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【上半期決算】2019年 韓国音楽おすすめトラック20曲


いつものことですが、今年も色んなニュースや出来事の中、半分近く通り越しています。日本では新年号が始まりましたし、個人的には母国で軍の義務を果たし始めました。その間、そんなに広くないプールの中で、自分なりに色々聴いておいた音楽のうち、今年リリーズされて、いいと思った韓国の曲を20曲にまとめてみました。稚拙な紹介文ですが、互いの国の音楽を触れ合うにつれて生じる言語の壁を少しでも下げる役割ができるなら幸いです。

※選定期間:2018.12.01~2019.05.31
※発売日順


Jang Myung Sun 「And Then」

バックで「一、二、三、四」と乾燥に数える拍子はまるで何かの始まりを知らせるように見えます。フォーク・ポップで聴けるような伴奏を、グリッチなサンプルと機械加工したコーラス、サンプラーのドラムビートなどが包み込みます。一行の歌詞の持つ感性を、どこか乾燥で不安定そうに、それでも美しく広がる様子から、一歩先すら見えない僕らの未来に対する恐れの中から生まれる一抹の期待を思い出させます。

すべてを忘れて、すべてを忘れて
君と私


Kwon Tree 「LOVE IN CAMPUS」

ヴァイオリン・ソロのブリッジが過ぎ、絶望的な状況を並べ、その状況のなかでも愛を叫ぶ後半部の場面はすごく印象的です。正直だからこそ感動的だと思うメロディー。その上にそっと置かれた「愛」という概念は、「少しでも踏み間違えると足が斬られる」世の中で、他人の考えもしくはしくじりを抱擁し、許すことです。愛せなさそうな状況だからこそもっと輝く、愛溢れる世界の例話。

墨をこぼした画仙紙で
水をこぼした荒野で
涙をこぼした化粧台で
化け物をこぼした幻想で
愛を、愛を、愛を
愛を、愛を、愛を


Sunjae Lee 「Body」

いやいや。まだ『Kind of Blue』すらまともに聴けてないジャズ知らずに、ジャズの中でも一番難しいというフリージャズの曲を持ち込んでも説得力ないでしょ…。リズムと調性の中で自由を満喫するのがフリージャズの特徴だとどこかで読んだ感じがします。ああ、なんて宗教的。ある程度の規則が見えると思ったとたんまた予想を裏切りながら、短い曲の中ですごく派手な部分はなくても常に予測不能な緊張感を調成するのがこの曲の美学ではないでしょうか。


FRED. 「Haze」

詰まったようで乾燥なギター、トレンディーでありつつも物悲しいメロディー。別れと愛憎について、歪んだからこそ美しい「抽象画」と比喩する歌詞は素晴らしいです。確かな高低を持つ音程と、意外と華麗なフロウのラップシング、ソロパートで感情を高潮させるギターまで、簡単なPBR&Bのソースで各々のパートを調和をもって極大化させ、比喩で埋めた歌詞をもって人の感性をじかに刺激します。

僕の肉眼のまえに
置かれている君を見ると
なぜか歪んだ視線で
ガン見したいよ、いつの間に


Decadent 「Lingu」

この胸が燃えるブルースロックのナンバーは、意外と真面目に「言葉[mal]」と「馬[mal]」とでダジャレをしています。思わず言った言葉の言葉尻(馬尻)に引きずられて負った傷。「ウェスタンムービーの一場面みたい」だと語る歌詞のように、残忍でありながらもお約束で、他人には笑えてしまうその前で、話者にはただぎこちない沈黙のみが、今すぐできる任時の処方です。

君は訊いた
口を出た言葉はいったいどこまで行くだろう
僕は秒を数えてた
一、二と、また一、二と、また一、二と
一、二


Shin Seung Eun 「Wrong Is Wrong」

誰かが彼女の歌詞について「冷っとする」とコメントしたのを見ました。悪いことを悪いといえない話者の静かに吟じる弁明が、伴奏に合わせてだんだんと高潮するうちに、僕も胸騒ぎするわけは、不義に対抗できない僕らの心情を代弁しているからだと思います。その弁明が「カッコいい振りかもしれないから」「ただのトラウマかもしれないから」と自己検閲に至ると、僕らは、彼女を黙らせる主体がもしかして自分自身ではないかと、逆に僕らの胸をつつきます。

勇気出して言える言葉
わたしは勇気がありません
世話なんてしないぞ
決心しても手が震えます


TAEMIN 「WANT」

アイドル・ポップにインダストリアルのサウンドが使われた前例があるのでしょうか。(多分あります…)不安感を調成するそのループは節ごとに変奏し、中性的なテミンの声をもっと華麗に、時にはもっと危うくさせます。ひとえに感覚だけを描写する歌詞を聴いて、話者は聴者からどんな欲望を取り出したいのかと疑問に思いました。確かなのは、僕はその機械的で危険を知らせるようなループに中毒されたとのことです。

禁断のリンゴは甘く誘惑する
衝動は感覚を導き出す
なめらかな流れの中
もっと欲しがるからもっと燃えていく


The Black Skirts 「Island (Queen of Diamonds)」

ドリームポップ、シューゲーズ、サーフロックなどの特徴が一リーフの中ですべて感じられ、そのような前半部の夢幻的な感覚は、ある時点でパンクロックへといきなり暴走します。その際の衝撃と感想はすごく新鮮でした。感性をタッチするメロディーに乗せた、愛する人に対する極度に冷めた視線、利己的でシニカルな告白は、リスナーたちの間でミソジニー問題で激しく論争させた問題作でもあります。

君の住んでいた島はもう沈んで
僕が置いてきたものはすべてその下で
錆びついて腐るだろう


XXX 「Bougie」

寂しく鳴るピアノのコードと、打ち砕きそうに強烈なドラムとドロップ、鋭いシンスが調和してテーマを形成していくサウンドの魔法にまず注目しなければなりません。すごく代案的なヒップホップサウンドを負って、資本の奴隷になるのを拒否し、自分が音楽シーンの優位に立っていると宣言するラッパーKim Ximyaの姿はすごく見栄えがします。世を生きるにつれて「勝利者」とはいったい何者か。彼の宣言は停滞したラップシーンを超えて、社会に押しつぶされる青春たちにも有効な抜題だと考えます。

俺の上には誰もいないのに
どいつの機嫌をとればいいんだ


LOONA 「Butterfly」

繊細なピアノの上に強烈なドラムが入る瞬間はまるで飛び出す決意を表したように感じられ、サビの「Fly like a butterfly」がビートドロップの裏でピッチをオクターブ以上に上げて再生する部分では上昇・疾走の快感までも感じられます。話者が飛び出せる動力源には、数多くのK-Popナンバーが大量生産してきた男性的な力への依存、もしくは薄っぺらくキャラ化された「主体性」などはなく、ただ飛行への熱望と弱者の連帯のみが存在します。それがこの曲をもっと特別にさせる理由です。
※以下のレビューを参照しました。

君はまるで Fly like a butterfly
わたしを遠くまで連れていく Wings Wings


Rock 'N' Roll Radio 「HERE COMES THE SUN」

アルバム『YOU'VE NEVER HAD IT SO GOOD』の砲門を開くトラックで、ビートルズ曲を借りた題名から、徐々に過熱し、疾走していくリーフ、短くて反復する歌詞など、色々なところで宣言的な感じがします。湿ったいリバーブを掛けたリードギターと、強烈で華麗でメロディーカルなメインギターとドラムの演奏に身を任せているうちに、いつの間に5分が流れています。今年聴いた韓国曲の中で一番正統-オルタナロック(?)なトラックだと考えます。

Here comes the sun
長い闇の彼方で
太陽がこの夜を起こしだす


Shin Hae Gyeong 「あなたのまどろみ (feat. Kim Sawol)」

同時代フォーク詩人のキム・サウォルさんと、シューゲーズ詩人のシン・ヘギョンさんが出会いました。ドリームポップ・シューゲーズ新星シン・ヘギョン氏の新曲です。過度なリバーブでまるで夢路を彷徨うような感じを与えるシューゲーズ・ドリームポップの感性を十分生かして、本当に夢の中で恋しい対象と邂逅する場面での両価的な感情を悲しくて美しく描写します。あなたを合うことができる夢で生きたい話者の心に、我らも十分、切実に共感する瞬間があるでしょう。

あなたはなぜ夢に訪れるの?
もう会えないと、もう会えないと
実は私はずっと待っています
もう会えなくとも、ここで会えるから


Jaeho Hwang 「Sad Relationship, Nami」

Deconstructed Clubというアバンギャルド音楽の一種です。1985年作のバラード「悲しい因縁」を無慈悲に粉々にし、再調合した結果物は、奇怪でありつつも抒情性を含むという神秘を演出します。1分30秒頃から鳴り響くドロップ(と呼んでいいでしょうか)と共に弾む破片は、勇壮な演奏のかけらを壊す同時に、新たな勇壮さと感動を与えます。まあ、世の中、こういう音楽もあるとのことで。
※以下のレビューを参照しました。


Yerin Baek 「Maybe It's Not Our Fault」

この1~2年間、韓国でも急に再注目され始めたシティーポップ。韓国のポップ界でもその復古的なトライアルが割といっぱい行われました。ペク・イェリンの長い空白の末にリリーズされた新譜『Our love is great』でも80年代日本ポップ感性のプロダクションを密度高く再現しています。それだけでも確かな正体性を、この曲は彼女の暖かい低音ボイスと、それにふさわしいヒーリングな歌詞で、さらにそれを固くさせます。

慣れすぎてしまった
お互いを失わないように


IZ*ONE 「Violeta」

柔らかくくすぐるハーモニーは青みがかったミュージックビデオとよく似合います。サビに至るところのビートドロップは、ハイライトまで積み上げてきた、柔らかい雰囲気に合わせた楽器たちがさっぱりと躍進して、カタルシスを和やかに爆発させます。この軟らかな質感を維持しながら力動的な感覚を作り出す、細やかなダンスポップの新しい魅力を感じました

君の内に隠した君を世に広げてごらん
ありのまま、感じるまま、私に君を見せて


Nah Youn Sun 「Asturias」

並行して進むスキャットとチェロの隣で、最小限の楽器だけで緊張感を形成する前半部から、ボーカルとリズム楽器がもっと生き生きと展開する中盤、首尾相関で締めると思ったらそれを裏切って緊張感を放さず最後まで変奏し続けるアウトロまで。ジャズボーカルのスキャットだけでできたこのジャズナンバーは、短くてミニマルである同時にソウルフルで、刺激的です。


So!YoON! 「HOLIDAY」

日本でも少しずつ知られている韓国新星バンド『SE SO NEON』のボーカル、So!YoON!(ソユン)の初ソロ作です。レトロな楽器をいろいろ使って、そのソースらがこまめに節々をかざる風に変奏することで聴者を楽しくさせます。中低音のソウルフルなボーカルは休日のぐうたらとした雰囲気を演出しつつも踊りたくなる区間をヴァースの隅々に配置し、彼女なりの魅力的なポップを完成させます。

迫ってくる物事は全部なだめすかそう
背を向けて全部知らんぷりしよう
今日だけ、明日だけ、明後日だけ


Don Malik, JUSTHIS 「DOPPELGÄNGEM Freestyle (Live)」

Lupe Fiascoの曲「Kick, Push」のインストゥルメンタルで、二人のラッパーがすごいラップスキルを展示するだけのユーチューブ動画です。すでに崩れたヒップホップのリアル性について彼らは再び質問し、ビートチョイスからラップスキルまで、その宣言の正当性を支えているように感じられます。彼らの「同じ音楽」と「古びたやつら」に対する攻撃は、シーンに幻滅を抱き始めたプレイヤーとリスナーなら共感できるところだと思います。ニュースクール特有の好戦性も久々に感じる感覚でうれしいです。

誰が今時まだメッセージを謳う?
歌詞にメッセージあったもん並べたって
Eminem, Biggie, Pac, Jay-Z, Yeezy, Nas, J. Cole, Kendrick Lamar, 
ちょっとは考え直したかい


Broccoli you too 「Snobs」

青春ミュージカルナンバーのような直観的な演出が見栄えます。キャッチ―なサビのメロディーは清々しいけど、「僕らは俗物共」と歌う歌詞はすごく卑屈です。金持ちになりたいけどなれっこない現実を上の空に向かって泣き口説く歌詞は、誠に韓国の青春たちの心情と立場をそのまま代弁しています。生き抜くために必死に演技するのが僕らの人生だというメッセージは、曲の演劇的な演出と性向的に絡み合います。

そう、僕らは俗物共
どうしようもない臆病者共さ
いつも逃げてばかりで
結構高い建物は常に空いてないし
僕もそんな人になりたい


So!YoON! 「FNTSY (feat. Jvcki Wai)」

ロックスターのソユンとラップスターのJvcki Wai、この意外なコラボは、「女性」という正体性を強く宣言するところで接点を見たというところがもっと意外で、強烈な印象を残しました。特にJvcki Waiの韓国に蔓延な男性主義的権威を強く否定しつつ、女性の連帯という主題を自分の世界観内に持ち込んだラップヴァースは衝撃的です。「心配するな my sister」と一緒に歌うサビが、ヒップホップ特有の「Bro」概念を女性の立場に置き換えるところで終わるのではなく、権威を転覆し、弱者の連帯を訴えかける革命的な宣言としてまで聞こえる理由なのです。

この地は僕らのさ
何を恐れてるんだ
早く手を握って
心配するな my sis


Apple Music プレイリスト

※Nah Youn Sun 「Asturias」、Don Malik, JUSTHIS 「DOPPELGÄNGEM Freestyle (Live)」サービス未提供


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