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ゆきの日の彼女(前編)

 吹雪が戸を叩くある日、綺麗な女性が現れた。綺麗な、といったが、衣類で顔がほとんど隠れていたため、口元しか見えなかった。雪で前も後ろも見えず帰るに帰れないから一晩泊めてほしい、とのこと。


古くさい小さめの家だが、幸いにも自分しかいなかったので、女性を家の中に入れた。女性が羽織を脱ぐと、想像をはるかに上回る美しさだった。雪のように白い肌、血のように真っ赤な唇…。もしや、雪女? いや、白雪姫だろうか。


 そんな風に見とれていると、不思議なことに女性はまるで家の間取りが分かっているかのように、一階のトイレに向かった。違和感を感じながらもリビングの写真や小物を片付けていると、女性も迷わず向かいのリビングへ来た。これはどういうことだろうか。


 リビングに行くと、礼儀正しく座って暖をとるその女性がいた。

「本当にありがとうございます。実は私、昔この家に住んでいたんです。それで、もしかしたら今も人がいるかもしれないと思って、戸を叩きました」


「そうだったんですね。今はたまたま俺1人で屋敷に居ますので、いやー、ラッキーでしたね。」



   なるほど。それなら家の勝手が分かっていても納得である。



女性は雪乃と名乗った。その後は二人で夕食を食べ、雑談をし、次第に打ち解けていった。正直に言って、とても好みの女性だった。どうしても雪乃を手に入れたい、その思いで頭がいっぱいだった。甘くて強い酒を勧め、意識が曖昧な雪乃を口説き倒し、そのまま二人で寝室へと――。



 朝。ご機嫌そうに起きた雪乃は俺の頬にキスをし、顔を洗ってくるね、といって洗面所へ向かった。俺は二階の自室へ着替えを取りに行った。そのまま身支度を二階で済ませたが、突然眠気の波が再来し、空き部屋のベッドで仮眠をとってしまった。

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