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【アサクリ】アルフレッド王の封蝋の元ネタメモ【ヴァルハラ】

ゲーム「アサシン クリード ヴァルハラ」のシネマティック・トレイラー (2020年4月発表)に出てきたお手紙について書いた記事で、「アルフレッド・コイン風の封蝋スタンプについてはまたいつか」と書いてすっかり放置してましたが、
動画の1:00~あたり

今更ですが、折角なのでメモしておきます。
【2022/1/23:封蝋についてやや追記(些末)】

◆スタンプの外形はエセルウォルドのシール

外形は、大英博物館に所蔵されている、9世紀半ばのイーストアングリアのダニッチ司教、エセルウォルド (Æthelwald of Dunwich, Suffork) のシール (スタンプ) を模していると思われます。

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▼実物写真。印面は「Ethilwald」となっています。

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© The Trustees of the British Museum

少々わかりづらいですが、先端の形状も再現されているっぽいですね。
また、材質は銅合金 (copper alloy) なので、動画でも元々 (当時) の黄銅っぽい色を再現しているようです。時間を遡ったようで、興奮。

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【ダニッチ司教 エセルウォルド (アセルワルド?) について
詳細は不明ですが、845年~870年にダニッチ司教の職に就いていたようで、これはアルフレッドの父王エセルウルフ~兄王 エセルレッドが在位していた時代に当たります。※アルフレッド王の在位は 871年~。
ダニッチ司教 (Bishop of Dunwich)」は、「カンタベリー大司教」「シャフツベリ司教」等と同様に役職名です。
ダニッチ (Dunwich) は当時のイーストアングリアの首都 (のひとつ) で、東部海岸沿いの街ですが、その街だけでなく、イーストアングリア王国の南部地域、現在のバリー・セントエドマンズやイプスウィッチの教区を担当していたようです。

なお、アルフレッド王の甥 (兄エセルレッドの息子) のエセルウォルド (Æthelwold)、および同名のイーストアングリア州公 (Æthelwald, Ealdorman of East Anglia, ~962年死去) とは別人です。念の為。

▼このシールの詳細は、大英博物館の該当ページで。


◆印面はアルフレッド・コイン(のアレンジ版?)

で、印面ですが、「AELFRED REX」(アルフレッド王) とあり、パッと見はアルフレッド・コイン (アルフレッド王の時代に発行されたコイン) ですが、
実際に見つかっているコインのデザイン (※バリエーション多数) より、少し見映えをよくしてあるのかも?という気もします。

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前述のように、一口に「アルフレッド・コイン」と言っても、鋳造所や時期によってデザイン (顔つき) が微妙に異なり、すでに各地で発見されているものや、近年発見されたワトリントンの財宝 (Watlington Viking Hoard)など、大英博物館のサイトや、アシュモリアン博物館のサイトに画像があるものだけも、様々なのですが、

▼大英博物館のアルフレッド王コイン検索結果:

「ワトリントンの財宝」の特集ページ
マーシア王チェオルウルフ (Ceolwulf)のコインなども見つかっており、かつてはヴァイキング支配下の傀儡王と思われていたのが、実際はもっと権勢があったらしい、という研究を裏付ける一助となっているっぽい。

予告動画のものは、(光線や角度のせいかもですが) 実際のコインより鼻筋とアゴが通った、ギリシャやメソポタミアっぽい (??) 顔立ちになっている感じもします。

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なお、実物のコインもアルフレッド王本人に似せている訳ではなくローマ時代のコインや、フランク王国(カロリング王朝、メロヴィング王朝) のコインのパクリ...もとい、劣化コピー... もとい、お手本として、名前だけ変えている感じです。

大英博物館のコレが、結構近いかもしれません。

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なお右 (裏) 側は、ロンドン (Londonia) を表すモノグラム。ロンドンで鋳造されたようです。

▼アシュモリアン博物館に展示してあった 2点。かなり作風が違う。(筆者撮影)

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いずれにしても、ローマ支配時代のコインに比べると、かなり劣化しております。

【予想】
もしかしたら、トレイラー動画と全く同じアルフレッド・コインがあるのかもですが (知識不足で見つけられず)、名前の部分も含めて、ゲーム用/予告用にちょっと見やすく、カッコよくしたんじゃないかな?などと、素人考えで予想したりしています。

【ゲーム内のコインの画像】
で、実際のゲーム内のウィンチェスターにも鋳造所がありまして、「こ、ここでアルフレッドの顔っぽいコインを作っている...!!!」と大いに興奮したのですが、そのへんに転がっている出来立てホヤホヤのコインは、残念ながらアルフレッド・コインではありませんでした。がっかり。

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【余談】
鋳造所とアルフレッド王のコインと言えば
、イギリスのロイヤル・ミント (公営造幣局) が今年 (2021年)、アルフレッド王即位 1150周年を記念して (笑) アルフレッド・ジュエルのデザインの5ポンド硬貨を出したらしく、今見たら高額なコレクター版は品切れ、お手頃な £13のものは「入荷待ち」になってるんですが... ギャー...。
と、呻いております。
【2021/5/10追記】再度見たら、一応購入は出来るようになっていました。
また、日本の正規代理店でも取り扱いがありましたが、今確認したら検索結果から消えていたので、要問合せかも知れません。

▼ゲーム内の「ロイヤル・ミント」的な場所。ふいごを使った溶鉱炉や、型抜きの作業が行われています。

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◆当時の実際の封蝋のスタイルについて雑感 (オチなし)

で、2020年11月にゲームが発売されたところ、
トレイラー動画はあくまで『※イメージです』で、アルフレッド王のキャラデザもかなり変更されていましたが....

▼おでこが印象的なゲーム内のアルフレッド王。

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それはさておき、
▼以下は実際のゲーム内の画像ですが、こんな感じに封蝋された手紙があちこちにあります。

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この、リボンで巻いて、中央を蝋で封緘するスタイルは、何となくもっと後の時代っぽいような気が (無知なので) するんですが、どうなんでしょう。

【参考】14世紀 のチャーター (勅命書) にほどこされた封蝋の例が大英図書館のブログにありました。

文書は後の時代ですが、封蝋のシール (スタンプ、母型/ matrix) エドガー王 (在位 959~975年) の娘、イディス (Edith) を聖人としたデザインで、彼女の存命中~すぐ後に作られた、つまり 10世紀のもののようです。

封蝋の仕方も、リボン巻き+封というより、文書そのものにくっつけてぶら下げ、みたいな感じ (ペンダント・シール) なので、トレイラー動画のコレの方が近いんじゃないでしょうか。

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「封」をするというより、花押/署名みたいな感じ?このへん、無知すぎてよくわかりません。
イギリス、少なくともエドワード長兄王 (アルフレッド大王の息子) の時代には、Letters Close とか Close Roll と言われる形態で公文書に封緘をして、シールはぶら下げる感じだったようですが...。

あとはこの、シーリング・ワックスがこの、丸善の文房具売り場で売ってそうなスティック状の形態だったのか、とか、興味は尽きませんが、無知丸出しなのでこのへんで終了しておきます。

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【追記余談】
時代的に違いますが、15世紀イタリアのドラマ「ボルジア家~愛と欲望の教皇一族 (The Borgias)」では、「アサクリ II」「アサクリ:ブラザーフッド」にも出てくるロドリーゴ・ボルジア (教皇アレクサンデル 6世) が封蝋を使うシーンに ワックスメルティング・スプーンを使ってました。

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▲アサクリ内よりずっとシュッとしているロドリーゴ。((C)Showtime)

当時のシーリング・ワックスは蜜蝋と天然樹脂 (レジン) の混合物でしたが、教皇は鉛や錫などの軟質金属 (ハンダのような) を用いた「ブッラ (Bulla)※」を使用することもあり、ここから「Papal Bulla (教皇のブッラ)」を付けた文書=「教皇勅書 (Papal bull)」を意味するようになったらしいです。上記のドラマにも出てきます。
※ブッラの歴史は古く、粘土製なども。(シールも同様)
【追記終わり 2021/06/06】

【さらに追記余談】
映画『わが命つきるとも (A Man for All Seasons)』 (1966) を観ていたら、こちらではもっと大きめの、舟形の器具を使っていました。
16世紀のヘンリー8世時代の話 (トマス・モアが主人公) なので、上記の「ボルジア家」より前。このへんの考証はやっぱりわかりませんが、参考までにメモ。

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▲右はレオ・マッカーン演じる出世前のトマス・クロムウェル。
【再追記終わり 2022/01/23】

▼あまり関係ないですが、13世紀のリンカン (Lincoln) の女性が、ビジネスの拡大に伴ってシーリング・スタンプをグレードアップしていったっぽい、という動画。実物写真も少し出てきます。

雑感終わり。

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