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直島 護王神社

杉本博司の国内評価が「写真家」から「現代美術作家」へと知られる契機となった作品。瀬戸内にある香川県の直島に2002年10月完成しました。

ベネッセアートサイト直島「家プロジェクト」4作目です。
朽ちかけたとはいえ現役のれっきとした神社を再建しアートにするもので、杉本博司の初期建築作品です。

計画当初は地元の方に心配されたそうだが、結果、神社としてもアートとしても大成功した作品といえます。
成功したのはそのためのいくつもの"仕掛け"があったのです。

神社全体の雰囲気


・白い玉砂利の中央に巨石があり、その上に神明造の拝殿が建ちます。
・後方に本殿がありガラスの階段でつながっています。
・巨石は古墳の蓋であり、地下の石室に入ることもできます。
このような造りになっています。

巨石の上の建つ拝殿と本殿
ガラスの階段がみえる

ゆっくり見学したいです

拝殿と本殿の佇まいは、伊勢神宮の中で最も古式を残す別宮の瀧原宮を目視採寸してモデルとしています。作品名である「アプロプリエイト・プロポーション」は、直島のこの場所にふさわしい究極の最適な比率で造られたことを示しています。

24トンもある巨石は、岡山郊外の万成山で見つけたもので、神が降りる磐座でもあります。
豪族による古墳時代が終わり、天皇家による伊勢神宮成立する間の時期が"あったかもしれない”という歴史を想像したものとのことです。

岡山から船で運んできた巨石


地下は「過去の古墳時代」「黄泉の国」を、地上は「現代」現世」を想起させます。
それらを貫いているのは、石室に入るコンクリート製のボックスカルバートの狭い通路とカメラのレンズに使われる光学ガラスの階段です。
通路はひとが通ることが出来ますが、光学ガラスの階段は、ひとは通れず、神のみが通ることが出来るのです。

神のみが通る光学ガラスの階段


地下の石室に入るには神社前でチケットを見せて懐中電灯を受け取ります。
社殿海側側面の一段下がった場所から、コンクリートの通路を真っ暗な奥へ進みます。

石室への入口


石室内の奥、光学ガラスの階段を通して地上からの光がほのかに届き、石室の水たまりに反射しています。

石室内でふと気づきました。
「これはカメラの構造だ」
杉本が写真を使った現代美術作家であることを思いだします。
ボックスカルバートから挿入された肉体と精神はフィルムであり、光学ガラスからの光で感光する・・・
どんな"現な像”を?

石室内の様子


コンクリートの通路を杉本はタイムトンネルと呼びます。

コンクリートのタイムトンネルを通って古代の石室を訪ねたあと、また同じ道をたどって現代へと戻る途中で、ふとその目の前の海が有史以前から連綿と繋がっている海であること、古代の人々もこの海を同じように見つめていたであろうことに気づくかも知れない。

「苔のむすまで」新潮社2005年

わたしは死者の住む黄泉の国と想像しました。
石室から戻る時はとりわけ背後の暗闇を敏感に感知します。
ひと一人分の幅しかない狭い通路はなぜか黄泉平坂を連想しました。
背中に闇が迫るのが判ります。
そして前方の明るい光の中から瀬戸内の《海景》を見つけるのです。
おおきく一息深呼吸をして現世に帰還したことを確かめたのでした。

隧道から見える”海景”

護王神社は杉本博司設計、建築家木村優氏、彫刻家よしもと正人氏によってなされたものです。なお古墳部分の施工は鹿島建設とのことです


護王神社の模型
(拝殿は省略されている)
「杉本博司ギャラリー時の回廊」内に展示


家プロジェクト共通チケット


護王神社の地上部分はいつでも見学できます。何しろ現役の神社ですので。
地下に入るためには、家プロジェクト共通チケットが必要です。

家プロジェクトの鑑賞チケット
https://benesse-artsite.jp/news/20240801-2963.html


護王神社の御祭神


竹内宿禰命(タケウチノスクネノミコト)
大雀命(オホサザキノミコト)仁徳天皇『古事記』の表記
沖津彦命(オキツヒコノミコト) 
沖津姫命(オキツヒメノミコト)夫婦の竈の神


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