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雨に唄えば

雨によって想起される私の心の原風景。

ここ数日、私の住む街では台風の影響なのか天気が安定していない。
晴れているのに雨が降ったり、穏やかな天気かと思えば土砂降りになったり。
今日こそは大丈夫であろうと洗濯物を外干しにするも、圧倒的敗北の日々。
明日着る服がない。ドラム式洗濯乾燥機に憧れを抱く。

雨が降ると、思い出す。
その様々な雨音や、ぼんやりとして何も考えられなくなるような湿気。体を濡らす水の冷たさ、ぬるさ。風や雨粒の当たる感触。貼りつく服や、水を吸って柔らかくふやけた皮膚。土の匂い。地面を、水たまりを歩く感触。
今までの人生で蓄積された雨の日の身体の記憶がぼんやりと浮かび上がってくる。

◆◆◆

実家の寝室で、並べた布団の上に母と二人で横たわる。
ふくよかな母の二の腕の下が、私のお気に入りの場所だった。石鹸の匂いがする。
窓の外は雨で、キラキラとした滴がベランダから見える木々を輝かせている。
まだ日も明るいのに「雨の日は動物さんも木の下で雨宿りして眠るから・・・」
そう言って母は電気を消し、私を寝かしつけようとした。私は分からなさを覚えつつも、母の言ってることが分からないのはいつものことだと思った。私は母と鹿の親子になった気持ちで、その気怠げな雨の日を森の生き物として正しく過ごそうとした。サラリとしたガーゼの上掛けが心地よかった。

◆◆◆

…....    Zzz  …….   


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