アパレル業界で私が知ってること(データ分析篇2):昨年通りに売れる保証なんてどこにもないよね?
さて、世の中的にはPOSデータがあるのが当たり前になっていますが、実のところ私のPOSデータへの取り組み方ってあんまり一般的じゃないかもしれないんですよ。このあたりは実はどうなのかはわからないんですけどね。まあ私の取り組み方って、端的に言ってしまえば「POSデータを盲信してはいけない」って考え方からスタートしているってだけなんですけど。
POSデータが参考になるのは事実です。実際に参考にしたからこそ上手くいった事も多くありますし、POSデータが無ければそもそも生まれなかった発想も山ほどあります。
でも、POSデータって絶対視してはいけない根本的な理由ってのがあるとも思っていて。端的に言えば流行が変わったら変化前のPOSデータなんか何の参考にもならないよね?って事です。
実は、イトーヨーカ堂がPOSシステムを本格的に組み込んだ、比較的早期の段階でイトーヨーカ堂の売り場を見る機会がありまして、正直言いますと愕然としました。同じものばっかり並んでいたんですよ。もう笑えるほどに。っていうか思わず笑ってしまいましたから。次にものすごい恐怖感を感じたんですよ。「そういやうちもPOS取ってたっけ?」って。まあ幸か不幸か、この事そのものは杞憂だったんですけど。
実はそれ以前にも危険かな?っていうサインは感じていた事も笑ってしまった理由の一つです。具体的に言えば黒スパッツです。
90年代前半って、女性のボトムスと言えばスパッツだった時期がありまして、Aラインのトップス&スパッツがベースっていうか、黒スパッツさえ切らさなかったらボトムスで悩むことは一切ない的な時期がありまして。丁度そういう流れが下火になってきて、ボトムスのバリエーションを増やさないといけないんじゃね?的な事を企画と話し合って、実際にボトムスバリエーションを増やしたりしたわけですけど、そういった事を感じていた後に、イトーヨーカ堂の売場という、POSシステムからの結論の結実を見てしまったわけです。衝撃的でしたね、正直言って。POS怖ええええ!って感じでした。
あと、このあたりではもう一つ苦い事例も持っていまして。某女児ブランドを立ち上げる際に、まあ端的に言えば会社的に見込み通りに展開店舗を増やすことができなくて、当時作っていた商品の半数を一年間死蔵するしかないよね的な結論が出て、まあその通りにしたことがあったんです。
ちなみに、当時生産していて、越年させようとしていた商品のボトムスってのはブーツカットばかりでした。このあたりで勘が良い人は気づきますよね。はい。越年させた時にはブーツカットは流行おくれで全く売れなくなっていたんです。笑うしかありません。幸か不幸かギリギリのラインで「やっぱ新規商品作らんとやばいんじゃね?」的な話になりまして、店頭的にはなんとかなったわけなんですけど、1年間死蔵した商品が日の目を見るタイミングは失われました。トホホです。この場合、実際に販売していた1年目の段階ではなんだかんだで売れてはいたんですけど、この段階で陰りが見えてたりしまして。
こういった事例を、自社のPOSデータ分析の環境が整う前段階で見てきてたんですよ、私。ですから最初の段階から「所詮POSって過去事例だよね」っていう見方をしていまして、要するに「POSがこうだったからどーのこーの」じゃなくて「POSではこうだけどどーのこーの」っていう考え方からスタートしたんですよ。
文字にしちゃうと微妙な差なんですけど、この差がわかっているのかいないのかで精度が段違いに変わるんです。ちょっと具体的に書いてみますね。
はっきりした年度までは絞り込めませんけど、私がPOSデータの分析に取り掛かったのは多分2000年代前半です。少なくとも2005年には全店舗一括発注を行っていましたから、その時にはある程度分析を終えていたはずです。世の中的な本当のところってわかりませんけど、多分わりと早めで、まあアイテムとかも未分化だっただろうってのを前提に話させてもらいます。
例えば、前年はトップス&ボトムスのコーディネイトで販売していたブランドがあるとするじゃないですか。それが流行の流れでトップス&インナー&ボトムスっていうコーディネイトに変化したとします。
そうなった場合、トップスとインナーが未分化な前提(まあ今でもある意味未分化だったりします。っていうかトップスとしか使えないとかインナーとしてしか使えない的な商品ってどちらかと言えば例外的です。Tシャツなんて最たるものですしね)だったとしたら、例えば前年はトップス:ボトムスが3:2で売れていたとするじゃないですか。
その場合前者の「POSがこうだから」的な視点で見たら、当然トップス:ボトムスの生産量は3:2になります。
でも後者の「POSではこうだけど」的な視点で見れば、トップスの販売枚数は多分2倍になるよねって考え方にいきつけるわけです。実際にはそういう売れ方が増えるってだけでトップス&ボトムスっていうコーディネイトが死滅するわけじゃありませんから2倍にはしないんですけどね。実際には商品のデザインを見て決めていくわけです。
つまり、コーディネイトのコンセプト的な物が変化した場合、アイテムバランスは変わるってのが前提なんです。
あと、最近の事例で小耳に挟んだっていうか、ぶっちゃけNewsPicksで見たんですけど、ユニクロが防寒物を作りこんで失敗しちゃったテヘペロ♪ってニュースがあったんですけど、これもPOSを素直に読みすぎた結果だって言えるんですよね。防寒物が欠品したって事は、その年の防寒物実績比率が上昇していたって事なんです、多分ですけど。でも防寒物ってそもそもが水物な面がありまして。これも端的に言ってしまえば「防寒物って毎年買う人少ないよね?」って仮説があったかなかったかって話に尽きるんですよ。
ここで仮に「今年は売れすぎただけだから例年並みにしとこうや」的な発想ができたのであれば、こういう事って防げたって思うわけです。
なんか偉そうに「防げたはず」とかって書いちゃってますけど、ぶっちゃけ何度も痛い目にあった結果ですから、個人的にはむちゃくちゃ反省しまくって対策考えた事例だったりするんですよ、これ。偉そうに書いてるっていうより、同じように痛い目食らった立場からの「これってついついやっちゃうよね?」的な目線ですかね?いや反省してます。
ついでに言えば次の年のPOSが示すであろう防寒物比率が下がるので、2年を1つとして考えれば辻褄があっちゃったりしたりもします。でも新しい商品が出ればそっちが先に売れますし、ユニクロなんかで言えば機能的に劣っちゃったモデルを再販できるのか?っていう問題とかも生じそうです。難しいところですねー。
POS分析をする際には、こういった事をきちんと理解しておく必要があると思ってるんですよ。じゃあ具体的にどうするのよって言われたらちょい困る面もあるんですが、個人的にこだわっていたのは「売れた理由」「売れなかった理由」っていうところまでアイテムカラーサイズ別に落とし込んで理解した上でPOSデータに臨むってのを考えていました。あ、当然価格帯もですね。
他には、そうですね。例えばデザインコンセプトが異なれば売れ方が変わるってのもありますし、メインターゲットをブランドファンにおくのかマスに置くのかってのでもPOSの見え方は変わります。このあたりなんかは52週分析とかの中で見えてくるものもあったりなんかして、まあ面白くて仕方がない所でした。実際にサンプルが上がってきた段階で「この商品のメインターゲット層はブランドファンだ」とかって企画と一緒に盛り上がって、じゃあそういう位置づけで考えようっていう軽いノリで商品展開時期を変更したら大当たりした事もあります。大当たりすぎて欠品したりしてそれはそれで地獄をみたりなんかしましたけど。このあたり商品のディストリビューションっていうか、コントロールっていうか、そういう側で問題視されちゃったりなんてのが裏表だったりします。いや本当に奥が深い。苦笑。
ですから、データ分析者と企画者との間での意見交換ってのは本当に重要です。断言です。私がするのってわりかし珍しい事なんですけどね、断言。このあたりは両輪みたいな感じで、企画としてこういう意図だったら過去のデータから想定される売れ方ってどう変化するのよって言うのを分析できないとPOSデータの分析としては中途半端だと思ってて、計数的な要素からのアプローチとデザイン的な要素からのアプローチとを融合させ続けないといけないと思ってたりします。まあ当時の企画とは言い合いとかしょっちゅうでした。でもお互い歩み寄りの姿勢があるのがわかっているのでどんなに熱が入ってもそういった安心感の上で言い合ってましたけどね。ちなみに互いが歩み寄りすぎてすれ違った事があります。商品を中止するしないの話をしてたんですけど「お前ら、俺が席を外す前と後とで言い分が逆転してるやん!」って当時の部長に大笑いされました。
まあ、ある程度まとめ的に書いちゃうと、POSデータを参考にしながら発注とかにまで結びつけるためには、企画意図をしっかり取り込んだ上でPOSデータと向き合って、そこで更に咀嚼して実際の発注数を決める、っていうのが大事になってくるんだと思ってます。まあ発注数を決める段階でロット的にダメってのはあったりしましたけど。1SKUのみ中止とかって私の得意技でもありましたし。1SKU5枚だけとかって中々作ってくれないんだよなー。苦笑。
まあ、言葉で書いちゃうと大げさなんですけど、要するに普段から商品を見てれば意識しなくてもできるようになります、多分。大事なのは商品を見る事ってPOSデータを見る上で必須なんだよっていう考えだけで、それさえあれば大抵はなんとかなります。実際私がそうでしたし、当時の部下なんかはそういう話をきちんと理解してくれていたおかげで普通にやってましたから。っていうより下手に長になってからこのあたりで下手に上からな見解とか述べたりなんかしたら部下に3倍返しとかで言い込められてました。苦笑。
まあ、実際の分析のお話の手前感があるんですけど、次回くらいからは、じゃあ具体的にどういう事とかやってたのよ的な話になればいいなーとか思ってたりします。多分なると思う。なるんじゃないかな?いやちょっと覚悟はしておいて欲しいかも。汗。
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