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多面体と均等性のサッカー~ロティーナ清水 初陣の分析

2/27 Jリーグ開幕節で、ロティーナ=清水がアウェイ鹿島戦をスティールし、1-3と逆転勝ちして、初陣を飾った。

新加入7名が先発し、昨季からピッチにいるメンバーはキャプテンの竹内を筆頭に、CBのヴァウド、CF→LMFに立ち位置を変えたカルリーニョス・ジュニオのブラジル勢に加え、DMFの中村を含めた4人のみとなった。

開幕戦

半面では、ホームグロウン組は竹内のみとなり、チームの強さは増したものの、やや寂しさがないといえば噓になる。この状況を、新加入組に追い越されたメンバーたちが覆すことで、チーム力が上がっていく構図となった。カップ戦や、日々のトレーニングを通じて、アピールし返してもらいたい!

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ボールサイドへ全体がスライドする守備の特徴をもつロティーナのサッカーだが、そのことはザーゴも同じで、ある意味では、よく似たチームの嚙み合わせから、火花が散るような緊張感のある攻防が続き、レヴェルの高い代表戦のような雰囲気が漂った。そのなかで、2年目という熟成度のちがいと、エヴェラウド=上田の2トップの存在感や、中盤でボールを狩る三竿の存在感が目立ち、序盤は鹿島がやや優位な展開となった。試合を通しても、ゲームを支配したのは鹿島のほうだったといえる。

決定機でポストやバーに当てる場面が多く、結果は反対になっていてもおかしくはなかったが、現実にはシュート7本のうち、枠内シュート3本をすべて沈め(3本目はOGの判定)、勝利したエスパルスだった。

この勝利に対して、既にいろいろな興味ぶかい見方が出ているが、それこそが、ロティーナのサッカーがよくできている証拠である。守備に対しては、DAZN解説の高木琢也さんが、サイドの攻防に人数を割かず、中央に多くの選手を入れていることを指摘していた。中央の2枚と、逆サイドのDF、および、DMF2枚が中央を固め、浮いてしまう相手の中盤にはFW1枚を割いて、スペースを埋めた。

そのため、場面によっては犬飼などもアタッキング・サードにちかい位置に上がってきては、チャンスメイクする場面すらあった。

押し込まれた展開であったことは、間違いない。スタッツをみても、清水のシュート7本に対して、鹿島は3倍の22本を浴びせ、パスも200本ほど多かった。昨季と比べて、失点に直結する不用意なミスは少ないものの、まだまだコンビネーションは完璧でなく、上位チーム相手に試合を支配するところまでは来ていなかった。しかし、そのことは想定内で、プランが組まれていたことは想像に難くないのである。

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布陣は想定通り、4-4-2を基本とするものの、2トップの一角を務めたディサロ or 後藤は、頻繁に中盤からゴール前を往復し、相手ボランチをみるタスクが多かった。特に立ち上がりのところで、この役をこなしてリンクマンに徹したディサロの働きは、この試合のMoMとしても差し支えないように思う。パスミスなどもあったが、彼の動きがチームを助け、相手のゲーム支配を大きく妨害したことは疑いない。

レレ

ディサロが振り子のように動き、清水の陣形はサンタナを軸に、自在に角度を変えて、多面体の構造で動いた。右に傾くと、カルリーニョスとサンタナの2トップとなり、左に傾けば、RMFの中山がウイング的に突出したようになって、坂の上からセンターのサンタナらにボールを送るようなイメージにみえた。

スポナビでは清水の布陣を4-3-3と書いており、ディサロがインサイド・ハーフ、カルリーニョスと中山がウイングで表現されている。そのような見方もできなくはない。両サイドの「ウイング」はドリブルにも優れた選手で、裏抜けを含む、縦の攻撃を得意としており、破壊力がある。昨季は金子や西澤が入り、どちらかといえば中央に入って、コンビネーションで崩していたのとは変化が生じた。

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ミルアカの動画では、あくまで4-4-2とみて、攻撃では左に寄せて、逆サイドのアイソレーションをつくり、中山が浮く展開を重くみている。さらに2トップのうち、ディサロ or 後藤が頻繁に下がり、マッチアップのCB町田を放置することで、迷いを生じさせ、ディフェンス間の距離を広げることで、機をみて隙を突く作戦だったと分析している。サンタナの相棒こそが、ヤバい奴だと表現している。

もちろん、その裏ではサンタナ自体が、かなりヤバい存在である必要もあった。これも期待通りで、エヴェラウドとはまたタイプがちがうものの、日本でチート級といえる素材であることは間違いない。アタッキング・サードでも面白いように勝てるので、サンタナは頻りに相手のディフェンスに向けて、しつこく体を入れるようになった。得点後はなおさら、その存在感に引っ張られる結果となり、片翼の後藤への警戒がなおざりになる。

〈データ分析〉

1、均等なプレー数

スポナビの集計データを見ると、いま見てきたようにトリッキーな仕掛けの多さでありながら、①ポジションに安定感があり、②役割が均等に分割されていることがよくわかる。プレー数は58分以上プレーした11人で、権田の50から、片山の95まで、差が小さい。フルタイムをプレーした中山が62に止まり、58分で最初に交代したディサロが54、片山が95ということで、やや左に傾いてはいるものの、その他の選手も含めて、均等性が高いのだ。

これがアタッキング・サードになると、順調に攻撃陣と、組み立て役の中村が上がってくるため、ポジションの役割が安定的に発揮されていることがわかるのである。当然といえば当然だが、ここまでくっきり数字に表れるのは珍しい。

2、タイトなパス成功率

パス成功率は支配的だった鹿島でも7-8割、清水では6-7割の選手が多く、ソリッドでスペースのない展開のなかで、自由にボールが回らず、高い精度とコンビネーションのよさが求めるれる展開だったことが窺える。特にスプリントの最高速度をみると、清水は毎時 32.6 kmが MAX で、助走距離が短く、トップスピードに入る時間がなくて、近い距離でクイックリーにボールが動いたことを示している。これは、鹿島側も大差ない。

3、前後半の差

78分から、清水は3得点を挙げたが、鹿島の弱点として、後半の動きが落ちる点を指摘したい。特に前半は脅威だったエヴェラウドも、前半のスプリント14本に比べると、後半は僅かに4本と落ちが顕著である。一方の清水は、トップの中山と原が前後半でほとんど差がなく、90分を文字通りに走りきり、サンタナ、カルリーニョスの落ちも少ない点で差があった。前半の迫力を忘れられず、ザーゴがエヴェラウドを交代しなかったことも敗因のひとつかもしれない。

4、攻めあぐねた鹿島

鹿島はアタッキング・サードでも、DFやボランチのプレー数が多く、清水が固めた内側を破るのに苦労していた(リスクのない外側で回していた)ところが窺える。

5、課題とまとめ

真ん中を固めながらも、支配率は 46:54 に収め、リスクを管理しながら、攻め返す時間も多かったことで、清水が勝利を掴んだといえるだろう。コンビネーションなどがさらに高まっていけば、この比率は高められるはずだと思う。そこでは、また別の課題が表れるにちがいない。

パスの成功率、特にアタッキング・サードをみると、サンタナ、ディサロとも4割程度で、低く、カルリーニョスを除き、3本以上のパスを出した選手では平均して5-6割程度で、鹿島よりも有意に低い。ただし、鹿島の側も既にみてきたように、確率が高いのはDFとボランチの選手である。そのなかで、攻撃陣では土居だけが7割を超えており、本数も26と最多で、危険な存在だった。いつもながら、代表に選ばれないのが不思議な選手のひとりだ。

土居

その土居のシュートを含め、いくつかのキー・プレーで鹿島側に運が転がっていれば、もちろん、逆の結果もあり得ただろう。完璧な勝利ではなく、まだまだ課題は多いと思う。

結局、サッカーは運に左右される部分が大きい。ただ、その運を引き寄せるために必要な技術や、戦術があるわけである。技術面や連携では、まだまだ鹿島のほうに分があった。しかし、守備的な連動や、戦術の仕掛けの多さ、そして、持久力においては、ロティーナ=パランコの清水エスパルスが、ザーゴの鹿島を上回った。



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