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サッカーをもう一歩深く見るためのポイント ③プレッシング

サッカーをもう一歩深く見るためのポイント、2つ目はプレッシングについてです。
※この記事のベースとなる「サッカーの本質」が⇩の記事の0章に書いてあります。読んでいただければ理解が深まるはずです!

簡単にまとめると…

サッカーの本質
①前進する
②最後は中央を目指す 

こちらを踏まえたうえでお読みください。


③プレッシング

ボールを持って前進しようとする相手に対して、チーム全体で連動してプレッシャーをかけて前進の阻害、またはボール奪取を狙うこと

プレッシングは守備における戦術の一部です。まずは簡単に0章で使った図で説明しましょう。

攻守の狙い

プレッシングは守備時に相手がボールを前進させることを阻害するため、すなわち対ビルドアップとして行います。そして、多くの場合でボールを持つ相手を狙い通りに誘い込み、ボールを奪うところまでがセットとなっています。

ビルドアップについての記事はこちらから⇩


なぜプレッシングをするのか

まず抑えておいてほしいのは、プレッシングは必要不可欠ではないということです。


仮にプレッシングなしのチームを想定してみましょう。ボールを持つ相手チームは、プレッシャーが来ないので悠々とボールを前に運び、敵陣に侵入できます。

しかし、だからと言って簡単にゴールができるかというと、それは別問題。プレッシングを放棄した場合、守備側のチームはゴール前に選手を集めて人の壁を作ります。


攻撃側のサッカーの本質②「最後は中央」を踏まえると、ゴール前中央で相手に自由を与えなければ失点の可能性が大きく減らせるからです。人数をかけることでスペースを、自由を相手に与えない作戦です。

このように全体を下げて、ゴール前をガチガチに固めて守る戦い方は俗に「バスを停める」と呼ばれています。消極的に見えるため嫌われがちですが…

バスを停める

ここまで説明したように、「ゴール前で跳ねかえせばいいや」と割り切ればプレッシングなぞ無用なのです。


しかし、GKの能力やCBの身長が高くない場合、ドン引きで守ってクロスやシュートの雨あられを受けるのは得策とは言えません。ならばもっと前で相手の攻撃を食い止めてしまおう、というところからプレッシングはスタートしています。

この時のキーワードは「制限と誘導」


プレッシングによって相手にプレッシャーをかけた際、ボール保持者には完全な自由が与えられず、プレーの選択肢が制限されます。中盤にボール扱いの上手い選手がいる場合、中央を通させないようにプレッシングすればキーマンのプレー回数を減らせます。こうして相手の得意な形を出させないようにすることが出来ます。

プレス

また、ボールを奪い取る能力に長けた選手が味方にいる場合、プレッシングによって相手の攻撃を誘導し、ボール奪取しやすいように差し向けることもできます。

このように、相手のプレーを制限し、守備側のやりやすい方へと誘導することによってミスを誘い、ボールを奪うのです。ゴール前の勝負になる前に片を付けてしまった方がラク、というわけです。



ここからは、敵陣でも臆することなく仕掛けるプレッシングをハイプレッシング(ハイプレス)と呼び、利点と欠点を掘り下げていきましょう。

ハイプレッシングのメリット

メリット① 相手をゴールから遠ざけられる

プレッシングがなければボールを持つチームはスルスルと前に進めるわけですが、プレッシャーをかけられた場合はそうはいきません。ディフェンスやボランチの選手がボールを繋いでいる時、ミスが出たらカウンターのリスクがあるわけです。

よって、ディフェンスの選手が無理して繋いだり、前に上がったりすることは減ります。それに合わせて中盤、前線の選手もパスコースを生み出すために多少下がらざるを得なくなります。

後退

結果として全体が下がり、攻撃側はゴールまでの距離が遠くなります。ゴールを決めさせたくないなら、ゴールに近づけさせなければいい、という考え方です。


メリット② 奪ったところからゴールまでが近い

これはメリット①と繋がるわけですが、攻撃側が下がれば、守備側は前に出られるわけです。そして、相手陣側でプレスを仕掛けてボールを奪えばゴールまで素早くたどり着けます。

敵陣でボールを奪えれば サッカーの本質①前進する の部分に大きな力を割かずに済み、ゴールを目指すための動きに注力できます。ボールを失った直後にプレッシングをかけてボールを奪い返すことで、相手の攻撃ターンを減らしつつ、自分たちの攻撃ターンを最大化させることができるのです


現マンチェスターシティ監督のグアルディオラ氏は、ビルドアップなど自分たちがボールを持つ局面へのこだわりも見せますが、ボールを失った直後の素早いプレッシングにも同様にこだわりを見せています。ボールを失ってもすぐに奪い返してしまえば、相手陣から攻撃を再開させられ、自らの手でゲームをコントロールしやすい、というのが彼の哲学です。



ハイプレッシングのデメリット

メリット在るところにデメリット在り、というわけで今度はデメリットを挙げていきましょう。

デメリット① DFラインの裏が空きやすい

これはメリットの裏返しです。相手に圧力をかけようとすれば、自然と全体は前掛かりになり、その結果後ろのスペースが空きやすくなります。そのスペースをロングボールなどで一気に突かれると一瞬で決定機に。プレスを前から掛けようとすればするほど、これが大きな問題となるのです。

プレッシングを継続しながらこの問題に対処する方法は2つ。

・ボールを持つ選手に素早く寄せ、ロングボールを蹴らせる余裕、選択肢を与えない
・ロングボールが出そうなタイミングでDFが準備をしておく

シンプルな対処法ですが、構造上生じる避けられない問題のため、細部を徹底するしかないのです。

また最近では、GKやDFでボールを繋いで相手に強いプレッシングをさせておき、相手を食いつかせてから空いた裏のスペースを突く「疑似カウンター」という手法もあります。相手がゴール前を空けるように仕向けてそこを突く、という意味です。

疑似カウンター

このように、ハイプレッシングvs裏狙いは終わりなき戦いなのです。


デメリット② 全体が間延びしやすい

これはデメリット①とも繋がります。プレッシングを掛ける意識の強いチームの場合、前線は前にガンガン行きがちですが、後ろの選手はプレスを外された後のカウンターを警戒しています。こうして後ろの選手が前進を躊躇してしまうと、前線との間にぽっかりスペースが空いてしまいます。

意思統一

ゴールへのルートは中央が最短ですから、このスペースを使われると一気にスピードアップされやすく、厄介です。裏のスペースのケアも大事ですが、チーム全体での意識の統一もそれ以上に重要なのです。


デメリット③ 体力を消耗しやすい

プレッシングは「動」の守備ですから、ブロックを構えてて守る「静」の守備よりも運動量が多く、体力を要します。前線でパスコースを制限しながら追い回す選手はもちろん、中盤やDFの選手も状況の変化に合わせてポジションをこまめに変える必要があり、相手がDFラインの裏を狙ってきた際には全力でスプリントしなければなりません。

前半からプレッシングを張り切りすぎたせいで後半ガス欠になり逆転負け…ということも多々あります。体力だけでなく集中力も90分継続するのは難しいため、プレッシングを掛ける際には時間帯や状況に合わせて強度を変え、時にはプレスを弱めることも求められるのです。



プレッシングにおけるポイント

メリット、デメリットが分かったところで、ポイントを押さえておきましょう。

ポイント① 選手がプレッシングに必要な能力を持っているか

選手の能力はプレッシングの出来に大きく関わってきます。

例えば、前からガンガンプレスをかけてボールを奪いたいチームにいる選手が次の通りであった場合、どうなるでしょうか。

・守備が嫌いで、サボりがちなFW
・ボールばかり見てしまい、スペースを管理するのが苦手なボランチ
・足の遅い長身CB

このまま前からプレスをかけても、前線のプレスが中途半端になり、中央にぽっかりスペースが空き、快速FWにバンバン裏を取られて成す術がなくなってしまいます。

各ポジションで求められることは大まかには次の通り。

FW→後ろの状況を確認しながら献身的にプレスを掛ける
ウイング→プレスを掛けつつ、全体のスライドに合わせたポジション修正
中盤→中央のスペースを管理しつつ、機を見て相手にプレスを掛ける
DF→後ろのスペースを警戒しつつ、全体をコンパクトに保ち続ける
GK→DFの後ろのスペースのカバー、声掛け

得意なことができている選手はチームの強みになりますし、不慣れなことをさせられている選手は弱みとなります。各選手の向き、不向きにあったタスクが与えられているか、は見る上でのポイントと言えるでしょう。


ポイント② チーム全体として意思統一ができているか

デメリット②と繋がります。チーム全体で動きを合わせなければ、陣形に歪みが生まれ、プレスが上手くハマりません。レベルが上がるほどに相手はそういった隙を見逃してくれませんから、味方同士で意思を統一させることは非常に重要です。

この時、特に肝となるのはプレスをスタートさせるタイミング。プレスをスタートさせるスイッチとなるプレーが必ずあります。、相手のバックパスや、CB同士での横パス、ボールを失った直後... ある特定の選手がプレッシングの旗頭となることもあります。

全体がバランスよく一体となって動くためにも意思の統一がポイントとなるのです。1か所に負荷が集中していたり、1人だけ違うことをしていた場合、タスクが機能していないのではないか、他の選手とは違う役割が与えられているのではないかと疑ってみてください。


ポイント③ 力の入れどころを共有できているか

これはデメリット③の体力面に繋がります。90分体力と集中力を保つのはトップアスリートでも難しいもの。どこかで強弱をつける必要はあります。

よくある例としては、開始15分間は強くプレッシングを掛けること。開始直後から物理的にも精神的にもプレッシャーをかけることで自分たちのペースに引きずり込み、あわよくば勢いのままにリードを奪って試合を優位に進めるやり方です。

前後半の開始直後、得点や交代の直後はプレッシャーを強めることが多く、逆に前半の中頃や試合終盤には弱まりやすいです。こうしたタイミングで試合展開に変化が起きやすいため、チェックポイントとなります。



さいごに

ここまで主に説明してきたプレッシングは、フォーメーションを基準として、それをベースに相手へプレッシャーをかけていくやり方です。

中でも、クロップ・ドルトムントを筆頭として2010年代前半に欧州を席巻したゲーゲンプレッシングはボールロストの瞬間にボールを奪い返そうとする手法です。今回は取り上げきれなかったので興味のある方はこちらから⇩



まとめ

長くなりましたがポイントまとめ。

プレッシングのポイント
①選手がプレッシングに必要な能力を持っているか
②チーム全体として意思統一ができているか
③力の入れどころを共有できているか

ビルドアップのやり方が変わった場合、相手のプレッシングのやり方が大きな理由となります。プレッシングを読み解けるようになれば、ゴール前以外の駆け引きの面白さがぐっと高まります!

この記事を参考にぜひ試合を見てみてください!

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