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化学の最前線:マテリアルズ・インフォマティクス(MI)がもたらす新しい可能性

近年、化学界隈で「マテリアルズ・インフォマティクス(MI)」という言葉をよく耳にするようになりました。
本テキストでは、そのマテリアルズ・インフォマティクス(MI)の概要、および企業での活用事例をまとめました。

マテリアルズ・インフォマティクス(MI)とは

実際にMIをネット検索してみると、おおよそ下記のような説明がされています。

マテリアルズ・インフォマティクスとは統計分析などを活用したインフォマティクス(情報科学)の手法により、材料開発を高効率化する取り組みです。
実験や論文を解析して素材の分子構造や製造方法を予測するなど、デジタル化の進展で膨大なデータをスーパーコンピューターなどの高性能な情報処理装置で操れるようになり、近年、素材分野での応用が広がりつつあります。

(株式会社日立ハイテクソリューションズ HPより)

要するに、「今までのデータを有効活用して、なるべく実験や試作を減らして材料開発をしましょう」といった取り組みです。

もう少し、詳しく説明します。

例えば、「耐熱温度200℃硬さ0の材料Aと、耐熱温度30℃硬さ100の材料Bを混ぜて、耐熱温度100℃硬さ50の材料を開発する」とします。
(硬さ50ってなんだよ、とかそもそもそんな材料ねーよ、とかご理解いただけない部分もあるかもしれませんが、その点についてはご容赦ください)

従来の材料開発ですと、AとBの配合比を変えて多くの試作品を作り、それらを評価して目標スペックを満たす配合比率を模索する、といったプロセスで行われてます。

しかし、この方法では数々の試作品を実際に用意しなければならないため、時間だけでなく材料や補助材料、作業者の人件費といったコストがかかります。
さらに、ここで開発した試作品はムダになるので、環境面でも悪影響を及ぼしてしまいます。

そこで、マテリアルズインフォマティクス、MIの登場です。

これは、企業内外から収集した関連材料のデータを分析し、実験なしに適切な材料開発条件を特定します。

この企業が材料AとBをよく取り扱うのであれば、どこかの部門で同様の検討を行ったデータがあるはずです。また、これらの材料がそれなりに汎用的なものならば、どこかのデータベースや学術論文にも同様の実験や評価をしているものがあるかもしれません。

MIではこれらの社内外のデータ(今回の例であれば材料AとBの、耐熱温度および硬さに関する実験データ)を集めて統計的に分析し、耐熱温度100℃、硬さ50を満たすAとBの配合比を見つけることができます。

これにより、従来の手法では多くの試作が必要でしたが、MIを用いることで実際に確認が必要なものが大幅に減少します

計算化学との違い

よく「計算化学と何が違うのか?」という疑問を目にしますが、これらは別物です。計算化学とは異なり、MIは材料の物性データなど、よりマクロなデータを扱います。

計算化学は、化学反応や分子運動を特定の近似モデルに当てはめ、シミュレーションしてその詳細を観察するものです。従って、MIよりもミクロな部分をスコープ範囲としています。また、理論を積み重ねて結論に導くプロセスなので、演繹的なアプローチです。

一方のMIは、個別の減少というよりは材料の物性データ等の、よりマクロなデータを扱います。プロセスも、大量のデータから傾向を出して結論を導くといった、帰納的アプローチとなっています。

近年、ビッグデータやデータサイエンスといった、膨大なデータから有益な情報を得ようとする動きが世の中で活発化しています。MIもその流れを受けて注目を浴びている分野であると言えます。


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