オンライン販売で印税は70%




2012年6月25日、英国の新聞、デイリー・メイル紙が世界最大のオンライン書店、アマゾンコムを批難している記事を載せている。

Amazon profits from £1 ebooks 'on terror, hate and violence' | Daily Mail Online

この書店には、素人でも作品を電子データとして送り、本人にかわって、販売してくれる仕組みがある。

「爆弾の作り方」や「麻薬の製造法」などの無責任な原稿が送られてきても、アマゾンは、そのまま売り出して莫大な額を稼いでいるというのである。

書籍の値段は著者が決める。77ペンスから1ポンド48ペンスまでだと、作家の取り分は定価の35%、1ポンド49ペンス以上だと、印税は2倍の70%まで上昇する。

ジェイク・ニューマン著「予言者ムーハマッド、歴史上の怪物」という本は、コーランを燃やしたり、女性が絞首刑に処されたりする場面があるので、西欧諸国では、まず出版は無理だと著者みずから認めている。こんな描写が、なぜ、発禁処分になるのか、筆者には、皆目わからないが。

しかし、アマゾンにアクセスすれば、この本も、電子書籍として簡単に手に入る。もちろん、英国のムスリム団体からは抗議が寄せられている。

言論の自由と出版の制限のどちらに与するかと問われれば、筆者は迷わず前者を取る。近頃は、猥褻作品として槍玉にあげられるものがないのは、慶賀にたえない。

ニューマン氏の本は、タイトルの付け方から判断して、箸にも棒にもかからないキワモノなので、普通の読者はまず相手にしないだろう。

言論の自由の行き届いたドイツで、最近までヒトラーの「我が闘争」が発禁書になっていたと知って驚いたものだ。

この本を読めば、ヒトラーがある面で精神に異常をきたしているのが明瞭にわかるので、歴史の教材にはピッタリだと思うのだが。

2011年に亡くなった北杜夫も、「航海記」のなかで、ヒトラーについて次のように記している。・・・一種の天才児がやはり正真正銘のバカであることを証明するに足りる。

こちらは、まだ50代の前半で、2010年に膵臓がんで亡くなったノンフィクション作家、黒岩比佐子が遺著の「パンとペン」で印税70%を手にできていたらと筆者は想像をたくましくする。

この本は、おそらく書き上げるまでに3年を費やし、取材費も惜しみはしなかったと思えるほどに丹念に仕上がっているので、定価2400円の70%に7刷分の1万2000冊(これは筆者の推定だが)をかけて、約2352万円を著者は手にしてしかるべきであろう。

こういう第1級の作家は、萩原延壽と同じように朝日新聞社が毎日の紙面を提供して、財政援助をしてやるべきであった。

聾唖の写真家、井上孝治と「酒道楽」の作家、村井弦斎の評伝執筆では、きっと足が出たにちがいないので、堺利彦の場合は、印税をたっぷりと手にしてもらいたいと思ったのである。

黒岩比佐子は、むのたけじと頻繁に手紙のやり取りをしているので、ふたりの往復書簡がいつの日か、出るものと筆者は楽しみにしている。ほかに、ガンで亡くなる前に講演会を開いているので、その模様が動画共有サイトに、掲載されることも望んでいる。

堺のあとは、ヘレン・ケラーの評伝に取り組む予定であったと、なにかの機会に耳にしたことがあるが、著者の早すぎる死は、なんとも悔やまれる。

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