2023年ベストアルバム

今回も20枚選んで簡単な感想を書いています。
人物名は敬称略です。

20. Continuity - Continuity

iDEAL Recordingsなどから作品を出していたMartin Herterichのプロジェクトによるアルバム。
Space Afrikaの『Honest Labour』やBurialのドローン寄りの作品のような、都市の夜の雰囲気を感じさせてくれます。
ベルギーのレーベルB.A.A.D.M.からのリリース。

19. mu tate - they're with you always

West Mineralとか3XLとかMotion Wardとかそこら辺の作品にもあのアンビエント・ダブ的な音のテクスチャーだけでなくいろいろ変化球を入れたものがここ数年目立つようになってきた気がします。
今年3XLから出たmu tateの新作にもいくつかオッと思わせるような曲がありましたが、特に良かったのは『Frank's Hublots』ですね。
サンプリングされたFrank Oceanの声とおぼろげなサウンドが、今年のRomanceの作品にも通じるようなノスタルジックな雰囲気を出していました。

18. Isaiah Collier - Parallel Universe

シカゴのマルチ奏者・作曲家Isaiah Collierによるスピリチュアル・ジャズアルバムです。
セッションの勢いがそのまま詰まったような熱量のある作品ですが、特に2曲目の13分以上ある大曲『Village Song』の3:26以降の展開は圧巻でした。
ロンドンのNight Dreamerから。

17. Local Visions & 長瀬有花 - OACL

2次元のアバターと現実の姿両方を使って活動するアーティスト長瀬有花とホースリールの姿で活動する捨てアカ主宰の出雲のレーベルLocal Visionsのコラボアルバムです(いろんな人がいるものです)。
Local Visionsゆかりのアーティストたちの曲に長瀬有花がボーカルを執る形です。
特に気に入ったのがSonic Module作曲の『夢色ゆらゆら』ですね。
すごくYMOっぽいというか坂本龍一っぽいというか…あと存在しない80年代くらいのアニメのEDテーマっぽいというか…
この人の過去作も聴いてみるとまあ納得の出来なんですが、今回ボーカルが入って雰囲気ががらりと変わったというか、こうも化けるものかと驚きました。
Local Visionsと汽現象レコードの共同リリース。

16. ROLROLROL - Music

昨年Brainfeederから出した『Blind』がよくわからなくて最高だったJameszooと彼の作品やライブに参加している鍵盤奏者のNiels Broosのユニットによる作品です。
キーボード中心のファンクなアルバムで、Jameszoo作品とは異なり(?)ポップで聴きやすいと思います。Dorian Conceptとかと似てるかもしれません。
あとILIAN TAPEからのリリースというのも驚きでした。今回挙げていませんが、Andrea『Due In Color』やPacked Rich『Warp Fields』など、このレーベルは今年良い作品が多かったです。

15. RRUCCULLA - Zeru Freq.

スペインの電子音楽系のアーティストによる作品。
ポストクラシカルっぽさもあるクリアな雰囲気のIDMのような感じで、1曲1曲がよくまとまっていて丁寧に作られている印象を受けました。
おそらくドラムは実際に演奏していると思われ、それによる微妙なリズムの揺らぎも特徴的です。
IglooghostとかDaedelusとかが部分的に似たところがあると思います。

14. mori_de_kurasu - Inner Spectrum

OACLに続き、Local Visionsからの作品です。
前作『Landscape』も良かったmori_de_kurasuの3rdアルバム。
アンビエント的な柔らかいサウンドと小気味良いDnBのビートが上手く調和しています。
特に良かったのは去年の自由ヶ丘 & 三月『トワイライト』で最後のアレを除いてボーカルを担当していた三月参加の『Autumn (feat. 三月)』ですね。歌メロがかなりツボでした。

13. Actress - LXXXVIII

好きだったアーティストの新作がいまいちだった(まあ単に好みの問題だとは思いますが)という経験を数限りなく繰り返すと期待通りの作品を出してくれるアーティストの存在が奇跡のように思えてきます。
というわけでActressの2023年新作、ありがとう。
サウンド的には2020年の『Karma & Desire』と地続きになっている印象を受けました。
それゆえ新鮮さは正直あまり感じられませんでしたが、相変わらずのSF的なかっこいい電子音楽が聴けて良かったです。

12. King Krule - Space Heavy

2020年の前作『Man Alive!』が良かったKing Krule、さてその新作はと聴いてみると1曲目『Filmsier』がまさかの哀愁漂うスロウコアみたいな曲でしかもめちゃくちゃ良い。仕事帰りとかによく聴いています。
アルバム全体でいうと前作がロックバンド仕様の硬い音だったのに対し、今作はシンガーソングライター仕様の軽めの音になっているように感じました。
個人的に1曲目が一番良かったのが少し残念といえば残念です。

11. Forest Swords - Bolted

2017年の『Compassion』が記憶に新しい、とはちょっと言い難くなっていたForest Swords、Ninja Tuneから久しぶりの新作です。
過去作に比べると大分音が禍々しくなったというか、ダブの利いたトリップ・ホップをベースにインダストリアルとゴスの要素を満載した、これまでの中で最もダークなエネルギーに満ち溢れた作品になっていると思います。

10. Sonmi451 - The Eighteen Minute Gap

ベルギーのアーティストBernard Zwijzenによるプロジェクトのアンビエント作品です。
水中に漂うようなシンセのサウンドとASMR的な人の声のサンプリングが不思議な没入感を生み、意識が遠くなるような感覚を味わえます(個人の感想です)。
よく聴いてみるとシンセのサウンドが結構多彩というか曲ごとにある程度使い分けてそうなんですが、アルバム全体では見事に統一感が出ていて上手いなと思いました。
フランスのレーベルlaapsから。

9. Rezzett - Meant Like This

TapesとLukidによるユニットRezzett、The Trilogy Tapesから2018年の『Rezzett』以来2枚目のフルレングスアルバムです。
怪しさ満点の掠れたサンプリングとActressにも通じる煙っぽいサウンドが特徴的なローファイ呪術テクノです。
Actressの『Splazsh』やProc Fiskalの『Insula』等好きな人にはおすすめできそうです。

8. Leo Takami - Next Door

Robert HaighやCarl Stoneの作品も出しているレーベルUnseen Worldsから、日本の作曲家・ギタリスト貴水玲央によるニューエイジ・ジャズ的な作品です。
アルバム全体に漂う柔らかく明るいサウンドやジャズギターやピアノの流れるようなインプロヴィゼーション、Jポップ的なメロディのセンスが合わさり、魔法やファンタジーというような言葉が似合う音楽になっています。
ジャズのギターはあまり聴いてこなかったのですがめちゃくちゃ弾き倒してても全く暑苦しく聴こえないのは良いなと思いました。

7. Surgeon - Crash Recoil

やっぱり1曲目の『Oak Bank』がね、部屋を瞬時にクラブに変えてしまうわけですよ。
あの地下室の馬鹿デカいスピーカーから撃ち出され人体を貫通していくキックが、地下鉄のプラットホームを吹き荒れる灰色の風の呻き声が、派遣先の会社から貸与されたリモートワーク用のノートPCと睨み合う私をクラブに転送するわけです。
そしてカメラが点いていなければ踊ったっていい。踊り続けたっていいんだ。

6. Yosuke Tokunaga - 8 Quadrants

VAAGNERから日本のエクスペリメンタル・アーティストYosuke Tokunagaの新作です。
ウェイトレス・ダブ的なリバーブとディレイの利いた無機質なサウンドが特徴的で、音が何かを表現するというよりはむしろその反響により立体的な空間が立ち現れてくるようなイメージが浮かびました。
謎な作品ですが何か無性に惹かれるものがあります。

5. Niecy Blues - Exit Simulation

KrankyからR&Bのリリースって珍しいなと思ったので注目してたんですが、只者じゃなかったです。
やはり特徴的なのはベースの大きさでしょうか。
よくある(?)アンビエント的な歌ものの音楽と比べてボーカルだけでなくベースという2本の柱があることで、アブストラクトな雰囲気とR&Bとしての曲の強度を両立できていると思います。
今年のLoraine Jamesのアルバムにも参加しているベースのKhari LucasとLeaving Records等からリリースしているミックスのZerohの役割も大きそうです。

4. Zaumne - Parfum 

ポーランドのダブ・アーティストZaumneによる、沼のような深いサウンドとASMR的な人の声を用いた闇のアンビエント・ダブ作品です。
アンビエント的なサウンド+人の声という点では上で挙げたSonmi451の作品と似たところがありますが、雰囲気はこちらの方が圧倒的に暗いです。
しかしその雰囲気を醸し出す力が凄まじく、目を閉じて聴けば陽の射さない薄暗い森の中にある淀んだ沼のほとりにいるような感覚さえ浮かぶようです(かなりジャケットのデザインに引っ張られたイメージっぽいですが)。
Roméo PoirierやSpace Afrikaの作品も出しているマンチェスターのsfericから。

3. aus - Everis

日本のレーベルFlau主宰のausによる15年ぶりの新作。
ポストクラシカルとエレクトロニックの折衷的な作風で、ゼロ年代のエレクトロニカ的な透明感のあるサウンドと劇伴のようなドラマチックなストリングスが印象的でした。特に『Landia』と『Steps』が良かったです。
また、Henning Schmiedtや高原久美をはじめとしたFlauからリリースしているアーティストを含むゲストが多数参加しており、人とのつながりを感じさせてくれるような作品になっています。

2. Radian - Distorted Rooms

90年代から活動するオーストリアのポストロックバンドRadianの最新作。
アンプのノイズなども含めたスタジオで発されるあらゆる音をサンプリングし再構築したある種ミュージック・コンクレート的な作風ながら、ロックバンドの曲としてのダイナミズムを失うことなく仕上げられています。
個人的には特に1曲目の『Cold Suns』が好きで、ヒップホップ的なループをベースに緩急をつけたドラムのコラージュが乗っているだけでも最高なんですが、4:47以降の雰囲気が一変する箇所はRedioheadのような風格も感じました(多分誉め言葉です)。
信頼のThrill Jockeyから。

1. Teresa Winter - Proserpine

2021年の『Motto of the Wheel』が素晴らしかったTeresa Winterによる、冥府の女王の名を冠した最新作です。
幽玄なドリームポップ的な作風は健在ですが、今作はこれまでの彼女の作品の中では最もアンビエント的なまとめ方をされているように感じました。
『Motto of the Wheel』では随所に見られた破壊的な要素も今作ではあまり見られず、そこが人によってはマイナスに映りそうではありますが、個人的には彼女の音楽の耽美的な雰囲気を最大限に活かした作品になっていると思います。まあ要するにめっちゃ好きという話です。
今作はThe Death Of RaveではなくグラスゴーのNight Schoolから。


以上です。

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