それは雨の日の朝

コンビニで数分間の買い物を終えて出入口の横の傘立てを見ると、さっきまであったはずの私の傘がなくなっていた。数日前の雨の日に別のコンビニで買ったばかりの傘である。

傘がついに来たるべきヒューマノイドとの聖戦のために、己の意思を持ちはじめ、自主的にその場をリープしたとは考えづらいし、他人の心に悪意を見い出すのは、出来ることならばしたくはない。

もう一度、傘立てをよく見ると、私の傘とよく似た色合い、形状、大きさの傘がささっているではないか。なるほど、この傘の持ち主が自分の傘と間違えて私の傘を持っていってしまったのであろう。

ボッロボロの
サッビサビなのである
…………これ
間違えるか?ふつう

煮えたぎる負の感情を内に秘めたまま、私はもう一度、コンビニの店内に戻り、傘を購入し、頬を伝うしずくはそのままに、ぼやけた視界の中で目的地までの雨の中を歩き出した。

比較的、治安がいいとされているこの国において、傘の窃盗事件は未解決のまま横行し後を絶たない。この国に降る雨は、傘をパクられた者たちの涙だと言っても過言ではないと言ったらそれはものすごく言い過ぎかもしれない。

それでも私は伝えたい
人の心にあるべき理性を
その手にあるべき傘を
奪い去ることの罪深さを

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