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私の2020年ベストアルバム

ごきげんよう。

年末になるとTwitterで繰り広げられるアレ、私も数年前からやっていますが、今年はnoteを始めたのでちょっとした感想も書いてみようかなという次第です。

選んだアルバムの数は20。
全てのアルバムに対して自信を持って好きと言えて、かつある程度個性的なランキングを作れるのが私にとってはこのくらいの数です。
ジャンルとしてはアンビエントやエレクトロニックが多めです。

それでは早速20位から順に感想を書いていきます。

20. William Basinski - Lamentations

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最早アンビエント殿堂入りWilliam Basinskiの2020年作。
「哀歌」のタイトル通り、どこかゴシックめいた、薄暗く悲哀に満ちたフレーズが延々とループする曲で構成されています。
昨年完結したThe Caretakerの名作『Everywhere at the End of Time』シリーズにも似た雰囲気を感じますね。
今作は1曲が比較的短いのでこれまで聴いたことのない人にもオススメです。

19. Four Tet - Sixteen Ocean

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2017年にリリースされた前作『New Energy』のニューエイジ路線はしっかりと継承しつつ、よりハウス・ミュージック的な踊れるアルバムとなった今作。
しかし流石Four Tetと言うべきか非常に細かく作り込まれており、まさに神は細部に宿ると言った感じです。
先に挙げたWilliam Basinsikiのアルバムが「闇」ならこちらはとにかく「光」、キラキラとした光の粒が舞い散るような、幻想的でありながらも明るく楽しい気分にさせてくれるようなアルバムです。

18. SUGAI KEN - Tone River

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大変だ… いや、変態だ…

RVNGIntl.等から作品を発表してきたSUGAI KENの2020年作はなんと「トネ・リバー」、つまり利根川をテーマにしたアルバム。

考えてみてほしい、もしあなたが利根川をテーマに音楽を作るとしたら。

利根川の水の音や流域に生息する鳥の鳴き声を使ったニューエイジやフィールドレコーディング?
なるほど、非常に良いアイデアです。
しかし奇才SUGAI KENはそれらに加えて利根川を解説した音声をめちゃくちゃに加工して曲を作りました。常人の発想では無い。
なんでも在日オランダ大使館の委嘱を受けて製作された作品だそうですが、担当者の方もきっと大満足されたことでしょう。そうに違いありません。

17. Shabazz Palaces - The Don of Diamond Dreams

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ジャケットから圧倒的な胡散臭さを放つエクスペリメンタル・ヒップホップユニットShabazz Palacesの2020年作。
彼らの作品で特徴的だった浮遊感のあるアブストラクトなサウンドが曲全体を覆いつつ、アタックの強いバスドラムや粘りまくるベースが加わった本作は今までに無いヘヴィさを獲得しています。
P-Funk好きな人にもオススメです。

16. Ian William Craig & Daniel Lentz - FRKWYS Vol.16: In a Word

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去年のVisible Cloaksと尾島由郎&柴野さつきの『serenitatem』も最高だったRVNGIntl.のFRKWYSシリーズ、今年はなんとSean McCann主催Recitalからもアルバムを出していたIan William CraigとDaniel Lentzのコラボ。
ちなみにDaniel Lentzに関しては恥ずかしながら知らなかったのですが、ミニマリズムの分野で著名な音楽家であり、しかも一般的にミニマリズムの代表格とされるSteve Reich等とは異なる方法論を用いた人だそうです。
音と音の隙間を活かした曲のスタイルがIan William Craigの美声を際立たせ、さらに音の配置の面白さに気付かせてくれます。
このアルバムが気に入った人には、去年リリースされたSean McCannの『Puck』(名作)もオススメです。

15. Upsammy - Zoom

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去年リリースの前作『Wild Chamber』も良かったオランダのUpsammy、今作はさらにパワーアップしています。
この人の作品の特徴は何と言っても音の質感の独特さ。
プチプチ、プヨプヨという感じの謎の素材のような音や流れる水のような音が多彩なリズムパターンと合わさり、柔らかく楽しげなIDMになっています。
Plaidとか好きな人にはオススメできるかもしれません。

14. DJ Python - Mas Amable

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2017年にニューエイジ+レゲトンとも評された『Dulce Compania』をリリースして一躍注目を浴びたDJ Python、昨年のEPを挟んでリリースした本作は、曲同士が継ぎ目なく繋がりアルバム全体で1曲とも言えるような作品になっています。
リズムパターンの無いアンビエント的な1曲目から始まり、レゲトンを基調としたビートがいつの間にか現れてはいつの間にか消えていき、気付けばアルバムが終わっている…
言わば優れたDJのライブそのもののようなアルバムです。

13. Thundercat - It Is What It Is

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Thundercat自身のみならず、BrainfeederにとってもR&B路線を開拓するきっかけとなった(と言っていいと思う)2017年傑作『Drunk』から3年ぶりの4thアルバム。
極めて正直に友愛を表したタイトルの『I Love Louis Cole (feat. Louis Cole)』や亡き親友に捧げられた『Fair Chance (feat. Ty Dolla $ign & Lil B)』、「Hey, Mac…」の呟きで締め括られる表題曲『It Is Was It Is (feat. Pedro Martins)』に見られるように、今作からはThundercatの人としての誠実さや優しさが感じられます。
個人的には『Funny Things』から『Dragonball Durag』の流れが好きですね。
「それはそういうこと(だからしょうがない)」という意味の諦念を冠したまさに人生のアルバム。

12. Loke Rahbek & Frederik Valentin - Elephant

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ノイズやエレクトロニック系の作品を中心に出しているコペンハーゲンのレーベルPosh Isolationから、主催Loke Rahbekと同レーベル所属グループKYOのメンバーFrederik Valentinの共作。
哀しげなピアノから始まる『Solina』や長い旅路の情景が目に浮かぶ『Scarlett』を始めとして、アルバム全体として儚げでメランコリックなメロディに彩られており、薄れゆく幼い頃の記憶を懐かしむような、そういう感傷に浸らせてくれるアルバムです。
ノスタルジックな音楽が大好きな人には特にオススメです。

11. Nazar - GUERRILLA

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常に時代を先取りする(良い意味で)変態的なアーティストを輩出してきたHyperdub、2018年のProc Fiskal『INSULA』、2019年のLoraine James『For You And I』に続き、2018年にEPを出していたNazarがフルレングスのアルバムをリリース。
アンゴラのダンスミュージックであるクドゥロ(Kuduro)のアルバムらしいのですが、そこはやはりHyperdub、普通のクドゥロではありません。
母国アンゴラでの内戦の体験から着想を得たらしく、アラートのように鳴り響くシンセ、ヘリコプターの飛行音、銃声等が入り混じった、あまりにも殺伐とした異形の音楽になっています(試しにYoutubeでクドゥロの音楽をいくつか聴いてみましたが、リズムパターンが独特な楽しげなダンスミュージックといった感じでした)。
最近何かと話題のNyege Nyege Tapesの作品が好きな人はハマるかもしれません。

10. Sarah Davachi - Cantus, Descant

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Recital等から作品を出してきたSarah Davachi、正直これまではあまりしくっりこなかったのですが、自主レーベルLate Musicからリリースした今作の掠れたオルガンの音や虚ろに響く物悲しいコードはかなりグッとくるものがありました。
なんでも今作は無常と終末がテーマだそうです。なんだ大好物か。
特に『Midlands』の一度音が止んでからの展開には、音色とコードだけでここまでの表現ができるのかと驚かされました。
このアルバムが気に入った人には、去年リリースのKali Malone『The Sacrificial Code』がオススメです。

9. Oliver Coates - Skins n Slime

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ActressやRadioheadの作品に参加してきたLondon Contemporary OrchestraのチェリストOliver Cotes、2018年にはRVNGIntl.からエレクトロニックのアルバムをリリースしていましたが、同レーベルからリリースの今作はチェロの音を歪ませまくった音響的作品であり、自らの武器を最大限に生かした革新的な内容になっています。
彼の経歴とチェロを使用した作品という事前情報からポスト・クラシカル的な音楽をイメージしていましたが、実際に聴いてみるとむしろMy Bloody ValentineやSunn O)))のようにロックの分野からノイズ・ドローン的な音楽性を追求したアーティスト達の作品に近い印象を受けました。
これは「弦楽器の使用を前提としたノイズ・ドローン」として上記のアーティスト達を参照したと考えると割とすんなり納得できるように思います。
『Loveless』の『Touched』みたいな『Butoh Baby』や『Life Metal』に収録されていてもおかしくなさそうな『Reunification 2018』が好きです。

8. Eiko Ishibashi - Hyakki Yagyo

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2014年の『car and freezer』、2018年の『The Dream My Bones Dream』など一味も二味も違うポップ・ミュージックのアルバムを出してきた石橋英子、2020年本作はOren Ambarchi主催Black Truffleからの超エクスペリメンタルな作品です。
全体的に不気味な雰囲気を出しつつ、電子音、生楽器の音、環境音などありとあらゆる音が入り乱れる様はまさに百鬼夜行。
度々挿入される「極楽や地獄があると騙されて 喜ぶ人に怖じる人々」から始まるささやきは一休宗純(一休さんのモデルになった人)の歌だそうです。
今年は石橋英子とよく共演しているドラマーの山本達久も二枚のアルバム『Ashioto』と『Ashiato』をリリースしており、そちらもオススメです。

7. Jessy Lanza - All The Time

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もう正直に言って私がJessy Lanzaを好きなだけかもしれないとも思ったんですが、このランキングは好きなアルバムを紹介するものなので何も問題は無いな。
というわけでJessy Lanzaの2020年作は小気味良いトラックに魅惑のボーカルを乗せた従来のスタイルを引き継ぎつつも、両者がより自然に馴染んだオンリーワンのポップ・ミュージックになっています。
最初に聴いた時はこれまでとあまり変わってないなと思いましたが、過去作と比べるとより1曲がまとまっていてすんなり聴けてしまうというか、それ故に何回もリピートしましたね。
また、このアルバムのリミックスバージョン『24/7』も12月に配信されていますが、参加アーティストがFoodman、Kate NV、Visible Cloaks、Proc Fiscal、Loraine James等錚々たる顔ぶれ。

6. Arca - KiCk i

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10年代のエレクトロニックの分野を代表するアーティストArca、20年代初のアルバムである今作は、2015年作『Mutant』以前のポストクラブ的な異形のダンスミュージックと2017年作の自己表現に焦点を当てたエクスペリメンタルな『Arca』を絶妙にミックスし、かつレゲトンやダンスホールに落とし込んだような作品であり、完成度や聴きやすさという点では最高傑作だと思います。
加えてBjork、SOPHIE、ROSALIA、Shygirlの4人のゲストがそれぞれの持ち味を存分に活かしたコラボ曲も合わさり、今までになくスペシャルなアルバムになっています。コラボ曲の中では普通に暴走しているSOPHIEの曲が好きですね。
ちなみにこれは完全に余談ですがArcaはあらゐけいいち原作のアニメ「日常」を観ていたという情報をTwitterで見かけましたね。なるほどどおりで良い作品を作るわけだ…

5. Hviledag - Over Mellem Under

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おそらく今回挙げた中で最も無名なHviledag、私もMeditations(最高であることで知られている京都のレコード屋)のツイートで偶然Sean McCannマスタリングという情報を目にしてApple Musicで試聴、非常に良かったのでレコードも買ったのですが、検索してもろくに情報が出てきません。
靄がかった質感のサウンドから立ち現れる美しいピアノの響き…と言葉にするとどこかありきたりな感じになってしまいますが、この作品はそのサウンドの没入感が圧倒的で、最初の一音の時点でビビッと来る人もいるのではと思います。というかこれは私のことです。
アンビエントが好きな人にはとりあえず一回聴いてほしい。

4. Elysia Crampton - ORCORARA 2010

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E+E名義での活動に加え、FaltyDL主催のBlueberry RecordsからデビューしたElysia Cramptonの最新作は近年絶好調のPanからリリース。
今年のPanもBeatrice DillonやEartheater等話題作を続々出していましたが、個人的にはこのアルバムを推したい。だって美しかったから…
本作はカリフォルニアのシエラネバダ山脈で囚人消防士として働いていたPaul Sousaの人生に捧げられた作品だそうです。
Elysia Cramptonと言えばポスト・クラブ的な奇妙なエレクトロニック・ミュージックのアーティストというイメージがあるかもしれませんが、本作を聴いて思い浮かべるのは満天の星空や荒涼とした大地のような荘厳な大自然、そしてそれらに対する祈りのようなアルバムだと感じました。
ジャンルとしては異なりますが、Dedekind Cutの2018年名作『Tahoe』に近い印象を受けました。

3. King Krule - Man Alive!

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2017年の前作『The Ooz』は何というか泥のような感触のアルバムでしたが、本作はドライでソリッド、例えるなら鉛のようなサウンドのアルバムです。
何と言っても1曲目の『Cellular』がかっこよすぎますね。やはり1曲目に良い曲を持ってくるのは大事です。
他にも『Comet Face』とか『Alone, Omen3』とか、今作はとにかくバンドサウンドの良い曲がたくさん入っており、これまでのSSW路線から新しい一面を見せてくれる新境地のアルバムになっています。
実は『The Ooz』の方はあまりしっくりこなかったのですが、今作はリリースされた当初から年中聴くくらいハマりました。前作がイマイチで敬遠していた方は一度聴いてみてもいいかもしれません。
ちなみに今回唯一のロックのアルバムです。
基本的にロックは好きなジャンルなんですが、今年はピンと来るロックのアルバムが少なかったですね。

2. Ana Roxanne - Because of a Flower

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去年Leaving Recordsから出していたEPがかなり良かったAna RoxanneがGrouper等のアルバムをリリースしてきたアンビエント最高峰レーベルKrankyから1stアルバムをリリースすると聞いたときは喜びのあまり寿命が延びるかと思いましたが、聴いてみたら内容がとても良かったので実際に延びました。
薄い布で柔らかく包み込むようなサウンドが特徴的なアルバムで、この感覚はありそうでなかったというか、絶妙な音量バランスの上に成り立っているように感じます。
意識が溶けそうになる白昼夢のような『Suite Pour L'invisible』やCanの『Future Days』のような『Camille』が特に好きです。

1. Actress - Karma & Desire

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貴方は覚えているだろうか。去年の6月頃にActressが「2019年10月にアルバム出す」という旨のツイートをしていたことを。
そして2020年10月にリリースされた本作は、10年代のNinja Tuneのみならずエレクトロニックの代表格であったActressが20年代においても活躍し続けることを予感させてくれるアルバムです。本当に1年待った甲斐があった。
今作の最大の特徴は何と言っても参加アーティストの多さ。Actress & London Contemporary Orchestra名義の2018年名作『LAGEOS』を除けばおそらく過去最多でしょう。
虚ろに響くZselaの亡霊のような声、悲哀に満ちたSamphaのピアノを始めとした多彩なゲスト達の音を曲の構成要素として使い、自らの世界観を補強する手腕は『LAGEOS』でも見受けられましたが、今作でも遺憾無く発揮されています。
全体的には2017年『AZD』のSF的なメタリックな質感とアンビエントの静けさが合わさったような雰囲気で、濃い世界観を有しながらもすんなりと聴けてしまうなんとも掴み所の無いアルバムです。そしてそれだけに何回もリピートしてしまいますね…

まとめ

初めて年間ベストの感想を書いてみましたが、想像の十分の一くらいの内容しか書けなかったのに想像の十倍くらい難しかったです。
レーベルとしてはXL Recordings、Hyperdub、RVNGIntl.がそれぞれ2枚と多かったです。特にHyperdubとRVNGIntl.についてはMhysaやKate NV等、ここで挙がったもの以外にも良い作品が多かったように思います。
逆にWarpからは1枚くらい選んでもよかったかなと思っています。Yves TumorとかSquarepusherとか良かったですしね。
しばらくしてからもう一度選び直すとかやってみても面白いかもしれませんね。確実に変わってると思うので。
ジャンルとしてはアンビエントの良いアルバムが多かった印象です。
特にAna RoxanneとSara Davachiのアルバムはアンビエント好きはもちろん、あまり聴かない人にもオススメできるかなと思いました。
あとHviledag、上にも書きましたがこれはアンビエント好きな人には是非一度聞いて欲しいですね。ちなみにMeditationsにはまだ在庫ありました(2020/12/24現在)。
来年は聴くだけでなく作る方もやっていきたいと思っています。

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