言いたい、「どうして日本は性教育も医療ケアへのアクセスもこんなに不親切なのか」と。


言い訳がましいのは重々承知で言わせてもらうと、わたしはマトモな性教育を受けた記憶がない。
受精の仕組みや生殖器官について生物の授業か?と思うような説明を受け、性行為には責任が伴うと脅されただけ。
ちなみに高校には性教育という概念自体がそもそもなかった。

性的に奔放になることを恐れてなのか教える方も気まずいからなのか知らないけど、脅しで押し切るのではなくもっと自分を大事にすることの大切さを教えてほしかった。
具体的には最近たまに話題になる「包括的な性教育」というやつ。
ゴムを使うことくらいは自分で思い付けても、行為の前後にシャワーを浴びたり手を洗ったりする必要があることを嫌な目に遭う前に知りたかった。

まあ大人としては大前提セックスしてる暇があったら勉強しろと言いたいのだろう。
それはわかる。
でもわたしのように自分の心が壊れるのを防ぐためにセックスに価値を見出してしまったり、ごく一部の異性の悪意に晒されてしまったりする子はどこにでもいると思うのだ。



数年前に緊急避妊薬(アルターピル)を薬局で販売するか否かという論争が起きた。
わたしはこの薬に2度助けられたことがある。


最初は何度目かに検査薬が必要な局面になった時。
生理予定日まで待つのが怖くて他の方法はないものかと検索して初めて緊急避妊薬の存在を知った。

時間が経つと効果が薄れるとあったのでその日のうちに初めて産婦人科を受診して、受付のおばさんたちに非難がましい目で見られたりおじいさん医師に説教されたり大金を払ったりして、「二度とこんな嫌な目には遭いたくない」と絶望しながら薬を入手した。

ちなみに第二の地獄は副作用だった、吐き気がひどすぎて内臓ぜんぶ吐いて死ぬんじゃないかと思った。


当時は未成年だったし服装や髪型もいかにも素行が悪そうだったので、病院の人々の気持ちもわかる。
でも「なぜ結婚もしていないのにセックスをしたのか」「避妊具を使えないならセックスするべきではない」「なぜあなただけ来て相手は来ない」「まさか相手は既婚者か」とネチネチ責められたのは、当時メンヘラ絶頂期だったわたしには相当堪えた。

未婚でセックスしていたのはそれ以外に生きている価値を自分に見出せなかったから。
避妊具を使わずにセックスしたのはわたしではなく相手の選択であり、それを拒否できなかったのは寝ている間に同意なく行為を始められていたし拒否すれば殴られたから。
ひとりで病院に行ったのは相手が「今日から新台入るからそんな暇ない」とパチンコ屋に消えたから。
最後については確実に未婚と言い切れる同じ大学の人間だったのでただの言いがかりだ。


まずなぜそんな男と付き合い続けたのかと当時の自分を強めにビンタしたいが、あの頃は「こんなわたしを大事にしてくれるんだから仕方ない」と思い込んでいた。
いま枕のつもりが手元が狂ってベッドフレームを殴ってしまって声にならない悲鳴を上げた。

でも初見の医師に詳細を話せるほど素直じゃなかったわたしは適当に相槌を打ち、その態度を見た医師はどんどん勝手な決め付けでヒートアップした。
なんで当然のように全て女の責任にするんだろうな、こいつも男なのにな、説教して快感得るタイプかな、クソだな。
謝らないと話が終わらないことに気付いたところでしおらしく謝ったけど、勝手なイメージで噴き上がるジジイになにを言われても説得力はなかった。


2度目はいまの恋人と付き合って3年目くらい、今度はお互いに全く悪意のない事故のコンボで避妊に失敗した。
わたしは前日の低容量ピル(ただし始めたのは避妊ではなくPMS治療のため)を飲み忘れ、恋人はわたしの体内にゴムを忘れてきた。

今回も理不尽に怒られるんだろうと覚悟しながら診察室に入ると、迎えてくれたのはニコニコした女医さんだった。
一通り事情を説明すると「そりゃ運が悪かったねえ!」「大丈夫大丈夫、副作用さえ乗り切れば安心だからね」と笑ってくれた。
わたしの年齢が上がったこともあるのだろうが、対応の差にびっくりしたのをいまでも覚えている。
でも薬自体は前回より高くてもっとびっくりした。

恋人は事故に気付いた直後から平謝りだったし、わたしが服を着ている間に病院を探してくれたし、もちろん付き添ってくれたし、額にビビりながらではあるものの薬代も出してくれた。
副作用で寝込んでいる間もずっとシュンとした顔で「本当にごめんなさい」と繰り返しながら甲斐甲斐しく介抱してくれた。

以降はお互いにそれまで以上に気を付けるようになったので、付き合って8年目を迎える現在に至るまで事故は再発していない。






閑話休題。


そんな経験を踏まえて、薬局で緊急避妊薬を売るのに賛成かと訊かれたら迷わずyesと答える。
値段も欧米諸国ほど安くしてくれとは言わないがせめて4桁前半に抑えてほしい。
最初の経験は論外として、2度目だっていい思い出かと訊かれたらもちろん違うからだ。

そもそも緊急避妊薬というのはそれが必要な局面に陥った時の重要なライフラインだ。
そこに至るまでにはいろんなルートがある。
最初のわたしのようにパートナーに逆らえない場合、2度目のように単純にミスった場合、そして同意のない性行為を強行されてしまった場合とか。

時間制限がある中で自ら病院に出向き、ただでさえショックを受けているところに説教を聞かされるリスクを負い、高いお金を払ってやっと薬を手に入れて副作用に苦しむなんてあまりに懲罰的だ。
底抜けに前向きな人なら「次は気を付けよう」と反省材料にできるかもしれないが、そうでなければメンタルがベコベコに凹む。


それに薬代がなかったり72時間以内に動けなかったりで病院に行けない人だって必ずいるはずなのだ。
そういう人が万一妊娠してしまったらもっと恐ろしい懲罰が待っている。

罰というのは語弊があるかもしれない。
でもどうしてもいまの制度には「迂闊に妊娠するような行為をした女は懲らしめないと」みたいな圧力を感じる。
街の薬局で、医師の診察なしに安価に入手できるようになったら救われる人はどれだけいるのだろう。


昔の自分のような若い子がいま近くにいたとして、わたしは責めることも止めることもできない。
思い返した時には黒歴史にしか見えなくても、その時点ではそれしか救いがないと思い込んでしまう気持ちは痛いほどわかるからだ。
でも自分を守るために正しい知識をつけること、自分を大事にすることはぜひ勧めたい。


一応書き添えておくと、純粋に性に積極的な人を責めたり貶したりする意図は一切ない。
というかこれはわたしの周りだけかもしれないが、奔放ガールたちはわりと自衛を徹底している場合が多い。
定期的に性病検査をし、少しでも異変があったら病院に行き、ピルを飲んだ上でゴムも使う。

彼女たち曰く「自分を守るのは当然」。
高校生の頃のわたしの額に彫刻刀で彫り込んでやりたい名言ですね。





と、こんなことを書く気になったのは経口中絶薬の国内承認申請がニュースになったからだ。


わたし自身はラッキーなことに緊急避妊薬で済んだけど、周りには中絶経験者が何人かいた。
中絶は手術だからまず当然に身体にも負担がかかる、自責の念でメンタルもやられる、緊急避妊薬の何倍もの費用がかかる。

相手も逃げたし両親にも言えないからと費用のために夜職を始めていろんな感覚が狂ってしまい、いつの間にか疎遠になった子もいた。

認可されたらいろんな負担が軽減されてとてもいいのではないか。
悪用を心配する声もあるのはわかるけど、正しく服用して救われる人の方が悪意(男女問わず犯罪に利用するとか妊娠を軽く考えるとか)より圧倒的に多いだろう。
どの界隈であっても実在する少数派の意見は反映されづらいのにどうしてまだ見えない少数派の悪意には警戒するのだろう。

経済的な不安を抱えて中絶する人も多いと聞く。
そういうケースの中絶費用の数十万はどこから出てくるんだろうか。
トイレで産み捨てられた赤ちゃんが死亡、みたいな悲しい事件が起こるのは医療ケアへのハードルが多すぎるし高すぎるからではないのか。

昨今話題のリプロダクティブライツ(妊娠や中絶や出産についての正しい情報を得た上で自分の意思で選択する権利)にも直結する問題だしいい流れだな。


そんなことを思いながら記事を開いてみたら、


 薬の運用のあり方を巡っては、日本産婦人科医会が11月、手術の場合とほぼ同様の扱いとするよう厚労省に要望した。具体的には、母体保護法指定医だけが購入・処方・使用できるようにすべきだと主張。医療機関で保管し、患者に面前服用させ、服用前後の診察・検査や追加処置、入院などを含めて手術と大差ない料金設定が望ましいと訴えている。



ど う し て そ う な っ た

リプロダクティブライツがすれ違ったと思ったら全速力で駆け去ってったわ……………

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