アルファ・オールタイム・ベスト #6 ―わたしのこの1曲―

江草LDK_プロフィール写真_切り抜き

江草啓太(ピアニスト/作・編曲家)

2008年にマキシシングル「KALAYCILAR」を植松伸夫設立のドッグイヤー・レコーズからリリース。朝崎郁恵、伊藤多喜雄、雪村いづみ、加藤登紀子、小西康陽、島田歌穂、Smooth Ace等のサポートを務め、えぐさゆうことのDUOでは屋久島、奄美大島等の古謡や作業唄を発掘し蘇演する試みを行う。
横浜・名古屋・大阪で行われた『LA LA LAND - IN CONCERT -』では、ソリストとして東京フィルハーモニー交響楽団と共演。
宇野誠一郎トリビュート・プロジェクトは、今年7枚目のアルバムをリリース。舞台作品への関わりも多く、『ETERNAL CHIKAMATSU』、『黒蜥蜴』、『音楽劇『道』』(いずれもデヴィッド・ルヴォー演出)で音楽を担当し、今冬から来春にかけては『オトコ・フタリ』、『いまを生きる(再演)』、ミュージカル『アリージャンス』の音楽/音楽監督が控えている。

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1972年、後楽園球場で観たエマーソン・レイク・アンド・パーマーの来日公演に影響されてピアノを始めました。4歳の時です。スタジオミュージシャンの父に連れて行ってもらいました。以降、アニメ(って呼び名は確か当時はまだなくて「テレビまんが」ですね)の主題歌をカセットテープで録音して聴く幼少期。テレビのスピーカーにカセットレコーダーを近づけて録るスタイルです。

小学生3、4年の頃に観た『宇宙戦艦ヤマト』で宮川泰先生の音楽の虜になり、父に頼んでLPを買ってもらい、それでレコードの聴き方を覚えました。チャイコフスキーを聴き出したのもこの頃。そして、父に連れて行ってもらった前田憲男先生のコンサートでアレンジの楽しさを知りました。なので宮川先生と前田先生が小学校高学年当時の自分にとってのアイドル。父は同業者から色々な音源の情報を教えてもらうことがあり、恐らくそこで知ったであろうタモリのファーストアルバムはよく家族で聞いていました(いま思うと小学生が聴いて良いのかって内容もありますが)。

そんななかで出会ったYMO。中学時代はYMOとその周辺、すなわち必然的にアルファレコードがリリースしていたものを多く聴いていました。多感な頃にリアルタイムで刺激的な作品に多数触れられたのは自分にとっての財産です。ひとことで言えば「テクノ」なのですが、そのなかには、実は様々なジャンルが内包されていたと気づくのはもう少し時間が経ってからです。そして、並べてみると、やはりアルファレコードの作品は自分の音楽人生に密接に関わっていたんだなあと思います。

以下は、当時の思い出と、自分が音楽で仕事するようになってからの出来事とも繋げた極私的な選曲とコメントです。曲順は年代順ではなく、続けて聴いた時によい流れになるようにしました。

江草啓太によるアルファ・オールタイム・ベスト
( )内は発売・公開年/月

01.翼をください/赤い鳥
作詞:山上路夫 作曲:村井邦彦(1971年2月)

02.昔のあなた/雪村いづみ
作詞:山上路夫 作曲:服部良一(1974年7月)

03.今日、恋が/高橋幸宏
作曲:高橋幸宏(1981年10月)

04.スネークマン・ショー/スネークマン・ショー(1980年6月)

05.CITIZENS OF SCIENCE/YMO
作詞:クリス・モスデル 作曲:坂本龍一(1980年6月)

06.COSMIC SURFIN/YMO
作曲:細野晴臣(1996年5月)

07.Guitar Genius/立花ハジメ
作曲:立花ハジメ(1982年5月)

08.老人よ 異常はないか/EXPO
作曲:EXPO(1987年9月)

09.安里屋ユンタ/ハリー細野とイエロー・マジック・バンド
作詞・作曲:沖縄民謡(1978年4月)

10.OPEN SESAMI/Sandii & The Sunsetz
作詞:久保田麻琴 作曲:久保田麻琴・井ノ浦英雄(1982年9月)

11.曙/ゲルニカ
作詞:太田螢一 作曲:上野耕路(1982年6月)

12.鏡の中の10月/小池玉緒
作詞:売野雅勇 作曲:YMO(1983年9月)

13.僕のマシュマロちゃん/MANNA
作詞・作曲:MANNA(1991年9月)

14.Galaga
作曲:大野木宣幸(1984年4月)

15.おいらを呼ぶドラマ/タモリ
作詞:高平哲郎 作曲:鈴木宏昌(1981年9月)

16.シムーン/江草啓太
作詞:クリス・モスデル 作曲:細野晴臣(2008年8月)

●「翼をください」赤い鳥
小学生の時、教科書に載っていたのですが、他の曲とは雰囲気が違うと漠然と感じ取っていました。それもそのはず、子供のために作られた曲ではないんですもんね。歌っているとちょっとだけ背伸びできるような気がしました。
いまアルバム・バージョンを改めて聞いてみると、keyがCでバロック的なコード進行。サビはカノン進行ですが「♪飛んで行きたいよ」の「よ」のところでBbのコードが出てきます。恐らくここが特に「背伸び感」だったんだと気づきました。それまで自分の身の回りになかったロック的な、ビートルズ的なコードの使い方が新鮮に響いたんだと思います。

●「昔のあなた」雪村いづみ
服部良一作品をティン・パン・アレー+服部克久のアレンジでカバーした名盤『スーパー・ジェネレーション』から。
昔の恋人と再会した時間を描いたこの一曲を書き下ろしで入れるセンスがニクいです。
まだ自分が20代半ばで駆け出しの頃から30代越えたくらいまで、いづみさんのサポートをしていた時期があります。最初はキーボード、しばらくしてピアノにコンバート。そして2000年頃のツアーで、このアルバムから数曲演奏することになりました。ある音源が必要だったのでスタッフがLA在住の村井邦彦さんとやり取りしていました。直接ではないにしろ思わぬところで村井さんと繫がりが持てただけで、当時は嬉しく感じていました。
それから何年か経ち、フリーペーパー『月刊てりとりぃ』で父のことを連載していたところ、村井さんも同紙に参加されることになり、年に一度の関係者による懇親会を、村井さんのご厚意で、何度かLDKスタジオで開催させていただきました。細野さんがアルファ内でYENレーベルを立ち上げた時に拠点としていたスタジオです。ピアノがあったので、後述の「マッピー」などYENレーベルにゆかりのある作品を弾かせていただいたり、そしてある時は作曲家の桜井順さんと村井さんと僕の三人で連弾をさせていただいたこともありました。ちなみに今回の自分の写真は普段のプロフィール写真ではなく、その懇親会の際にスタッフにお願いしてスタジオのコントロールルームに入れていただいた時のものです。その後、LDKスタジオはビルの老朽化によって取り壊されてしまいましたが、これらは一生忘れられない思い出となりました。

●「今日、恋が」高橋幸宏
スネークマンショーのアルバムの中に突然現れるフランシス・レイ風な楽曲。
YMOの3人が映画音楽を手掛けるのはもう少し後ですが、もしも80年前後にオファーがあったとしたらこの路線のものがもっと聴けたのかも……などと妄想します。

●「スネークマンショー」スネークマンショー
小学校6年のある日の夜。リビングにいると父が帰って来て「知り合いから面白いのもらったよ」と一本のテープを渡してくれました。発売されたばかりの初代ウォークマンに入れて再生すると、流れてきたのは麻薬現行犯を取り調べる警察としらばっくれる男のコント。こりゃ可笑しいなあと聞き入っていたら…(次の曲に続きます)。

●「CITIZENS OF SCIENCE」YMO
クロスフェードで流れてきた音楽に耳を奪われました。シンセサイザーにはそれ以前から興味を持っていましたが、この曲は今までにない未知なる音楽に思えました。
YMOはテクノポリスやライディーンではなく、少し影のあるこの曲から聞き始めたので、その後の『BGM』、『テクノデリック』といった中期のアルバムも全く違和感なく入り込めました。

●「COSMIC SURFIN」YMO
1980年、ロンドンのハマースミス・オデオンでのライブ音源です。90年代になってCD『WORLD TOUR 1980』に収録されました。会場の観客の三割がミュージシャンだったらしいです。この日の演奏はBBCでも放送されたそうで、イギリスでの注目の高さが伺えます。日本でも当時NHK-FMでオンエアされ、自分はエアチェックしたのを愛聴していました。
プログラム前半の「RYDEEN」、「MAPS」などではクールな中にも熱量が感じられますが、後半に向かうにつれ「NICE AGE」、「在広東少年」、「FIRECRACKER」あたりでどんどんヒートアップしていく、ライブならではのドラマティックな展開が感じ取れます。そしてアンコール一番最後のこの曲。教授のプレイがいつになくアグレッシヴです。

●「Guitar Genius」立花ハジメ
ニューウェーブって色々ありますが、シンセサイザー抜きの編成となると、自分がイメージするのはこの曲かも知れません。ハジメさんのギターが炸裂。サックスの格好良さはこのアルバムで知りました。

●「老人よ 異常はないか」EXPO
曲中、「ブラスバンドがTuttiで音階の練習中、クラリネットかサックスがリードミスをしてしまう」というのをシミュレートしています。「人間の間違いを打ち込みで再現する」って考え方は衝撃でした。メンバーの山口優さんとはパソコン通信の時代に繫がりました。
「このアルバムのカセットを持ってます」と伝えると、「これは常盤響のデザインの最初の仕事。カセット版を持ってないので、手持ちのLPと交換して欲しい」と申し出がありました。
自分もレコードで欲しかったので、高円寺にあった山口さんのお店で取り替えてもらいました。

●「安里屋ユンタ」ハリー細野とイエロー・マジック・バンド
貸しレコード屋が出現したばかりの頃、初めて借りたレコードの中の一枚です(ちなみに下北沢のレコファンでした)。0:45からのコード進行と弦のフレーズは今聴いてもゾクゾクします。
民謡をアレンジするのが好きすぎて、いまは自分でも妻・えぐさゆうこと一緒に奄美や屋久島の古謡をやっております。細野さんは木津茂理さんのアルバムでも民謡を歌ってらっしゃいますが、もっともっと聴いてみたいです。

●「OPEN SESAMI」Sandii & The Sunsetz
沖縄音楽✕ニューウェーブ。イントロのドラムと808のハンドクラップ、そして三線を模したエレキギター。これだけでもご飯を何倍もおかわりできる勢い。
久保田麻琴さんは、近年、宮古島などの古謡の発掘やリミックスをされていて、とても刺激を受けています。

●「曙」ゲルニカ
リリース直前に雑誌『サウンドール』で「戦前の歌謡曲と近代クラシックの融合」と紹介されていて興味を持ちました。音を聴かないでレコードを買ったのは初めての経験。
戸川純の「女優が歌ってる」感もあって、この曲はまるでミュージカルか音楽劇の中の一曲のよう。ってそんなこといったらこのアルバム全曲そうですね。
上野耕路さんが当時フェイバリットで上げていた中に近代フランスの作曲家であるプーランクが入っていたのですが、影響されて僕も大好きになりました。

●「鏡の中の10月」小池玉緒
散開間近のYMOの作曲と演奏。ミカドやクレプスキュールの流れを組む雰囲気ですが、この路線のYMOのアルバムも聞いてみたかった気がします。選曲してから気づいたのですが、Aメロのシーケンスのフレーズは、恐らくドビュッシーの「夢」の引用かも。

●「僕のマシュマロちゃん」MANNA
初期ピチカートⅤのメンバーだった鴨宮諒が、ボーカルで作詞の梶原もと子と組んだユニットの1stアルバムから。フレンチ・ポップ寄りのテクノなサウンドが心地よい。いま改めて聴くと歌詞が結構ドキッとしますね。

●「Galaga」
細野さん監修でアーケードゲームの音楽を集めたアルバムから。自分はゲーム音楽をピアノソロで聞かせる「ピアコンズ」というプロジェクトに参加していましたが、「マッピー」はこのアルバムを聞いて参考にしました。この「Galaga」の1:04以降のダビングによるアレンジは、YMOの1stを連想させます。テクノって当時は「冷たい」って言われることがありましたが、自分はそんなことは思わず、むしろそれまで聴いたことのない「ロマン」を感じる音楽でした。

●「おいらを呼ぶドラマ」タモリ
戦後歌謡史のパロディであるアルバムから。
後にミュージカルレビュー『ダウンタウン・フォーリーズ』でご一緒する高平哲郎先生の構成・演出・作詞。「♪俺らはドラマー やくざなドラマー」が「♪テレビのドラマ やくざのドラマ」に。「この野郎、かかって来い!」のセリフは「最初は日テレだ ホレ、フジテレビ」と続きます。このアルバムをベースにした特番が当時フジテレビでありました。
収録曲の大半がMV化されていて、そちらも最高でした。再放送とかはもうないと思いますが…。『ダウンタウン・フォーリーズ』ではミュージカルをはじめとした色々なパロディもよくやるのですが、高平先生の言葉を操るセンスに毎回脱帽しています。

●「シムーン」江草啓太
ゲイリー芦屋さんがご自分がカバーに関わった作品を挙げていたので、僕も真似させていただきます。ピアノソロのシングルを植松伸夫さんのレーベルから出すことになり、「YMOのカバーを一曲入れてほしい」とリクエストがあって選曲したのがこれです。手前味噌でスミマセン。リリース後、朝崎郁恵さんのコンサートで細野さんとお会いする機会があり、CDを手渡しさせていただきました。二言、三言交わしたのですが、発する言葉すら細野さんの音楽のようで感激しました。