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こんな恋もある応募台本『馬の耳』

○文字数
2159文字
○用語
モノ —— モノローグ
メッセ —— メッセージ
ナレ —— ナレーション


○登場人物
凜音《りおん》—— 女性
真都《まこと》 —— 男性


女モノ「やっと巡り会えた、運命の人。音声配信アプリでも控えめで聞き専の私。そんな私が出会ったのは有名配信者の真都」


○配信
男「おはよう。今日も来てくれてありがとう。潜りの人もありがとね」
女モノ「最後に名前が呼ばれるだけでも嬉しいけど、もっと呼んでもらえるように積極的にコメントしなきゃ。おはようございますと打ちたいけどタイミングが難しい」
(コメントを打つ音)
男「凜音ちゃん、おはよう」
女「おはようございます!」



○配信後
女「相変わらず声が素敵で癒された。これで今日一日頑張れる」
(通知音が鳴る)
女「DMなんてめずらしいな、誰だろう? えっ真都、なんで!」
男メッセ「お礼を言いたくて。いつもありがとう。毎回欠かさず来てくれて」
女「こんなことある! 早く返信しなきゃ。とりあえず落ち着こう(深呼吸)」
女メッセ「こちらこそです。ありがとうございます。嬉しいです! ビックリしちゃいました。」
男メッセ「急にごめんね。ビックリしちゃうよね」
女ナレ「それからDMでやり取りするようになった。」
女「ふうっ。私たちなんか似てる気がする」
男メッセ「会ってみない?」
女モノ「とうとうきたー」



○待ち合わせ
女モノ「早く着きすぎた。会うことにはなったものの大丈夫かな? 引かれないかな。目印はえーっと、黒のハットとサングラスだったけ。まだ来てないかな」
(凜音、探し回る)
女モノ「あの人かな? 緊張してきた」
女「あのー」
男「はい」
女モノ「えっ、この人が……」
男「凜音ちゃん?」
女「はい。そうです」
女モノ「イメージと違う。なんか見た目おじさんだし」
男「こんなんだけど、大丈夫かな」
女「……はい」
女モノ「声はあの真都の声だ。でも外見が……。どうする? 帰りたい……でも今すぐには無理か」
男「かわいい系なんだね」
女「別に、たまたまです」
男「なんか緊張してる?」
女「ちょっと……。はい」
男「緊張するよね。あの店で休憩しようか」
女「そうですね」



○店内
男「ビックリしたでしょ、こんなおじさんで」
女「そんなことないですよ」
男「ホントのこと言って」
女「ちょっとだけ……」
男「やっぱり。顔に出てたよ」
女「……でも、それ以外は」
男「それ以外はって?」
女「なんでもないです。すみません」
男「言ってみただけだから別に謝らなくていいよ」
女「ごめんなさい」
男「だから謝らなくていいって」
女「はい」
男「そろそろ敬語やめない?」
女「でも年上の方ですし」
男「大丈夫。気にしなくていいよ」
女「そうですか」
男「ほらまた敬語」
女「あっ、つい」
男「急に言っても無理だよね。徐々にってことで」
女「ありがとうございます」
女モノ「どうしよう。めっちゃ帰りたい……。聞きたいことあんなに考えてきたのに最悪」
男「なんか顔色よくないけど大丈夫?」
女「ちょっとしんどくて……」
男「無理しないで。今日はもうこれぐらいにして帰ろうか」
女「すみません」
女モノ「これで帰れる、よかった。なんか本当にしんどくなりそう……」



○後日、凜音の自宅
女「あれから枠いけないな。てかもう行かないし」
(通知音が鳴る)
女「げっ、あの人だ。どうしよう」
男メッセ「あれから枠にも来てないし、何か気に障ることでもしたかな?」
女「気に障ることだらけですよ。とりあえずこのまま放置するか」



○真都の自宅
男「直接会って幻滅したんだろうな。俺のいいところは声だけ……。昔からよく言われてたな。今じゃ年もとってるし。やっぱもうダメだな、俺は」



○数日後。凜音、仕事の帰り
女モノ「声に惹かれて会ってみたら、おじさんで。男運ないわ、ほんとに……。あっ、あの人もしかして真都? きっ、気まずい」
男「(笑い声)」
女モノ「あれ友達かな。めちゃくちゃカッコいいじゃん」
男「あっ、凜音ちゃん?」
女「どうも」
男「久しぶりだね。仕事帰り?」
女「はい」
男「元気してる?」
女「まぁ、それなりには」
男「それはよかった。心配してたんだ」
女「すみません」
男「相変わらず謝ってばかりだね」
女「すみません、あっ」
男「ほら(笑)。そうだ、これ渡しておくよ」
女「えっ」
女モノ「名刺か。うん? 社長? マジ? あの有名企業の……、御曹司なの」
男「また気が向いたら来てよ、配信」
女「はい、喜んで」
男「居酒屋じゃないんだから。凜音ちゃんって面白い人だね(笑)。じゃあまたね」
女「あのー、隣の方は?」
男「この人? 運転手兼秘書みたいなもんかな」
女「えー、そうなんですね。なんかそんな感じしませんね」
男「そうなんだよ。よく逆じゃないのって間違われる」
女モノ「そりゃそうでしょうよ」
男「社長らしくしてくださいって、いっつも言われてるよ(笑)」
女「言われるのわかります」
男「案外難しいよ、社長らしくって」
女「そうなんですね」
男「配信では言わないようにしてる。ありのままを聞いてほしいから。隠してたつもりはないよ。言うタイミングがなかっただけで……」
女モノ「いくらでもありましたよ!」
女「(苦笑い)そうですね。私も急に体調悪くなりましたし」
男「ごめん、帰りだったね。つい話し込んじゃった」
女「あのー、あの時、返事返せなくてごめんなさい」
男「いいよもう、過ぎたことだし。じゃあ帰るね、仕事お疲れさま」



○凜音、ひとり歩く
女モノ「そうだったんだ。そんな気配すらなかった。私、玉の輿に乗れてたのかも。ていうか転がり落ちた」

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