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アパレル業界で私が知ってること(生産管理篇):生産管理ってマジで大変すぎる。

 いやー。これな。マジこれ。
 NewsPicksで上がっていた記事なんですけど、本当にこういうのが山ほどありまして。
 私そのものは生産管理としてダイレクトに仕事をしたことは無いんですけど、商品の入荷数量とか入荷予定とかにダイレクトに響きますからその関係でこういうのはいろいろと聞いていましたので、ちょっと感慨深いといいますか、あるあるだよなーと思いまして。

座波ケニアさん とおっしゃる方がtwitter上で記載していらっしゃるようなのですが、なかなか面白くて面白くて。

https://twitter.com/kekekeity が座波ケニアさんのtwitterです。

 ですので、商品管理でのいろいろな事を折角思い出したので思い出しているうちに書いてしまおうかと考えた次第でございます。まあ、なぜこういう事が起きているのかっていうのと、そもそも生産管理って何?ってお話とかもしながらって感じですか?

 まず、いわゆるアパレルメーカーって言われているところは、大抵の場合自社で工場とかを持っていません。最近の言葉で言えばファブレスですね。 
 まあ自社工場を持ってたりする場合もあるんですけど、でも実はそういう問題じゃなかったりもします。

 そもそも、服を作るのって、まあ考えてみればわかるんですけど、かなり工程数が多くって、生機(原料)→紡績(糸にする)→織or編み(生地にする)→裁断・縫製→仕上げ(プレスとか袋入れとかそういうのもろもろ。ここだけでも多い時は多いです)というのとプラスして、途中のどこかで染めないといけないという流れがメインとしてあって、副資材っていうボタンとかファスナーとかネーム(まあ服についているブランドタグだと思ってくださればいいかと)とかっていう材料とを途中で投げ込んでいくって感じで進められます。

 この流れ全部を一つの工場で行う事はぶっちゃけ無理すぎます。このあたり、同じものばかり延々と作っていくというのが現実的ではないっていう、衣料というものの厄介なところでもありまして。
 例えば男性用の肌着なんかであれば同じものを延々と作り続けられますから、ひょっとしたら一つの工場で完結できる可能性はありますけど。グンゼの肌着なんかはそういう作られ方をしているのかも知れません。グンゼって元々絹糸屋さんだったはずなんです。それがナイロンとか扱いだしてっていう、そもそも糸屋さんからスタートした会社だったはずです。
 でも、普通のファッションアパレルメーカーは、使う生地を変えたりとかっていうのがわりかし前提ですから、そもそも一つの工場からしか仕入れをしないとかってできないんです。綿糸を作る会社に絹糸を発注しても断られます。当たり前なんですけどね。
 

 糸だけとっても綿とか絹とかウールとかナイロンみたいな石油系とか、この段階でいろいろありますし、混紡っていって、糸を撚り合わせる段階とかでこれらを混ぜて使ったりもします。
 生地にする段階でも、大きくは織物と編物(ちなみにTシャツとかでよく使われている天竺という素材というか編み方の生地は、編物です。織物じゃありません)っていうところから違います。織り方も編み方も種類がいろいろありますから、ここでもいろいろ種類が出てきます。
 縫製段階でも織物と編物とではそもそも使うミシンが異なりますし、トップスが得意とかボトムスが得意とかっていう得意不得意とかが出たりもありますし、ナイロンとかだったら、スリップとかスリッポンとかっていって糸が滑って解れていく事が起きますので、それを止める加工とかができるところで縫わないと縫製したところが割けてきます。

 まあ、要するに、一つの商品を作るって言っても、その前段階で「どういう糸組成で」「どういう織or編かたで」「どういう縫製で」っていうのを一つ一つ選択していく必要があるんです。
 こういうのとか、特殊な加工とかだったり、その工場では行っていない工程とかが間に入ると、二次加工っていってそういうのができる工場に一旦渡すんですよ。そうしたら、元記事の【に】みたいなことが起きたりします。

 まあ、こういった流れ全体を誰が管理するのかっていうのが、ここで出てきた生産管理っていうお仕事の人たちです。単純に「生産」とか呼んでたりしますけどね。

 生産管理部門のお仕事は、こういう全体管理に加えて、要尺っていう、仕上げたい商品数を作るのに必要な材料(というか布)の長さを計算して発注したり、副資材を事前に発注したりっていう仕事があります。ここでは金額交渉とかもしたりしますので、まあいろいろ大変です。特にサンプル段階で工場を押さえておかないといけない場合なんかは、ある程度の予想数量を工場に伝えておく必要があったりもします。

 なんでこんなのをアパレルメーカー側が管理するのかって言うと、現実的には「そうしないと商品が上がってこない」からです。数社の工場を介在しますから伝言ゲームなんてやってるとその時間のロスで商品が上がらなくなりそうです。
 もう一つの理由としては、そもそもアパレルメーカーって「委託加工」っていいまして、メーカーが材料を買って、工場は作業賃のみを負担して次の工程へ流して…っていう感じの管理をしていたっていう事もあると思います。
 端的に言えばこういう工程の流れを管理する時にメーカーが一番スキルが高くて、ついでに一番深刻に工程を管理する必要があったっていうあたりがメーカーが工程管理している理由だと思います。

 まあ、ここのあたりを商社に丸投げすると楽はできるんですが、上がってこない時はやっぱり上がってきません。強いて言えば約束した納期に商品が上がってこなかった場合ペナルティを課すことができるとか、ミスがあった場合納品拒否できるっていうあたりが商社を挟んだ時のメリットで、その分手数料を取られるってのがデメリットです。ぶっちゃけ商社を使おうが直接管理しようが遅れるときは遅れるんです。アパレルメーカーって、できた商品を販売するのが(も、かな?企画とかもしてるから)お仕事ですから、遅れて納品されるのを放置してたら売るものが無い状態になっちゃいます。

 で、そういったやり取りの中でいろいろと問題が発生するんです。日常的に。はい、日常的に、です。いや本当になー。

 この中には人為的なというか作為的なものとかもありまして、裁断する際って生地がまっすぐになるように引っ張って裁断するんですけど、伸びる素材とかだったら引っ張りすぎたら後から縮むんですよね。当たり前なんですけど。ずるいっていうか、まあバレてる時点でずるいっていう程じゃないんですけど、まあ会社によっては意図的に引っ張り気味で裁断して生地を余らせたりとかしてる場合もありました。製品段階ではプレスして伸ばせるんですけど、洗濯したら元のサイズに縮みます。それでなくても綿は洗濯したら縮むっていうのに、プラスして縮みます。かるたにあるような縫い代ちょっとかぶったくらいなら(本当は良くないんですけど)可愛いものです。まあ品質管理が厳しい会社にいましたからそういうのを見つけたらアウトにしてましたけどね。テヘペロ♪

 品質管理上の話でいいますと、まず布の段階で品質管理チェックをします。ここで布の強度とか、色落ちが無いかとかそういった生地の段階でのチェックをするんですね。ここでなにか不具合があった場合、当然不良品みたいなもんですから、反物の状態のままだったら返品とかできるんですけど、裁断してしまっていたら返品できません。【ひ】のやつですね。品管ってのは品質管理部門の事です。多分。っていうか普通はそう。

 さて、日本で作っていてすらこういう問題は頻繁に出ていましたから、工場が海外にいったらさらにすごい事になります。意思の疎通でのミスなんてのはザラだったりしますから。まあこのあたりは中国だけの話にするなら割と近年は少なくなってきてましたから今なんかはさらに少ないと思いますけど。

 海外で作った時特有の問題としては、輸入に関わるいろいろがあります。距離的に遠いってのがありますし、コンテナ輸送で船便です。FOBっていう、日本語だと船積み渡しっていうんですかね?船に積んだ瞬間に納品した事にする約束のパターンが多いんですけど、その時はインボイスっていう納品書が先行して送られてくるんですけど、工場が「出来ました」って言ってるのにインボイスがいつまでたっても届かないとかって事があったりします。言ってるだけな可能性もあるわけなんですけど、物理的にすぐに見に行くことができません。
 台風が来て船が引き返すなんて事もありました。一度なんか船が沈みましたからね。ちなみに船とともに沈んだ商品ってのが売れないのになぜか大量に作られていたものだと聞いて「保険かけてるの?」「かけてる」「ラッキー♪」って個人的に思っていた(というか思いっきり言ってましたけど)事もありましたねー。懐かしい。
 台風絡みで言えば待ち望んでいた商品のインボイスが届いたので期待して待っていたらいつまでたっても届かないので聞いてみたところ「台風で船が引き返した」との事です。仕方ないなーとか思っていたんですが、続報で「瀬戸内海まで来てたんだけど」って聞いたときには脱力しました。いや引き返すくらいなら港入れよ。まあ実際のところどういう判断がされたのかは不明なので妥当なのかどうかわかりませんけどね。

 まあ、生地の裏表間違えて裁断したりとか(服って意外と線対称じゃないですから。前開きのシャツとかそうですね)、そういうのって割と致命的だったりします。工夫してなんとかなるならいいんですけど。
 生地の話で言えば、特に色物なんかの生地だと必要数を1ロットで作りきらないと後からは作れないって事も多いんです。染め加工って湿度や温度やその他もろもろでデリケートですので、まったく同じ色に染めるってのは案外無理ゲーなんですよ。特に赤。ちょっと色ブレしたらすぐわかりますから困ってたりします。あとは意外と白。お店とかで同じ商品なのに微妙に色が違ってたりしたら「あー、Bロット(二回目生産の商品の事を呼んでたりします)なんだなー」とか思って生暖かい目で見ていて頂ければ。

 当然ですがメーカー側がミスしたりとかもします。服の設計図みたいなのを仕様書って言うんですけど、後からミスがあったり、展示会での要望を反映させようとして後から仕様変更してみたり、他の類似商品でクレーム案件になったので仕様を変更したりってのも、まあ多くはありませんけどあります。
 あと用尺計算でミスをしていた場合なんかは、生地が異様に余って工場側から「用尺あってますか?」とか聞かれたりなんかもします。両方でチェックして、両方間違えてたりとかもあったりして。笑。

 まあ、とんでもないミスとかも結構あったりしますけどね。でも割とデリケートなんですよ。ボタンのつける位置なんかは1mm違うと案外おかしくなったりする場合もありますし。
 大量生産されているイメージがあるのでこのあたりピンとこないかもしれませんが、服って案外工芸品的な要素が結構ありまして。例えば布地が変わったらミシンの調整とかをするわけですが、このあたりは機械化するのは至難の技だと思います。布の厚さで変わりますが、それ以外にも布の伸びやすさやら、生地の滑りやすさやら、織の糸密度みたいなのやら、そういった要因で毎回変わります。縫うのが上手な人はこの調整段階から上手い事が多いですね、実際。生地をミシンに送り込む速さとかつかむのも早いですし。

 このあたり、AI導入とかちょっと期待したいところなんですけど、ちょっと脳内でシミュレートしてみた感じでは、学習を繰り返させて、それでも多分なかなかうまくいかないって感じになるかと思います。パラメータを洗い出すだけでも一苦労でしょうし。生地をいろいろ検査してから縫ってみるみたいな事をボトムアップ型で学習させながらパラメータを割り出してはやり直しってのを延々繰り返す必要がありそうです。慣れた人間だったら生地をちょいちょい触ってみて「だいたいこのぐらいだな」からスタートしますから、人間の学習力っていうか経験って案外馬鹿にできないんだよなーって思います。将棋とかでも中盤に入る前までは人間優勢みたいですしねー。

 まあ、ダラダラ書いてみましたが、現実の生産現場とか生産管理とかってもっといろいろあるだろうと思います。上手くいってる場合には褒めてもらえないわりにミスがでたらいろいろ言われるっていう意味で、かなり不遇な扱いを受けている部門でもあります。でも本当に大変だし重要なので、ここがしっかりしているアパレルメーカーはやっぱり強いですよ、実際。

 と言いますか、委託加工の商品の生産量算出とかで、横で教えてもらいながらかなり詳しいところまで踏み込んだ事はあるんですが、本気でシャレにならないくらい大変です。紡績会社は生地を納品するって言ってきているタイミングで工場側では受け入れる場所がないから遅らせてくれとか、そういうのが山のように。アパレル業的なのは大抵はいっちょかみ的にこなしてきたつもりなので、わりかしどこでもやれって言われたらできる気がするんですけど、正直ここに関してだけは専属でやれって言われたら即座に逃げ出すと思います。いや兼任でも逃げ出すか。苦笑。


画像とか勝手に使ってるので問題あったら言ってくださいね。

 

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