アパレル業で私が知ってる事-Intro-

アパレル業の流れって、まあ割と複雑です。洗練されていないっていうか、洗練のしようがないっていうか。なのでアパレルって他業界から見れば「もっと上手くやれるんじゃね?」的に見えるかも知れません。

現実問題として、一定条件をクリアすることで「もっと上手くやれる」のは事実です。ユニクロなんかは「上手くやって」ますから。

でも実のところ「上手くやってる」会社ってユニクロしか知らないんですよね。それくらい「上手くやる」のが困難な業界でもあったりします。

じゃあなんで「上手くやる」のが難しいのかってお話を始める前に、アパレルの全体の流れを図示してみます。細かいことを言い出したら本気でキリがなくなるので、あくまでも概要です。文字での記載になりますから、多少わかりにくくはありますが、ご容赦ください。大きくは上流・中流・下流にわけるのが一般的です。順番に見ていきましょう。

上流工程:生機→紡績→織(編み)(場合にもよるが、生機からだと1年以上前に発注するのが基本)

中流工程:裁断・縫製→(服の形になってます)→プレス・袋入れ・タグ付け等→アパレルへ納品(工場の状態にもよるが、2か月から4か月を見ていました)

下流工程→商品卸売り→小売店舗→消費者

ってな感じになります。生機からスタートして、商品になるまでに約2年間かかります。まあ予想なんかできたもんじゃありませんし、紡績からであれば、4か月~5か月の生産リードタイムが標準でした。

メーカーの規模やブラント特性によりますが、アパレル会社は最大で上流工程の最初の生機の段階から関わり合いをもつのが一番幅広いパターンです。中小企業だとテキスタイル業者から反物を購入して、以降の業務を流していく場合も多くみられます。ちなみに染色加工っていうのがあるのですが、生機段階で染める先染め、反物になってから染める後染め、製品が出来上がってから染める製品染めがあり、順序の特定は困難っていうか無理です。

問題なのは、上流の各工程を一つの工場ではつくることができないという事実です。紡績工場は紡績しかできませんし、織や編みは専門工場がやることが多いです。ひょっとしたら紡績と織は同じ工場でできるようなところもあるかもしれません。特徴は大ロットだということです。

テキスタイル業者は、要するに反物を扱う業者です。大ロットで生産された商品を、言ってみれば小分けにして販売するイメージで認識してくだされば、概ね間違いではないです。テキスタイル業者が紡績や織・編みの発注代行を行ってくれているパターンも頻出します。

アパレル業社は、それなりの規模になれば企画段階で組成や糸太さやテキスタイルの段階から拘りますから、直接紡績に発注することも少なくありません。ただし、紡績会社や織・編みの会社の考えるロットっていうのは非常に大きいので、かなり大規模な企業でも大量発注による規模の経済性は働きません。下手したらマイナス側に働くくらいです。アパレル会社からすればかなり多い発注のつもりであっても、紡績会社とかからすれば「最低ロット未満」だったりする事が多いんですよ。中小規模だとテキスタイル会社から必要分を購入したりします。割高ですけど必要量が少ない場合には重宝します。

さて、ここで一工程、ややこしいのが存在しています。染色です。染色会社は別に存在しているのですが、染色するタイミングは生機段階で染める先染め、布になった時点で染める後染めという二種類が主流です。特殊なものになったら製品になってから染め上げる製品染めってのもあります。どのタイミングで染色するかが商品によってことなりますから、ライン上に固定できないんですよ。

このあたり以降は中流になります。

上流で作成して仕入れた反物は次に裁断・縫製に移ります。縫製工場に持っていきます。裁断機は縫製工場にもあることが多いのですが、この手前でパターニングとグレーディング、及びSKU別の生産量が決まってなければほとんど何も指示できませんから、アパレルはこの頃までに生産量を決めておきます。ちなみにアパレル会社は縫製前に商品タグやボタンなどといった副資材を準備しておきます。材料無かったら縫えませんから。

で、縫製が終ったら色やサイズ別に商品タグをつけて、袋に入れたら商品としては完成です。たまに製品染め加工があったりもしますけど。

アパレル会社は、多少の誤差はありますが、基本的に仕入れるまでにこれだけの事を管理する必要があります。めんどくさいので商社使う事もありますけどね。

ちなみに期間で言えば生機からスタートすれば軽く1年半程度で、反物になってからは数週間~数か月になります。工場の込み具合とかにもよるんですが、中国で通常商品なら2か月程度ですかね?縫製箇所が多い防寒コートかはもっとかかります。ロットの話をすれば、まあ中規模ロットですかね。国内だったら少量でも対応してくれる工場がありましたが、ミシンのラインってのは何十枚かを実際に縫製しながら調整をかけるので、例えば50枚生産とかって言われたら、調子が出てきた頃にその製品の縫製が終了します。

もう一つ縫製関係でめんどくさいのは、布帛とカットソー(ニット地)では使うミシンが異なるってところです。大抵の縫製工場はどちらも置いてはいるんですけど、布帛物ばかりだから全ライン布帛を縫おう、とかっていう融通はそんなに利きません。ですのでこのタイミングで最重要なのは、工場を確保することだったりします。ここでしくじったらほぼ確実に納期遅延で、販売ロスが発生しまくります。

ちなみに、上流は大抵の場合大ロットです。ちょっとした大会社でも規模の経済性を働かせるレベルの発注は、ぶっちゃけほとんど無理です。ちなみにいろいろな商品で同じ素材を使うのは、大量の反物を少しでも多く消化するための生活の知恵です。ユニクロはこのあたり非常に上手です。それこそ規模の経済性が働くであろう量を反物で生産して、各種商品に同素材をつかいまくるっていう方法でクリアしていると考えられます。ですからユニクロは素材種類で数えればわかりますが、商品種類と比較して、かなり種類は少ないんです。

さて中流に入りますが、要するにアパレル企業が得意先に商品を販売するフェイズです。ここで重要なのは、シーズン最終ちょっと前の段階での倉庫内完売です。昔いたアパレルでは展示会で受注を取って、基本的には受注発注していました。これ、逆に言えばサンプルは展示会前に作成修了している必要があるってことです。まあ間に合わずに代用生地とかも使ってましたし、露骨に不都合がある場合は製品化するまえに改善したりもしてました。ただ当時は売れると見込んで反物を事前に発注してやがったりした分が全く売れなかったりとかしちゃった事も多く見受けられました。本来なら生産数量が決定してから発注っていうのがルールなんですけど、それじゃ間に合わない場合も多かったんです。ちなみに当時は各店舗が自由に発注していましたから、まあ苦労しまくりました。また、製販会議がありまして、最終的に何をどれだけ作るのかを決める会議がありました。まあ主には少なすぎてつくれないから、中止した方がよくね?的の商品の生産中止です。一応コーディネイト上で必須なアイテムとかもありますので、全商品を確認しながら中止するかどうかをいちいち判断します。ぶっちゃけめんどくさかったことを覚えています。

いざ商品を出荷する段階では、当初店舗で発注していた商品を順番に送るだけなんですけど、困ったことに、いろいろな理由で生産計画通りの数量で商品が上がってこなかったりなんかは日常茶飯事です。正直言えば、ジャストの数字で上がる方が珍しいってレベルです。多ければいいんですけど、少なくなったら店舗の発注一覧を見ながら「ここはこんなに要らんやろ」とかってのを独断する仕事をしてました。当然ですが、利益率が高くて支払い状況が良くてよく売れる店舗に最優先です。逆に利益率が低かったり支払い状況が悪かったり、売上が低迷したりしている店舗には送らないようにしたりしてました。契約上問題があるのは事実ですが、特に支払い状況が悪い店舗はそれを理由に商品減をしていましたね。

あと、課とかが追加対応用に発注する場合もあります。このあたりは当時は、課の裁量でしたので、割と内容的には適当でした。また、結果論的にA課で残してB課で不足する、なんて事例も頻出していまして、まあA課の追加分の商品をB課の店舗に流すことも頻繁でしたね。

実はその後がありまして、残品処理という業務が存在しています。返品で帰ってきた商品の処分や、結果的に作りすぎて不良在庫が倉庫に滞留していたりするものを、まあバーゲンとかで販売してしまうっていう処理です。私たちは「最終消化」って言っていました。

このあたりが、SPA化やIT化を推進する以前の、いわゆる卸売り業態でのビジネスプロセスの大枠です。

ちなみに、量販店は(子会社として独立していましたけど)基本的に買い取り、専門店は発注した分を全品買取という条件がほとんどでしたが、百貨店に関しては「消化仕入」っていう、店頭で売れた分だけ仕入れが発生するという方法や「委託仕入」と呼称していましたが、要するに返品・マークダウンなどといったロスの部分はアパレル会社が最終負担(マークダウンの場合は一部は百貨店負担ですけど)するという、なかなかに理不尽っぽい契約になっています。値引きも返品もロスですから、ロスをアパレル会社側が受け持つってルールなんですよ。まあその代わりに掛率は高く、返品特約付き買取(慣習的に委託って呼びます)は65%前後、消化の場合は盗難等によるロス分も考慮して70%が基準値でした。

面白い事にショッピングセンターの平場の主流は買取条件で、その分掛率は安く設定されています。50%が基準ですかね。でもこの買取条件には罠がありまして、展示会発注分のうち、売れたもののみがPOSデータなどに基づいて買い取ってくれるってだけなんです。つまり、展示会での発注ベースで見れば、未出荷で商品が社内に滞留するんです。もともとは百貨店&専門店相手の商品群と、ショッピングセンター用の商品はブランド単位で区分けしていましたので、ショッピングセンター用の商品って、はっきり言えば不良在庫だらけでした。当時の私は本社のみの担当でしたから(当たり前ですが)、かなり後になって、子会社が合併した時には不良在庫量のものすごさに文字通り頭を抱えたものです。

まあ多少横道にそれたりはしちゃいましたが、アパレル業ってのは大体こういう感じで回っているのが普通です。まあおおよそ想像はつくと思うのですが、職務別のプロフェッショナルはほぼ必ずどの部署にもいるのですが、ぶっちゃけ縦割り組織ですので、横の連携は全くできていませんでした。

SCM的な観点からすれば、この全体の業務を一つの流れとしてコントロールすることが最重要で、問題が発生した場合の適宜対応ってのが、まあ言ってみれば私のミッションだったわけです。当然なんですが、全部を一括でコントロールし、相手部門を納得させて実質的に支配下にするためには、全部の業務内容に精通しておく必要があります。ぶっちゃけしんどかったです。まあ、それでもなんだかんだ言いながら現場作業レベルまではたどり着かないまでも全工程は理解できていましたし、立場的には上位者である各部門の部長クラスを論破できる程度には専門的な知識量も手に入れる事ができました。並行してBPRも進めていましたから、変化した後の業務プロセスに関しては社内では私が第一人者です。発案者ですからね。そういう意味では「初めから終わりまで」を管理統括できる、かなり稀有な人間だとは思ってます。実際他に見た事ないもん。近いレベルな友人はいますけどね。一人だけ。多分まだ総合的には勝ってると思うんだけどなー(部分的には負けてるところも多いので勉強させてもらってたりします)。

実務レベルのいろいろな問題や課題に関しては、現場レベルのNo1に師事できたってのが大きかったですね。現場レベルのNo1は、部長クラスより現場的な知識が豊富ですから、

ですので、知識があって会社全体にとってのメリットを理解している状態でしたから、現状と改善案とその理由はきっちり説明できます。ですので大抵論理的に納得させる事は容易でした(感情的にはいろいろあったようですけど)。

アパレル全体の工程ってこういう感じなんです。個別に関しては説明不足もいいところかもしれませんが、まあ、Introですから。

あ、そのうち図で書こうかとは思っています。noteで図を表示できるようになったらですけどね。このあたりは技術の向上に依存しますから、いつになるのかは、まあ・・・期待せずに待っていただければ。苦笑。

以降、総論を踏まえながらではありますが、各論の話を進めたいと思っています。第一回目っていうか、本論1回目は、まずはマークダウン絡みのところをやろうかな、とか思ってます。多分小売業界全体から見た時に一番の特徴じゃないのかな、と思いますので。まあ、あれにはあれなりの必然があって、現状がそうなっちゃってるんですよ。ですから「なぜそうなっちゃったのか」とか「じゃあ本来の適正価格ってどれくらいなのよ?」的な事が書ければいいのかな?とか思ってたりします。


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