2019/3/2

‪僕が祐介と出会った年は新型の肺炎が流行った年だった。対処するワクチンがない、新しい型のウイルスが人から人へ乗り移っていったのだ。街の人たちは一様にマスクをし、また、生産の追いつかなくなったマスクを求めてドラッグストアには人が詰めかけた。おまけにティッシュペーパーやらトイレットペーパーやらもいずれ品薄になるだろうという情報がどこかから流れて、(実際にはそれらは特にウイルスの影響を受けて品薄になるような状況でもなかったのだが)みんな大して急に必要でもない白い紙まで求めて街を彷徨う事になった。いつの時代も感染症は何らかの混乱を巻き起こすのだ。これじゃ中世ヨーロッパなんかと何も変わらないじゃないか、と僕は思った。学校の授業は休みになり、多くのコンサートは中止になった。プロ野球のオープン戦は無観客で行われ、ガラ空きのレフトスタンドに新人が時おり打球を放り込んだ。白球がプラスチックの座席に一つコン、と気持ちいい音を立て、ナインが観客に代わり拍手をした。いや、代わりというと少し違うかもしれない。チームメイトはどちらにせよ拍手をしただろう。いずれにせよ拍手の音数が減ったのだ。そんな年だった。‬

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