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【連載小説】恋愛ファンタジー小説:最後の眠り姫(95)

 その夜のクルトはとびっきり優しくて私は雲の上でふわふわ歩いているようだった。二人して顔が緩む。
「どんな子かしら?」
「きっとエミーリエにそっくりな女の子だ」
「あら、世継ぎはいらないの?」
「男なんてすぐ生まれる。そういう血筋だからね。女の子が極端に少ないんだ。だから新しい血から生まれるのは女の子に違いない」
 ふふ、と二人して笑っていると窓が急に開いた! 

 風が吹きすさぶ。

「迎えに来た。正妃よ」
「ゲッツ! こんな所まで何しに来た!」
「愛しのエミーリエと魔皇帝の宝物をいただきに来た」
「もう遅いわ。私はクルトの子を授かったんだもの。伝統には逆らえないわ」
「うるさいっ。来い! お前は幻の血を私にささげるためにいるんだっ!」
 ものすごい風が吹いたかと思うと私はゲッツにつかまっていた。
「エミーリエを放せ!」
「嫌だね。私こそが魔皇帝にふさわしい!」
 高笑いてそのまま去ろうとしたその時、電磁波ののようなものがバチバチっと火花を散らした。
「くっ。ガキが」
「姉上を放せ!」
「ヴィー! 危ない!」
「姉上! いますぐ助ける!」
 紫色の光が柱となって天井を突き抜けた。すると、私の体はクルトの腕の中にあった。
「クルト……。いたっ。赤ちゃんが……」
 急激に下腹部に鋭い痛みがさす。幸せが壊れていく。
「姉上! 今行くから。ゲッツ、もう近寄れないようにお前には魔の紐でしばってやる。帝都であがけ!」
 バシン! と落雷するとゲッツはいなかった。
「死んだの?」
「いいや、帝都に縛り付けた。姉上、待って、今魔力で助ける。フリーデも応急処置を!」
「はい。エミーリエ様失礼いたします。止血を」
 私は鋭い痛みに耐えかねてクルトの腕にしがみついていた。
「姉上。もうちょっとの辛抱です」
 ヴィルヘルムの声がしたかと思うと温かい光の中に赤ちゃんがいる姿が瞼にちらついた。
「行かないで!」
「大丈夫。ヴィーも無理をするな。魔力は全回復していない」
「命に代えても姉上の子は助ける。僕の宝物だもの!」
「ヴィー! 死んじゃダメ! 赤ちゃんはまた授かるわ。でもあなたは一人しかいない! どっちも失うならヴィーを取るわ」
「姉上」
 うるんだ瞳で見たかと思うときっと目の光に力が入った。
「大丈夫。僕不死身だから。助けて見せる」
 そこで、私は気を失った。ヴィルヘルムと赤ちゃんを呼びながら……。

 気を失っている間のことは何も知らない。ただ、誰かの子守歌で優しくゆらゆらとゆりかごの中で私は眠っていた。どこかで聞いたことのある声。クルトのお母様でもない、私の遠いお母様でもない。だけど、懐かしいあの声。あの声が聞こえるから私は最後の眠り姫となった。もう。家族と引き離される悲しみを味わうこともなく、私の後に眠り姫を出さないように。でも、もしかすると、私の血筋を残すことでまた眠り姫は生まれるかもしれない。魔皇帝の血筋。それは神官であり、神の代わりであり、人の代表でもある。平和が維持され無くなればまた眠り姫は任務を帯びて眠ることとなる。あちらとこちらを行ききしながら。あの磁場の空間に入ることとなる。誰も知らなかった眠り姫の真実はそこにあった。ただの戦争逃れの手段じゃない。もっと込み合った事情のものなのだ。それを知ってるのはおじい様と私とクルトだけ。ああ。ヴィルヘルムもいるわね。
 そこでヴィーの事を思い出した私ははっと瞼を開けて見を起こした。それをしーっ、と言ってクルトがまた寝かせる。周りにはもう誰もいなかった。クルトだけが椅子に座ってそばにいた。
「部屋を変えた。窓ガラスが散乱してたからね。みんなはもう寝静まっている。エミーリエもお眠り。俺はそばについてるから」
「あ。あかちゃんは? ヴィーは?」
「両方とも無事だよ。処置が早かったのがよかったんだ。ヴィルヘルムも余計に力を使わずに済んだ様でね。その後は医者にも見てもらった。十分だってさ。あとはしばらく安静だね」
「また安静?」
「今度は納得するだろう?」
「まぁね。手をつないで寝てくれたら文句なく眠るわ」
「困った。姫だこと。ほら。これでいい?」
 すっと動いたかと思うとクルトの力強い手が私の手を握っていた。ほっとして涙がこみ上げる。
「俺の奥さんは泣き虫さんか。小さな姫もそうかもね」
「もう。娘って決めつけてるの?」
「もちろん。さぁ、お眠り」
「ええ。クルト大好きよ」
 頬にちゅっとキスをすると私はクルトの腕の中で安心して眠りに再び落ちていった。


あとがき
出勤途中で更新です。もともとのドライブ開けば途中で止まってるもので昨日修正したワンドライブから引っ張りました。危ない。家に帰ればバックアップもう一度やり直そう。時間ギリギリ。あとがき書いてる時間ないですが、昨日ついに100話に到達しましたが、まだ終わりません。もう少しだと思うのですが。ラスボスに近いし。ラスボス後が決まってません。なんとかします。それでは行ってきま〜す。

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