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「#わたしのおすすめ本10選」、このハッシュタグ、ムズくね? その五。真打ち登場。

「風の歌を聴け」 村上春樹著

「完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。」

 遂に真打ちの出番である。
 言わずと知れた村上春樹のデビュー作。
 この作品については「あの春樹ちゃんのデビュー作」というだけで手放しに歓迎されているフシがある。村上春樹はこの作品でデビューしてからも、自身のデビュー作について事あるごとに語ってきた。そして、それは抽象的、表象的で、語られるごとに少しずつ差異がある。多くの村上春樹を愛好する読書家はパズルを説くように彼の言葉を分析し、この作品の評価をアップデートして、さらに称賛の言葉を重ねていく。
 そして我々「村上教春樹信者」はこのデビュー作を聖書として、布教活動に勤しむのである。
 
 僕はこの小説を一言一句漏らさず、正確に暗記している。
 記憶だけを頼りに、この本一冊をそのまま正確に書き出すことができる。
 昔、小説家を目指した時に、僕はこの小説を二十回は「写経」をして、すべて覚えてしまった。
 僕にとって好きな本というのは、そういうものだ。他にも何冊か、同じように丸暗記している小説がある。
 だから、僕はこの作品に対する評価はまるで他人事だとは思えず、評価がアップデートされるたびに一喜一憂している。
 僕は思うのだけれど、ただ作者の思考をなぞるように小説を「辿る」というのはとても貴重な体験であるし、偉大なこの作家の視点を拝借してこの世界を理解することができているような気がするのである。

 この混沌とした、まるで手に負えない、無秩序な世界も、言葉を道具に切り取ることができれば、真の理解へと近づくのではないだろうか。

 日々、僕はそう考えている。

 


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