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アイダ・ルピノ - 青春がいっぱい (1966) The Trouble with Angles

50年代に8本の長編映画と数百のテレビ番組を監督し、半世紀にわたるキャリアを通じて60本近くの映画に出演したアイダ・ルピノが、長編映画として最後に監督した『青春がいっぱい』を観た。ロザリンド・ラッセルが修道院長を、ヘイリー・ミルズとジューン・ハーディングがやんちゃでいたずらばかりしては修道女たちを困らせるませた少女二人組を演じている。アイダ・ルピノは、1940年代にワーナー・ブラザーズと契約していて、当時アメリカ監督協会の会員になった唯一の女性だったそう。なおかつ男性的なジャンルだったフィルム・ノワールの傑作を後世に遺した、ハリウッドの女性監督のパイオニア的な存在として、死後に大きな評価も得ているそう。スコセッシが彼女の死に際して、追悼文を書いたそうだけど、どこかで読めたらうれしい。

青春がいっぱい: あらすじ
カトリック系の寄宿学校であるセント・フランシス・アカデミーの生徒となった、メアリー・クランシー(ヘイリー・ミルズ)とレイチェル・デバリー(ジューン・ハーディング)、いたずらばかりの少女ふたりの成長物語。物語は3年に及び、少女たちの数々のいたずら(火災警報器を鳴らしたり、地下室で葉巻を吸ったり、修道女のシュガーボウルに泡風呂を入れたりするなど)を描く。主人公メアリーは成長するにつれて、教師への尊敬の念や、修道女になるために必要な献身的な姿勢を身につけるようになり、そのうちの一人が人生を変える決断を下すようになります。

imbd https://www.imdb.com/title/tt0061122/

入学早々、列車のなかでたばこを吸うメアリーと仲良くなったレイチェルのいたずらと、そのたびにうんざりする修道院長(ロザリンド・ラッセル)の日々が描かれていくのだけど、ただひたすらにイタズラがかわいくてたのしい。名前を変える、立ち入り禁止の修道院にほかの寄宿生たちを招待してお金を稼ぐ(結果、閉じ込められて出れなくなる)、修道女たちが飲むお茶に石鹸をいれると修道院長が話しているあいだに泡が部屋に充満する、地下で葉巻をくるらしていたら、けむりが充満した末に火事と勘違いされて消防車が呼ばれるなどなど。間の取り方とかセリフがウィットに富んでいてそれだけで見ていて楽しいコメディだった。そのうえに、映像による説明がうまくて全然ダレないところも良い。冒頭から名前を変えるというイタズラを思いついた(brilliant idea!とメアリーがいう決め台詞に笑う)主犯のメアリーとレイチェル。そのことがばれて、入学初日に修道院長からお叱りを受けるんだけど、そのシーンはいっさい省かれて、カメラは修道院長の部屋の外へ。これからふたりが過ごすことになる修道院を移動して、説明してくれるとか。とにかく説教のシーンがなく、いたずら→修道院長の部屋→罰則として皿洗いなり片付けなりをしているシーンへという繋ぎ方がたいへん潔く、諭したり、学ばせたりすることや宗教についてのお勉強映画じゃないところが楽しい。

イタズラと改心だけの「女の子映画」であれば、そこまでこの映画はヒットしていないと思うけれど、この映画がおもしろいのは、メアリーがひたすらよく周りの大人たち(修道院なので男性はなし、たまに出てくる叔父さんとかレイチェルの父は、ほとんど透明な存在)のことを観察し、会話を聞き、男性優位的な社会、または妻・母という役割についての負の側面について考えていて、その代わりに修道女たちのコミュニティに築かれた友情や絆の素晴らしさをきちんと目撃しているということだとおもう。厳格さとはちがった側面の修道院長の姿は、メアリーだけしか気づかない。ぼーっと外を見つめるときに見えた、あるいは閉まらない窓を閉めるときに見えた修道院長の姿、同僚で院長の助手でもあったシスター・リグオーリが亡くなった時に涙を流す姿など、メアリーとレイチェルが過ごした3年間というかけがえない時間を描くとともに、メアリーがひとりでいた瞬間がかけがえなさとして提示されている。ロザリンド・ラッセル演じる院長も、指導者として優れていて忍耐強く、厳格でいて、知識がありながら高慢ではなく、他者への共感を示すことができ、涙を流し、「普通」の人と同じように夢を持っていたが、別の決断をした女性として描かれているところにも共感してしまう。人生は思い通りにはならないこと、それぞれに過去があり、「決断」したからこそここにいるということが重要だとでも言ってくれているよう。先人の女性たちから学ぶこと、そのシスターフッドを描く軽やかな王道青春コメディ。

  • 作品
    The Trouble with Angels
    1966年、アメリカ、1時間52分
    監督:アイダ・ルピノ
    出演:ヘイリー・ミルズ、ジューン・ハーディング、ロザリンド・ラッセル、他


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