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コーポエリーゼ 3C1号室

歌詞・背景ストーリー作者 The Riversun
導入ストーリー moooosha(フィオ)

なぜこんなことになっているかわからないけれど
順を追って頭を整理すると
惰眠を貪っていた午前を取り戻そうと
コーポエリーゼから歩いて40秒。
何を頼むか考える間もなく着くこの距離に
[喫茶 純]は、ある。

少し重たい扉を開けると、ドアベルが耳に心地いい。
店内はオープンキッチンが開放的な印象で
それを取り囲むように、いくつかの大きな切り出しのテーブルがある。
入口右手の出窓も、カウンターテーブルのようになっており
2つの丸椅子が少し手狭そうだが居心地の良さそうな雰囲気がある。
私のお気に入りの席、奥のテーブル席に見慣れた丸い背中がある。
ドアベルの音が鳴り止む頃、背中はこちらを振り返る。

やはりそうだ。
コーポエリーゼの管理人さんだ。
ここでは何度か会うが今日は手を振っている。
おいで、おいでと呼んでいるようだ。

「どうも、よければご一緒しませんか」

「あ、お世話になってます、お邪魔します」

普段だったら少し億劫に思うが、心なしかウキウキしているように見えて
ご機嫌の理由を聞いたほうがいいような気がした。

「何かいいことでもあったのですか?」

「ふふ、今日はこれからきっと、好きな曲が流れるのです」

聞くと、その曲とやらは
[3と8がつく日に必ず流れる]らしい。

店内のBGMはストリーミングで店主のお気に入りを
店主のルーティーンに合わせて
テーマやジャンルなどが日替わりに決まっている、そうだ。
いわゆる、音楽の日替わりランチのようなイメージ。

「あ、この曲です、聞いてみてください」

と年甲斐にもなく人差し指を立てて口元へ可愛く添える。
なんだろう、この仕草、おじさんがやると少し面白い。
曲に集中しようと目を閉じる。


「虹」かける

晴れ渡る空 通り雨知らせる電子音
走り終えた鼓動がいつもより早い
なんだ?この胸騒ぎ
晴れた先にはそびえたつ雲
ふとボールがきれいな弧を描く
あぁ、そうだ
探しに行かなきゃと思いがあせる

開け放った窓
雨の匂いが通り抜ける
風で朝キメた前髪が崩される
なんだ?このざわめきは
乱暴にめくれたページ
ちらっと「に」と「じ」が輝いた
あぁ、そうか
四角い空に大きな弧を描いてみる

この感じはなんだろう?
この感情の名前がわからない
この風はなんだろう?
この風の行方が見つからない
意味はなに? 目的はなに?
そんなことはいいからさ
意識が遠のく前に…次の呼吸をしなきゃ

さぁ!雲が裂けて光が差す前に行こう!
その感情のそれでいい
その気持ちのままかけるんだ
さぁ!その風に身を任せて突き進もう!
とにかく、いいからさぁ!全力前進 未知創造
鮮やかな虹を見つけに行こう!探そうよ!

空が急に重くなる
あっという間にいつもの土砂降りか
雨は自由に道をつくるけど
雨が止んだら消えてしまう
でも私はどうだろう?
この気持ちは消えそうもない
もうこれ以上待てないや
今から行くから待っててね

暴れ舞う風が問う
雨の後に何があるか知ってるかい?
ああ僕だって気付いてる
ただ踏み出せないだけなんだ
裂けたページをもう一度眺めてみる
やっぱりそうだよな
そうか自由に虹をかければいんだ
そうだ、風に思いを乗せてみよう

どれだけの人が雨の後に虹を探すのだろう?
僕や私だけじゃないはずだ
本当はみんな気付いている
ただ分からないことが怖いだけなんだ
そりゃ、そうだろうと雨が歌う
それでもやるしかない、と風が奏でる
その胸の中にかかる虹を信じるんだ
その強い思いは確かだから

やったもん勝ちだ、さぁ、行こう
その気持ちのままやってみればいい
全力でまっすぐ 突き進もう!
その勢いで誰も見たことない
自分だけの虹を描こうよ!

いいから、そんなに考えるなよ
色とか形とか結果なんて…そんなの関係ない!
いいから虹に向かって駆けようよ
思いをそのまま言葉で伝えるんだ
そう自分だけの虹を描けばいいんだ

思いはきっと届く!
風に乗ったノートの切れ端が羽ばたく
そこには虹の中で鮮やかに染まる
二人が寄り添っている


「不思議な疾走感と爽やかさがある曲ですね」

私が言うと、管理人さんは今度は得意げな顔をした。

「牧野さん、実はかねてよりお話ししたいことがあったのです」

管理人さんの話によると
私の住む201号室の上の階にはある作詞家が住んでいるそうだ。
それはいわゆる[ゴーストライター]をしている人で
世の中から身分を隠して過ごしているらしい。
そして、例の[3と8がつく日に必ず流れる曲]の作詞をしている人物であるそうだ。

「ここからは了承のお話になりますが」

先程口元に運んだ人差し指を再び立てて、自身の顔の前にピッと突き出した。
この人のこれは、癖なんだな?……続きの説明を聞こう。

なぜこんなことを話すかというと単純で、生活音に加えて
昼夜逆転して過ごしているので迷惑が……ということらしい。
なんと律儀なゴーストライター、と初めは笑ってしまった。
管理人さんも同じことを思ったらしいがどうにも本人からの意向だそうだ。

[喫茶 純]で聴いた[3と8がつく日に必ず流れる曲]しかり
夜に宿る人とは?コーポエリーゼに出没する[幽霊]に会ってみたいものだ。


以下、歌詞とその背景のストーリーを書いてくれた
The Riversun のページリンクです。
ぜひ、お楽しみください。

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